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私は運命を信じていない。けど、エチオピアとの縁はずっと持っておきたい、と今は思う。

「運命はあるか?」

協力隊員として派遣される前、訓練所の英語の時間にクラスメートとした討論。私は「ない」と思っている。
理由①:ある出来事を起点に振り返った過去にたまたまあった記憶との関連性を運命と呼んでいるように思うから。また記憶というのは脳で都合よく編集されやすい。
理由②:①とは逆に、きっかけの出来事(①で言うところの記憶)を運命だと思ってその後実現・達成した話は語られるけど、「やっぱ違ったわ」という話は残らないと考えるから。

なんだけど。


***

エチオピアは、全く私の配属希望に入っていなかった。

私はフランス語圏に行きたかったから。面接で「他の地域に配属されても行きますか?」と聞かれたときには「フランス語圏以外行かないと思います」と言った。第一志望はジブチ。

なので最初合格通知に記された英語圏の国名を見て目が点になった。あらら?と。少し考えたけど、再受験してもフランス語圏に行ける保証はない。時間がもったいないし現場に行けることには変わりないじゃん、と行くことにした。経験が大事。

70日の訓練も終わり、出発の日が迫る中、家の片づけをしていた時のこと。

私が国際協力に関心をもつきっかけになった本、「トットちゃんとトットちゃんたち」を見つけた。ユニセフ親善大使の黒柳さんが世界各地の子供たちを視察した記録の本。

タンザニア
ニジェール
インド
モザンビーク
カンボジア
ベトナム
アンゴラ
バングラデシュ
イラク
エチオピア
スーダン
ルワンダ
ハイチ
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ

協力隊員の派遣先としてよく聞く国名たち。古い本だけど、他地域隊員の方にとってもかつての任国の姿を知るのにいい資料ではないだろうか。
本に登場するこれらの国の子供たちは、すべからく何らかの困難と向き合って生きている。もしくは、生きようとしていた。

黒柳さんが尋ねた当時のエチオピアは100万人が亡くなった大飢饉のあとだった。ほぼ骨と皮のような見た目なのに、一生懸命歩いている男の子に衝撃を受ける黒柳さん。

その本で紹介されていたエピソードの1つが「大人になったら、何になりたい?」という質問に答えたエチオピアの女の子の話。

「生きていたい。」と彼女は答えた。

私がこの本のことを、どこかで懸命に生きる子供のことを忘れられなかったのは、この「生きていたい」があったから。
どこの国の話かは忘れていたけど、そうか、エチオピアだったのか。

任国は、私が国際協力を目指すきっかけになった地だった。


***

この本との出逢いも、今思えば、よく出逢ったなと思うようなものだった。

確か、小学4年生のころ。新聞広告に見つけた、「トットちゃんとトットちゃんたち」の文字。「窓際のトットちゃん」が好きだった私は、続編だと思い、近所のよむよむという本屋さんに買いに行った。

児童書コーナーをいくら探しても、ない。よむよむのお姉さんに聞いて連れていかれたのは、平積みのハードカバーの前。値段は税抜き1500円。思っていた額の倍。

今でも不思議だけど、私はその本を買った。
よく小4の私が1500円も持っていたなと思う。ホント不思議。
そして、全部読んだ。
ツチ族とフツ族のこと、ポルポト政権のこと、枯葉剤のこと、ストリートチルドレンのこと。全部この本で、知った。


「生きていたい」と答えた女の子をはじめ、その本に登場する子供たちの姿は、その後私の人生のさまざまな場面で思い起こされることになる。
給食のこれ好きじゃないと思ったとき。
勉強やだなって思ったとき。

でも、あの子たちは、なんで?
でも、私は、なんで?


その後国際関係とはあまり深く関わらない勉強をしたり、就職したりもしたのち、教育と開発を学んでエチオピアに行って帰ってきたが今これを書いている。

本って、誰かの人生変える力があるんだな。


***

このnoteを書くにあたって、エチオピアのページを読み直した。派遣前と今。また違った景色が見えるだろうと思って。

黒柳さんが描写するエチオピアには、とにかく木がなかった。長引く干ばつ、水も電気もない土地で生活するために人々は木を切らざるを得なかったそう。

同僚が「今日は木を植える日だ!」といった日のことを思い出した。
エチオピア全土で2億本の木が植えられた日。
役所を休みにしてまで、皆で木を植えていた日。

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黒柳さん、エチオピアはあの時から着実に前に進んでいると思います。それを私は自分の目で見ることができたんだな、と今更ながら思った。

私は本に書かれていた地方を訪ねる間もなく帰ってきてしまったけれど。それでも、雨期の任地:ディレダワは乾燥地の割に緑もあった。

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私は運命を信じていない。
けど、エチオピアとの縁はずっと持っておきたい、と今は思う。

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