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読書メモ:まどわされない思考

久しぶりの読書メモ。

タイトル:まどわされない思考 非論理的な社会を批判的思考(クリティカル・シンキング)で生き抜くために
原題:The Irrational Ape -Why Flawed Logic Puts us all at Risk and How Critical Thinking Can Save the World
著者:デヴィッド・ロバート・グライムス氏
訳者:長谷川 圭氏

元々この本の第5部、世界のニュースについて書いてあるところだけを読むつもりで図書館から借りてきた本だったのだけど、面白くて結果全部読んでしまった。

どういう本なのかは出版社の説明の方が分かりやすいと思うので、引用しておきます。

人間を他の動物と分けるものは、「思考力」だ。何が正しく、何が嘘かを見抜き、判断を下す。──はずなのだが、実際は人間は情報を読み間違い、だまされ、偏見や無知によって、誤った判断を下しがちだ。
なぜこのようなことが起こるのか?
物理学者でガン研究者、科学ジャーナリストとして、あらゆる種類の間違った判断を見てきた著者が、旧ソ連から中国、アメリカ、オーストラリア、イギリス、アフリカなど全世界の実例を挙げながら、まどわされずに思考するために何に気をつければいいのかを説く。
(引用元: https://www.kadokawa.co.jp/product/321810000044/)


感染症の拡大や各地の選挙、昨年のエチオピアの内戦でも、フェイクニュース拡散の話が気になっていた。また、あまり根拠のなさそうなことを頑なに信じている人たちは、なにに突き動かされてそういう態度なんだろうと思っていた。

そのため最近は思考や人の心の動きに関する本を読んでいて、この本はその中の1つだ。物事の正当性を主張するのに論理が使われるけど、その論理はうっかりもしくは意図的に正しくない使われ方をすることがある。そんな論理のゆがめられ方だったり、正しくない情報を広めるための数字や報道機関の使われ方が、様々な具体例と一緒に紹介されていて興味深かった。具体例にはワクチン接種反対論や代替医療、2016年のアメリカ大統領選、9.11など、読者の多くが耳にした経験がありそうなものが多く、想像しやすい。

ここでは著者が「偽りのバランス」と呼ぶものだけ紹介したい。「偽りのバランス」は以下のように説明されている。

対立する見解を、それぞれの見解を裏付ける証拠に大きな違いがあるにもかかわらず、同等に扱おうとするときに生じる現象

選挙の対立候補がそれぞれ、ある主張をする。報道機関は両者に公平であろうとするために、両方の主張を同じレベルで報道する。
しかし、一方の主張にはそれを裏付ける十分な根拠があるにも関わらず、他方にはそれがない。このときこの2つの主張は同等に扱われるべきではない、と著者は述べている。

そうだな、と思うと同時に、誰かの主張の十分な裏付けの有無を確認する能力が私にどれだけあるんだろう、と正直果てしなさを感じた。
今はなんでもインターネットで調べられるけれど、その情報は玉石混交。自分の専門分野ならまだ情報源の信頼度を判断できるけれど、正直情報が多すぎて専門外のことは外注してしまいたい気分になる。誰か詳しそうな人の話をそのまま信じて省エネしたい、と。

でもこうして本で紹介されているような例を読んでいたら、やっぱり自分の頭で考えなきゃな、考えたいな、という気になった。
私は、真実ではないことを簡単に信じうる。


サブタイトルにもある批判的思考が、鍵として取り上げられている。これはイギリス大学院のレポート・修士論文でも、とても重視されていたものの見方。単なる否定ではなくて、「本当にそれで正しいのか、違う見方もあるのではないか」と慎重に検討する考え方だと私は理解している。
批判的思考が重要だ、という筆者の主張には全面的に賛成なのだけれど、ふと、この批判的思考に慣れていない人において、批判的思考と誹謗中傷って正しく分けて認識されるのかなと不安に感じたりもする。


手元にメモした内容はもっとたくさんあるのだけれど、本の中に耳の痛すぎる引用があった。

「愚か者が賢人の言ったことを報告するとき、それは決して正確ではない。なぜなら、彼は無意識のうちに、自分が聞いたことを自分が理解できる何かに翻訳してしまうからだ。」
by バートランド・ラッセル

…いやもうメモ書くのやめようかなと思うくらいにグサッときた。心当たりがありすぎる。

ということで、面白そうだな、と思った方は実際に読むことをお勧めします。

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