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ナイジェリアの女性音楽アーティスト6人を聞き続けて見えてきた世界

ケニアにいると、Afrobeatsが至る所で流れている。Afrobeatsとは、西アフリカを中心にビートを基調とした音楽のことを言う。私は、ケニア滞在時に初めてまともにAfrobeatsを聞き、そのクールさに衝撃を受けた。そこから、邦楽・洋楽は封印し、Afrobeatsを聞き続ける日々が始まった。(ちなみに、ケニア人は自分の国の音楽よりもナイジェリアの音楽が大好きなのである。)

私が2021年Spotifyで聞いた曲。Afrobeatsが全てを占める。

そんな時、知人から「ナイジェリアの女性アーティストのオススメは?」と聞かれ、回答につまずいた。女性を意識してAfrobeatsを聞いていなかったのもあるが、そもそも全体数として女性のアーティストは少ない。
それから、女性アーティストに絞って曲を聞き続け彼女達のことを調べてみると、さらに衝撃を受けた。男尊女卑の傾向が日本以上に強いナイジェリアにおいて、女性アーティストとして活躍するのは大変であろう。それでも、ありのままの自分を表現し、歌にする彼女たちの姿は、男性アーティスト以上に熱く、心に響くものがあった。

そこで今回は、Yemi AladeTeniTiwa SavageTemsAyra StarrSimiという6人の超有名アーティストについて分析し、そこから見えてきた世界を描きたいと思う。
(もちろん他にも素敵な女性アーティストはたくさんおり、ナイジェリア人以外にも魅力的なアーティストは多い。が、今回は私の独断と偏見でナイジェリアにルーツのある6人に絞った。)

まるで映画?Nollywood女優? Yemi Alade

Yemi AladeのPVをみていると、たかが4-5分なのに、ナイジェリア映画を見ているような錯覚に陥る。例えば彼女の代表曲Johnny(再生回数1.4億回!すごいでしょ!)は、歌詞の内容を要約すると「クズ男だけど嫌いになれない私のJohnnyはどこよ???」である。とにかくクズ男Johnnyを終始捜し回る。いかにも、ナイジェリア映画に出てきそうなプロットである。

極めつけは、Deceiveという曲。ゴリっゴリに有名な大御所Nollywood女優Funke Akindeleが出演。「いやいや、こんなの映画以外の何物でもないじゃん!」と思わず突っ込みたくなる。「ナイジェリアの映画って長くて見れない〜」という人には今後、Yemi AladeのPVを見させるのが良いかもしれない。

そんなナイジェリア映画を凝縮したPVを世に送り出しているYemi Aladeは、地方の村出身で、オーディション番組から歌手になって上り詰めた人物。
ナイジェリアの農村の日常から、きらびやかな生活まで酸いも甘いも経験してきた人物だからこそ、色々な層が共感できて、心に響く音楽を届けられているのだと思う。

ちなみに、Double Doubleという曲の主題テーマは、イボ族の娘とヨルバ族の男との結婚。異部族間の結婚はナイジェリア映画の鉄板ネタであるが、実はYemi Alade彼女自身もヨルバの父・イボの母を持つ人物。彼女の人生そのものが、もはやNollywood映画を体現しているのかもしれない。


仙人のような落ち着きのある天才児 Teni

ナイジェリアの音楽は、Afro'beats'というぐらいビートを大切にしている音楽。しかしTeniは、他のアーティストとはちょっと違う。人間は、どういうところで心が揺さぶられるのか。そんな事を考えて、ビートに負けない音楽を作っている気がする。

Teniの代表曲、Case。歌詞もリズムもPVも全て大好きで、私がここ数ヶ月間永遠に聴いている曲である。そこに私の大好きなフレーズがある。

Cus my papa no be Dangote or Adeleke but we go dey ok
(私のお父さんはナイジェリアの大金持ちの代名詞であるDangoteでもAdelekeでもないけれど、なんとかなるよ)

ナイジェリア映画「 Day of Destiny」において、主人公がこの歌詞をふと呟いてしまうぐらいナイジェリア人にとってもインパクトがあり、絶妙にチープで、心に残る歌詞なのである。日本で例えると「君のドルチェ&ガッバーナのその香水のせいだよ」である。そうか、Teniはナイジェリア版、瑛人かもしれない。

私はTeniが気になって頭から離れず、どんな人間なのか知ろうとインタビューを見ていた。そしたら彼女は仙人の境地にいるような言葉を次々と発していた。私は驚きつつ、尊敬の念が溢れた。こんなに思慮深い人は、ナイジェリア映画には絶対登場しない。

ビックリした。私がインスタフォローしているナイジェリアの有名人は「札束!高級ブランド品!プライベートジェット!ウェイ!」な生活を晒しているが、彼女は真反対。自分とは何物か、を理解して、自分を大事にして生きている。アフリカの女性はsexualizeされる事も多いが、他人からの意見は気にせず、自分のスタイルを貫く。思わずインタビュアーが「なんであなたはそんなレベルに到達してんの?」と聞くと、Teniは「Death humbles you」って答えた。異次元。

とにもかくにも、そんな仙人Teniから生み出される音楽は、どこかもの悲しくて、落ち着いている。そこにポップなビートが絶妙に絡み合う。いつも聞いた後は不思議な感覚に陥る。そしてなぜかメロディや歌詞が心に残って、また聞いてしまう。下の曲は音楽界のレジェンドDavidoとTeniが歌ってる曲。囚人を演じているTeniが愛らしくてとても好きだから、みんな見て。


イギリスからナイジェリアに舞い戻ってきたアフロビーツの女王 Tiwa savage

Tiwa Savageは、エリートである。ナイジェリア・ラゴスで生まれ、11歳の時に渡英。それ以降、イギリスで教育を受け、イギリスのケント大学で会計学を学ぶ。一度は銀行で働くものの音楽への道を目指し、アメリカのバークリー音楽大学にも通い、その地で歌手を目指していた。しかし、2010年ナイジェリアでAfrobeatsというジャンルが盛り上がりをみせ、「ナイジェリアの方がもっとアツイ!」と彼女は確信しナイジェリアに帰還する。

2010年のAfrobeatsは、今ほどグローバルに注目を集めていなかった。なのにナイジェリアに戻る彼女は、先見の明がある。そして見事に大成功を収め、現在は誰もが認めるアフロビーツの女王。ナイジェリアに戻った彼女の決断は英断であるし、当時は女性アーティストがほぼいない男社会の中に飛び込んだ彼女は、最高にロックである。

(周囲の反対を押し切ってナイジェリアに来た当時の心境を語るTiwa Savage)

私がTiwa Savageで一番大好きな曲は、Koroba。初めて聞いた時の衝撃は忘れられない。Koroba koroba korobaって繰り返すのだが、もう一度聞いたら頭から離れない。Afrobeatsは同じフレーズを繰り返すことが多いが、私はその戦法にまんまと引っかかり、私の頭の中は一時期ずっとKorobaだった。

余談だが、冒頭5秒、彼女はナイジェリア人っぽく「Again」という。しかし、彼女の発音は全然ナイジェリア人になりきれていない。英米での生活が長すぎたようだ。

女がついていきたくなるような女 Tems

最近話題のTems。彼女の人気急上昇っぷりは度を超えている。まず、アフリカ全土で爆流行りしていたEssenceという曲で、Afrobeatsの大御所WizKidと一緒に歌う。次に、世界中のみんなが知ってるDrakeの最新アルバムCertified Lover BoyのFountainsという曲は、Temsも一緒に歌っている。最後に、グラミー賞にノミネート。彼女が本格的に音楽活動を始めたのが2019年だから、いかに異例のスピードでAfrobeats界隈に留まらず、世界中に名を轟かせているのかが分かるだろう。

そんなTemsは一体どんな人物か。彼女は、ナイジェリアで生まれるも、イギリス系ナイジェリア人の父とナイジェリア人の母と共にイギリスに移住。そして両親が離婚するとナイジェリアに戻り、南アの高校に通い、ナイジェリアに戻ってきたという経歴を持つ。幼少期、いじめにあった事もあったというが、その時の彼女を救ったのは歌であった。

彼女の低音ボイスは、痺れる。カッコ良すぎる。私の言語能力では彼女の歌声の素晴らしさを表現できないから、とにかく聞いて欲しい。

余談だが、Temsが気になった私は彼女のインタビュー動画を見漁った(Teniに続き)。そしたら、なんと彼女も仙人だった。仙人みたいなナイジェリア人はTeniとTemsしか知らないから、ナイジェリアの女性アーティストは本当に素晴らしい才能と精神を持った人が集まっているのでは?と私は本気で思っている。


期待の新星!Z世代アーティスト Ayra Starr

Temsは最近話題!と言った。しかし、ナイジェリア国内では、もっとホットな人物がいる。その名もAyra Starr。2021年にナイジェリアの超大手レーベルのMavin Recordsから華々しいデビューをした19歳。彼女はデビューして1年経ったところだが、Ayra Starrとは地球の反対側にいる私から見ても、なんとも幸先の良いスタートを切れていると思う。

そんな彼女のデビューまでの道のりは、シンデレラストーリーのよう。元々モデル活動をしていたが、歌が好きで、Youtubeに自分で作成した曲をあげた。そしたら、その投稿のわずか3時間後にナイジェリアの名プロデューサーDon Jazzyから連絡が来る。すぐにレコーディングをして、出会ってわずか3カ月後には、Don Jazzyのレーベル・超大手のMavin Recordsと契約した。その後まもなくデビュー。現在は、代表曲Bloody SamaritanのYoutube再生回数は、余裕で1500万回を超えている。

上のBeggie Beggieという曲は、2021年TikTokパワーもあって時の人になったCKayとも一緒に歌った曲である。今後の彼女の更なる活躍が待ち遠しい。ちなみに私がナイジェリア滞在時に友達になったKano出身ハウサ族のムスリムの女友達は、Ayra Starrが大好きでAyra Starrの最新情報をいつも送ってくれる。ナイジェリア・ムスリム女子にも人気があるらしい。

聖歌隊から歌手に。ゴスペルとAfrobeatsの溝を埋める異端児 Simi

これまでの5人の歌手を振り返ると、ずいぶんと逞しいナイジェリア女子だなあと思うであろう。最後に紹介するSimiはこれまでの5人と比べると、少し異質かもしれない。

少し話が変わるが、私がケニアにいた時の仲良し友達に敬虔なクリスチャンがいた。彼女はAfrobeatsを聞かない。ゴスペルしか聞かないのである。彼女曰く「クラブミュージックは騒がしい!心が落ち着かない!」と主張する。ちなみに、なにも彼女は特殊なわけではなく、敬虔なクリスチャンはゴスペルを好む傾向が高いのである。

が、まさかの彼女、Simiの曲ならたまに聞くらしい。すごすぎである。ゴスペルとAfrobeatsの溝を埋めて、どちらの層にも訴えるパワーがあるSimiの曲。たしかに彼女の曲を聞いていると、心が落ち着く。

最初はゴスペル歌手として活躍してきたSimiだが、Afrobeatsのアーティストとして活躍し有名になり、現在は、R&B(rhythm and blues)のアルバムを出したところ。

彼女のインタビューでは、やたらと音楽ジャンルの話が出てくる。そして、Afrobeatsをメインストリームと言う。まるで私はメインストリームではないと思っているみたいに。でも、自分の音楽が他とは違うことを認識し、悩みつつも自分の表現したい音楽を発信しているからこそ、彼女の曲は皆に聞かれていると思う。それに、世間は、Afrobeatsとゴスペルの中間の音楽を欲していた、ブルーオーシャンな層があったからこそSimiは人気なのだと思う。

ちなみに、Simiの旦那はAdekunle Goldという超有名ミュージシャン。彼のSinnerというPVはこの夫婦がずっといちゃついている映像が流れる(褒めてる)。ちなみに私が初めてSinnerを聞いた時「Coldplayの曲がなぜ突然流れてくる?」と勘違いした。名曲。


まとめ

振り返ってみると、この女性アーティスト6人達のキャラは全く違う。もし女子校にこの6人がいたら、皆違うグループになっていたんじゃないか?ぐらいキャラが違う。

しかし、この6人に共通していることがある。それは、ありのままの自分を歌にして、さらけ出している事。そして、彼女たちは女性をEmpowerしてくれる存在だということ。音楽シーンにナイジェリアの女性はまだまだ少ないが、私自身彼女らの曲を聴き、彼女らについて調べ、書いているうちに「彼女達みたいになりたい!」とEmpowerされてきた。アフリカの女性の描かれ方はどうしてもSexualizeされたり、男に押しつけられた女性像が多いけれど、彼女たちは自分を理解しているからこそ、ステレオタイプに縛られない姿を表現しているのである。

私は音楽に加えナイジェリア映画愛好家で、これまで多くのNollywood映画を見てきた。ナイジェリア映画の作り手は、男性が多く、女性がいたとしても若い女性は少ない。だからこそ、ナイジェリアで新しい価値観が生まれ、アップデートされていくきっかけは、音楽業界にいる彼女たちにあるのだろうと思う。

そして、女性6人の音楽業界の成功者の成功パターンが一様ではないことが、ナイジェリアの多様性を表し、ナイジェリアの未来の明るさを痛感する。多様性こそが成長の鍵、といったりするがナイジェリア国内に多様性があるからこそ、より音楽業界の盛り上がりは凄まじいことになるのだろう。

最後に、ここまで読んでくれる人がいたらとても嬉しいです!私の趣味話にお付き合いいただき、どうもありがとうございました。因みに、下記でナイジェリア映画も紹介しているので、こちらも読んで見てください :)


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