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静寂

   静寂


外套に襟巻き姿の女性は、
まだ辺りは朝の静寂の中、

玄関外から
小さく僕の名前を呼びました。

僕はゆっくり布団を出ました。
けれど飛び石を進むように廊下を行く。

彼女は寒い所から、
僕は布団の中から来たというのに、

顔を合わせると、
何を言っていいか分からなかった。

今になって彼女は、
それ程の話題でもないような

気がしていました。
僕だって、怖い夢を見ていたから、

起こしてくれて有難うと伝えるには、
まだ少し後だと思っていました。

「頂いたお茶があるんです。
一人で飲むには勿体ないし、

僕には高いとか安いとか
分からないから、

まあ上がって下さい」
彼女は玄関に座り、

草履を脱ぎはじめました。
「出歩くのが

あまり好きではないあなたが、
こんな寒い日に」

彼女は一度、
何処かの誰かに相談に行き、

それからしばらく経った今日、
此処に来たと、

お茶を淹れながら思いました。
けれど僕は、

それでも
頼りにされていないとは思わなかった。

彼女が僕に、言い淀むことが多くあり、
僕も彼女に、

言わない事が多くありました。
恋愛感情とは違う友情とは違う。

僕と彼女は、
知り合ってから長く経つけれど、

この繋がりは何だろうと思う。
鍵を外して、

玄関に今朝現れた
あのようなたたずまいこそ、

僕は、
繋ぎ止めて

来たもののような気がしました。

良い文章を作れるように、 作るために、 大切に使わせて頂きたいと思います。