ドキドキお誘い

大学生の時のこと。
高校時代の部活の先輩から久しぶりに会って話したいとメールが来た。先輩とは部活以外でほとんど交流が無く、メールのやり取りも卒業以来初めてだった。嬉しい誘いのはずなのだが、脳裏に「なにがしかの勧誘なのでは…!」という思いが過った。

勧誘だとすればとても怖いことで、行かないべきだけど、勧誘とも言われていないし、本当に話をするだけならお世話になった先輩と話せるのは嬉しいことだから迷った。「勧誘ですか!?」なんてきける間柄でもなかったし、お誘いの内容もどこかに遊びに行くとかそういう感じでなく、お茶して話すということだったので非常に悩んだ。私は内向的な人間なので、勧誘を断りにくいという見立てで誘ったとすると動機もあるなぁ…など、いろんなことを考えた。

悩んだ末、行くことにした。先輩と話したい気持ちがあったのと、疑いの段階で誘いを無下にするのは良くないと思ったからだ。
そうはいっても無策で行くのは危険なので、当日の動きをシミュレーションした。予定としては駅に車で来てもらって、車でどこかのカフェに行ってお話ししようということだったので、複数のシチュエーションに対して対策を練ることにした。
まず車に先輩以外の知らない人が乗っていた場合。これはもう危険な場所一直線なので乗車しないで駅に逃げ込むこととした。
続いて車の行き先がカフェに向かう動きをしなかった時。駅前出発なのでカフェは無数にあるはずだからやたらと離れた場所を選ぼうとしたり、曖昧なまま遠くへ向かう素振りを見せたら赤信号で車を飛び出すことにした。
続いてカフェに着いたら知らない人と合流するパターン。店内に入る前だったらダッシュで逃走する、すでに座っているところに案内されそうになったらトイレに行くといってそのまま脱走することにした。
一番厄介なのが話してる途中に増援が来て取り囲まれること。これはトイレに行くといって逃げ出すか、相手が話すまで逃さないぞという姿勢をとられたら大声で騒いでつまみ出してもらうしかないと考えた。
色々考えて臨んだが、相手が本当に勧誘だったら先手を打って逃走を阻止されるかもしれない。ぐずぐずと話を聞かされたら逃げようがなくなって取り返しがつかなくなるかもしれない。気を引き締めて先輩とのお茶に臨んだ。

結論から言うと、勧誘ではなかった。
車中では常にシートベルトのスイッチの近くに手を置いていたが、ほどなくしてチェーン店のカフェに到着した。
カフェでは先輩のことを中心に話をした。内向的だったが、海外旅行を機に明るい性格になった。今の職場もいい環境だ。明るくなったから高校時代の後輩と話したくなって誘うことができた。といったような話をしてくれた。明るくなった、という話で身構えたところはあったが、それがセミナーによる物だとか、商品によるものだとかそういう話は一切されず、穏やかにお茶は終わった。

先輩とはそれ以来連絡をとっていない。すっかり記憶の隅に行ってしまったことだったけど、ふと思い出したので文章にした。

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結果だけ見てみると誘われてお茶に行っただけの話なんだけど、いろんな葛藤がありました。当時はネットで、あまり連絡が来てない人から急に会いたいなどと連絡が来たら、お金の無心とか勧誘とかに注意しろと言われていたのでかなり身構えてしまいました。現に大学の周辺でも詐欺などの注意喚起がなされていましたしね。そういう不届きもののせいで人に会うのにもいちいち身構えたりシミュレーションをしたりしないといけないので、なんとも恨めしいことです。
とはいえ本当に勧誘に当たることもあるかもしれません。勧誘となると相手もプロでしょうから、話を聞いたら絶対に負けると確信してるので、話を聞く前に逃げ出せるよう、日頃から鍛錬を積みたいです。


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