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光ったね #シロクマ文芸部

手渡されたのは光る種。たくさん。

猫の眼みたいに金色で、グリンピースくらいの大きさで、掌の上でほわほわあったかい。ランタンみたいな花が咲くんだろうか。

金色の髪の綺麗な女のひとが、くれた。小瓶に入れて首から下げた。

世界でいちばん暗い場所で、あなたの助けになりますように。


いま、あたりはじめじめして、薄暗くて、肌寒くて、澱んだ空気は死のにおいがして、人間たちの血と欲と汗の気配で、息が詰まる。忙しい足音に追い立てられる。傷だらけの足に触れるのは硬い石の床。首から下げた小瓶の光は、鼻先すらも照らさない。ここからは、出られない。

世界でいちばん暗い場所は、人間の生だった。

あの、天使のような女のひとは、土でない地面のあることを、知っていたのだろうか。光る種が照らせない闇のあることを、知っていたのだろうか。

首に下げた小瓶の紐を引きちぎり、思い切り投げた。ガラスが割れる音がした。

ぱあっと散った種が、花火みたいに、光った。

あ。

光ったね。

種は石の床にぐんぐん根を張って、茎も、葉も花も、太陽みたいに修羅を照らした。あたたかな風が吹いた。

世界でいちばん暗い場所を、世界でいちばん明るく照らして、生きてゆこうと思った。


おわり


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