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コロナ陽性の選手に代わって急遽、アメリカから東京に飛んできた選手の話

「この数日がローラーコースターのようで、まだ全然消化できていない。もう少し時間が必要」
 
 大粒の汗をかきながら、米国の棒高跳選手、マット・ルドウィグはそう話した。
 サム・ケンドリックスがコロナ陽性になり、急遽、本当に急に五輪出場が決まった。

「(米国時間の)水曜日の夜11時頃にエージェントから電話が来て、事情を説明された。棒高跳のポールは自宅にはないし、検査も受けなきゃいけないし。もうバタバタだった」
 
 急いで荷物を詰め、朝一番に練習場にポールを取りに行き、PCR検査を受け、検査結果が出た段階で最寄りのシカゴのオヘア空港に。

「入国までの書類、検査、アプリのダウンロードなどやることがたくさんで、ものすごくストレスが多かった。すべてがあっという間だったので長時間のフライトへの準備もできなかったこともちょっと残念」
 
 成田空港に着いたのは、金曜日、昨日の夕方。急遽代表になったため、選手登録なども時間がかかり、選手村に入ったのは夜中10時半だったという。代表のウェアも渡されたが、他の選手はみんな選考会が終わった時点でもらっているので、サイズもバラバラで、XLのウェアしかなかった、と笑う。

 今日は朝5時に目が覚め、7時過ぎにはウォームアップエリアへ。9時40分からの予選に臨んだ。
 5m30、5m50は1回でクリアしたが、5m 65を3回落としてしまい、決勝進出はならなかった。
「中国の試合に行ったこともあるし、急に呼ばれたから、フライトが長かったからというのは言い訳にならない。でももう少し準備期間があったらという気持ちはある」
  
 ケンドリックスのコロナ陽性で出番が回ってきたことに対しては、

「サムはとても悔しいと思うし、こういう状況で選ばれて、複雑な思いもある。でも代表になったからには戦う覚悟で臨んだ。決勝にいけなくてとても悔しい。今の状況を理解して受け入れるにはまだ時間ががかる。でも今回の経験を元にもっと成長していきたい」と話した。

 五輪代表になったことを母親に伝えたほか、SNSでは発信したが、「多分、自分が東京でオリンピックに出ていることを知っている人が少ないはず。祖父母はどうかな。でもうちの母は電話大好きなので、多分、電話して教えているはずです。母は歩く広報担当みたいな人なので(笑)」とちょっと笑顔も。

 組織委員会のルールでは、競技終了後48時間以内に出国しなければならない。そのため月曜日には出国しなければならないが、米国陸連は「米国五輪委員会に確認します」とも。

 思うような結果を出せなかったかもしれないが、入国までの大きなストレスのある手続きを行い、日本到着後わずかな時間で5m50を跳んだのは立派だと思う。落ち着いたら、今回の経験についてゆっくり聞ければと思う。

左がルドウィグ。まだ現実を消化し切れていないようだった。

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