及川彩子

NY在住のスポーツライター。大リーグ、オリンピック、パラリンピックスポーツを取材。岩手…

及川彩子

NY在住のスポーツライター。大リーグ、オリンピック、パラリンピックスポーツを取材。岩手日報で大リーグ特任記者。Numberなどに寄稿。Email: blueriver.brooklyn@gmail.com Twitter: @AyakoOikawa

最近の記事

走幅跳7mジャンパーのタラ・デイビスがセイコーGGPに出たい理由がかっこいい

 陸上ファンにはおなじみの(?)陽気な7mジャンパー、タラ・デイビスは5月のセイコーGGPに行きたくてたまらない。 「ねぇねぇ、セイコーに出たいのに女子走幅跳ないんだけど、出たいの。なんとかして〜」  両親や周囲の人も、必死のタラの様子に苦笑している。  いやーー、私に言われてもない袖は振れないし、私、そういった権利も何も持っておりませぬ。 「東京行きたいの?」 「ハンター(タラの旦那さん)がパラ種目に出るの!」  ハンターと一緒に東京に行きたいだけかなと思っていた

    • エンゼルスのフレッチャーと小声で会話したこと

       選手も1人の人間。あなたたちと同じように血が通った人間だから、モノや駒として扱わないでほしい。  そう教えてくれたのは東京五輪で女子砲丸投銀メダルをとったレイブン・ソウンダースだ。ミックスゾーンで試合のことを聞かれるのはいいけれど、他の時は普通の話をしようよ、と言われ、好きなもの、家族のことなどいろんな話をするようになった。相談事もする。ごくごく普通の友人のように。  大リーグでは選手は駒のように扱われ、選手の動向はGMや代理人に委ねられている。    エンゼルスからウ

      • 🇺🇦のマフチフのインスタ用写真撮影をしたら、変顔大会になった

         ユージーンのホテルでマフチフにばったり遭遇。 「インスタ用の写真を撮ってくれない?」 「いいよー」  最初はおすまし顔だったのに、なぜか変顔大会に。    結論。    変顔でも可愛い。

        • ファイナル前日、コールマンは選手たちが帰った後も一人で黙々と練習していた

           ダイヤモンドリーグファイナル、男子100m、ドーハ世界陸上金メダルのコールマンが今季世界最高の9秒83で制した。  コールマンはドーハ世界陸上後に競技会外の抜き打ちドーピング検査を受けなかった(指定した場所にいなかった)ため資格停止になり、東京五輪には出場できなかった。  昨年のオレゴン世界陸上はワイルドカードで出場したものの、精彩のない走りで6位、今年のブダペスト世界陸上も5位でメダルに届かなかった。  プレッシャーの少ないレースではフォームの乱れもなく、とてもいいレ

        走幅跳7mジャンパーのタラ・デイビスがセイコーGGPに出たい理由がかっこいい

          400mのホールに、「あ」ってタトゥーを入れた理由を聞いてみた 

           クインシー・ホール。  米国の400m選手。気か強い、なかなかやんちゃな男子である。  全米選手権、ブダペスト世界陸上の時に「あ」と入ったタトゥーを見かけて、なんで平仮名で入れたのかなーと気になったけど、さすがにレース後にそれを聞くのもなんだかね、と思って聞かなかった。  今日、バスを待っている時に会ったので、「ねーーねーー。どうして『あ』ってタトゥー入れたの?何か意味があるの?」と聞いてみた。 「娘の名前がAから始まるんだけど、Aって英語で入れると違う意味にとられたり

          400mのホールに、「あ」ってタトゥーを入れた理由を聞いてみた 

          シファン・ハッサンが、明るくおしゃべりになった理由

           東京、ユージーン、ブダペストで何かと話題を振り撒き、ミックスゾーンでも楽しく陽気な性格を存分に見せてくれたハッサン。今でこそニコニコとメディア対応してくれているけれど、数年前まではミックスゾーンで取材拒否することも多かったし、話してもポツリポツリと一言ということも多く、正直、記者泣かせの選手だった。   ハッサンが変わったのはドーハ世界陸上以降。つまり、それまで師事していたアルベルト・サラザール氏がドーピング関連で資格停止処分になり新しいコーチについてからだ。  別人な

          シファン・ハッサンが、明るくおしゃべりになった理由

          東京五輪のトラウマを乗り越えて:女子ハンマーのディアナ・プライス(米国)

           試合後に選手に取材をするミックスゾーンでは選手はいろんな表情を見せてくれる。あふれそうな笑顔、怒りに満ちた顔、何が起こったのか分からないというような呆然とした表情で足早に立ち去る選手もいれば、涙でぐしゃぐしゃの選手もいる。  いろんな感情が渦巻く場所、それがミックスゾーンだ。  ちょっと遡るけれど2015年北京世界陸上でこんなことがあった。女子走幅跳で最終跳躍で米国のティアナ・マディソン(当時はバートレッタ)が7m14を跳んで、7m07の英国新を跳んだシャラ・プロクター

          東京五輪のトラウマを乗り越えて:女子ハンマーのディアナ・プライス(米国)

          世界陸上と大リーグとマーシュ兄妹。

           元NFL選手で現在は走高跳のコーチをしているランドール・カニンガム氏に以前こう言われた。 「いろんなスポーツを取材するのはいいことだ。深みが出るからね」    大リーグ取材を初めて、陸上との違い、それぞれの取材の良い部分、そうでもない部分などが見えてきて、とても興味深い。    違いだらけなのだけど、まず大リーグはハグの文化ではないのにびっくりした。  米国の陸上はハグに始まり、ハグに終わる。  まったく知らない相手、さほど近くない相手とはしないけれど、長くつきあいの

          世界陸上と大リーグとマーシュ兄妹。

          女子100mハードル 「メダルの価値を決めるのは自分」 ケニー・ハリソン(米国) 

           女子100mハードル、12秒20の自己記録を持つ前世界記録保持者のケニー・ハリソン、12秒12の現世界記録保持者のトビ・アムソン、東京五輪金メダルのカマチョ・クインなど群雄割拠のレース。それを制したのは、ジャマイカのダニエル・ウィリアムズ。好スタートを切り、12秒43で逃げ切った。2位はカマチョ・クインで12秒44、ケニー・ハリソンは12秒46で3位に入った。  ハリソンの世界大会の結果をみるとメダル常連になってきている。金メダルまではもう少しのところまで来ている。 2

          女子100mハードル 「メダルの価値を決めるのは自分」 ケニー・ハリソン(米国) 

          ハッサンは「3種目の会(通称:チームクレイジー)」の会員増という野望を持つ

           陸上ファンにお馴染みのシファン・ハッサン。  今大会もワクワクドキドキさせる走りで楽しませてくれているけれど、ミックスゾーンでも「ハッサン節」を炸裂していた。 「ヤコブスが将来的に3種目(1500m、5000m、1万m)に挑戦するかもしれないが、どう思う?」  ノルウェイメディアにそう問われた時のことだ。  ハッサンは待ってましたとばかりにこう答えた。 「挑戦するなら私は全面的に応援します。レッツゴー!」  そう言いながら、ハッサンは右腕を大きく上げる。ヤコブスを応援する

          ハッサンは「3種目の会(通称:チームクレイジー)」の会員増という野望を持つ

          実録42分、飯塚選手の「qルームでの過ごし方」

          200mで飯塚翔太選手は20秒27の今季自己ベストで1組4位に。上位3着は自動的に準決勝へ。4位の飯塚選手と20秒31で5位のオランダのバーネット選手はqルームへご案内される。 qルームとはプラス通過の可能性のある選手が入る部屋で、次の組で自分よりも速いタイムながら着順に入れなかった選手が来るという、ところてん方式というか、フィギュアスケート方式のような、そんな感じの仕組みである(適当) 今回から用意されたqルーム、せっかく日本選手が入り、そして通過したのでワクワクしなが

          実録42分、飯塚選手の「qルームでの過ごし方」

          「僕のことを終わった選手と思わないでほしい」 ドーハ世界陸上800m金メダリスト、ドノバン・ブレイジャー

           ブダペスト世界陸上の男子800mのエントリーリストに、ドノバン・ブレイジャー(2019年ドーハ世界陸上800m金メダリスト)の名前はない。  昨年のユージーン世界陸上後に踵の骨を除去する手術を受けたため、練習復帰はしているが今季はレースに出る予定はない。  時々「元気だよ」と連絡はくるが、どの程度走れているのか分からないため、少し心配だ。だから中距離種目を見るたびにドノバンの顔が脳裏をチラつく。 「走れているんだろうか」「どのくらい戻っているだろう」といつも考えてしまう

          「僕のことを終わった選手と思わないでほしい」 ドーハ世界陸上800m金メダリスト、ドノバン・ブレイジャー

          ブダペスト世界陸上 「命を絶とうと思ったこともあったけど、生きててよかった」 女子走幅跳銀メダルのタラ・デイビス

          「ねぇ、ねぇ、メダル見たい?見せてあげよっか」  表彰式を終えたばかりの女子走幅跳のタラ・デイビス(米国)にばったり出会った。  ニコニコの笑顔で、クリスマスか誕生日に買ってもらった新しいおもちゃを見せびらかしたい小学生のようだ。 「おおお。見せて見せて」  そうお願いすると、「ちょっと待ってね」と言いながら鞄をゴソゴソを探り始めた。 「あ、ビデオ撮ってもいいよ。Q出してね」  タラはYoutubeもしている。指示の出し方がYoutuberっぽい。 「ちょっと待って。準備でき

          ブダペスト世界陸上 「命を絶とうと思ったこともあったけど、生きててよかった」 女子走幅跳銀メダルのタラ・デイビス

          「そんな昔のじいさん、知らないし」 大谷ファンの少年の言葉にハッとした件

           エンゼルスとオリオールズの試合を取材した際のこと。  エンゼルスのTシャツを着たかわいらしい少年たちに出会い、岩手日報で記事にした。  大谷を史上初の2刀流というグレイソンくん。記事では柔らかい口調で正しく書いたけど、言い方はなんとなく「そんな昔のじいさん、知らないし」みたいな感じだった。    その言葉にハッとした。  11歳の彼は「今」を生きていて、数年前のことはすべて過去。そして10年、20年前の自分の記憶にないことは「歴史」で、もしかしたら、というかおそらくオバ

          「そんな昔のじいさん、知らないし」 大谷ファンの少年の言葉にハッとした件

          大リーグ:エンゼルス1塁ラム選手の取材で感じたこと。

          「メジャーの選手は、MLBという大きな組織で働く契約社員のようなもの」  大リーグを長く取材する先輩記者さんがこう話していた。    選手のチーム移籍事情を見ていると本当にその通りだなと思う。長期契約をしている選手もいれば、一戦一戦、GMに評価(査定)されていて、突然、契約を打ち切られる選手もいて、シビアな世界だなと思う。  レッドソックス戦に行った時、捕手のマグワイアを見て「あ!!!今、レッドソックスなんだ。元気そうで何より」と思った。彼は去年の春季キャンプの最終日にブ

          大リーグ:エンゼルス1塁ラム選手の取材で感じたこと。

          五輪金メダルのトリ・ボウイがゴールの向こうに行ってしまった

           大リーグの取材を終え、ホテルで原稿を書いて、就寝したのが朝3時。8時過ぎに携帯に何人からかメッセージが届いていた。  「トリが亡くなった」  え、と思ってネットを見ると、スプリンターのトリ・ボウイが亡くなったというニュースが流れていた。 (え、なんで)としばらくフリーズした。しばらく経ってから、最後に話したのはいつだっただろう、どんな会話をしたんだったかなと考えた。  トリは東京五輪の選考会には出ていない。ドーハ世界陸上のミックスゾーンが最後だったと思うけれど、思い

          五輪金メダルのトリ・ボウイがゴールの向こうに行ってしまった