「20代で観ておくべき映画、なにかありますか?」と聞かれたら

インターンで来ていた21歳の女子大生に聞かれて、思い出したのが「ムッシュ・カステラの恋」(2000)。

何しろ前に観たのが学部生の頃だったから、ディテールはほぼ抜け落ちていたけど、当時仏・クーリエの編集長をなさっていたヤタベさんと「ムッシュ・カステラの恋」の話をしたのはよく覚えている。

「あれはブルデューのディスタンクシオンを下敷きにしてるんだって。パリでも僕の周辺では評判がよかった。邦題はなんていうの? 『ムッシュカステラの恋』? 原題はちょっと違ったなぁ。"LE GOUT DES AUTRES"だから、『他人の趣味』というような感じだよね。そのタイトルじゃイマイチ内容が伝わらないんじゃないかな」というようなことを、日本語と思えないようなダンディーな響きで語るヤタベさんに、(お、おフランスの風や……)と粗野な感想を持った私は、当時22、3歳ぐらいだったのかな。

どんな教育を受けてきたか、どんな話し方や身振りをするか、どんな服を着るのか、親やきょうだいはどんな人間か、外国語が話せるか、テレビを見るか見ないか、アートが好きか(本当にアートが好きってどういうことか、も含めて)、イプセンを知っているか、マリファナを吸うか吸わないか、壁紙やカーテンの柄はどんなか……。人は自ら作り上げた自分らしさの「外」になかなか出られないのだということ、そして人を好きになるっていうことは、ときにそうした大小のことを越えようと頑張ってみる力になるという話。

21歳の女子大生には
「要は、SMAPの『セロリ』みたいに『育ってきた環境が違うから~、すれ違いはしょうがない♪』んだけど、『頑張ってみるよ、やれるだけ』っていう話。っていうか山崎まさよし、やっぱすごいな!」と後半山崎まさよしすごいぞ、と急にアクセル踏んみこんでしまったけど、21歳は『セロリ』を知っていただろうか……。

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