スーツ

スーツが嫌すぎてトイレでぼろぼろ泣いている。

私がスーツを着るとき、着させられるとき、人は人でなしになってしまう気がする。柔らかい雰囲気、優しさ、愛嬌、共に良く接しようという大前提が失われる感覚。人はお互いを評価し、冷たくあしらい、常に周りを敵だと思って構えなくちゃならないような気持ちになる。

しっかり眉上にした前髪が、私に戦を思わせる。清潔で美しければなんだっていいはずなのに、意味を失って独り歩きを始めた謎のルールにのっとって物事が進む。お互いへの思いやりから出たはずのあってもなくても良い行為が、それがないと失礼にあたったりする。優しく多様な感覚と最も遠いところにスーツがある気がする。

これが屁理屈で、世の中のほうが正しいのかもしれない。私のほうが間違っていて、淘汰されるべき存在なんだろう。最も私だって合わせる気がないわけじゃない。だからこうやって無理やりスーツを着て家を出た。

スーツを着ていないとき、私はのびのびと暮らしていて優しくあろうと思っていられる。店員さんには挨拶をするし、友人は家まで送るし、美味しいものはおすそ分けする。だけど、スーツを着ると私は全ての人間に値踏みされているような気持ちになって吐き気と戦うハメになる。両足で立っているので精一杯で、優しくできない。

ここまで書いて、下書きに保存してあったのを今日見つけた。

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