Aoi

読書と日本酒が好きなライター

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最近の記事

【短編】川越百景

母がうつ病で入院することになった。僕が大学2年の春だった。 10個以上の大病院に電話をかけた末に、ようやく空き個室のある病院を見つけ、母と一緒に慣れない路線の電車に乗った。気が立って心の乱れた母を連れて歩くのは決して楽なものではなく、入院の手続きを終えて病院を出た僕の心身には明確な疲れが沈澱していた。春先なのに、空気がひんやりと優しくない感じがした。……これからどうしようか。 大学2年の春、といっても、休学をしていたので授業には出ていなかった。塾講師のアルバイトをしつつ、

    • 【書評】心に効く目薬 - 『Kの昇天』(梶井基次郎)

      心の底から湧き上がっている感情は、言葉に出来ないのかもしれない。そう思ったことが何度もあります。 例えば、好きな人に想いを伝えるとき。その人の好きな部分は幾つでもあるはずなのに、いざ言葉にしようとすると口が縫い付けられたように開かなくなってしまう。どの引き出しを開けても、道具箱をひっくり返しても、思いにジャストフィットする単語がどうも見当たらない。相手は「え、好きなとこないの?ボコすよ?」という瞳を向けてくるので、焦ってしまってさらに言葉が出てこなくなる……。 上記は一例

      • 【書評】トイプードル・ルーティンを取り入れよう - 『富嶽百景』(太宰治)

        富士山はトイプードルです。あなたにとっては緑茶かもしれないし、朝日かもしれません。 数年前の冬、僕はスーパーで1カ月限定の短期バイトをしていました。始業は8時で、家を出るのは7時前。冬なのでまだまだ薄暗い時間帯です。 最寄りの駅まで15分歩くのですが、毎朝のようにトイプードルを連れたおじさんとすれ違っていました。小さいトイプードルですがとても溌剌としていて、おじさんを引っ張るように散歩をしていました。どっちが散歩させられているのかわからないほど元気で、低血圧ローテーション

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