恋のあいうえお

恋なんて初めてじゃない。
それなのにどうだろう?
大人の女性になりたくて、努力してきたことがパラパラと崩れていく。まるで自分が10代の少女のようだ。10代は言い過ぎか…?でも、まあ取り敢えず、大変なのである。毎日頭から彼のことが離れず、胸が痛くなる日々を送っているのだ。

何故こんなことになったのか、自分でもわからない。運命なんて信じてないけど、いくつかの偶然が重なって出会うってこともあるんだなあ。
あの時、あの場所に向かわなかったら、時間が少しでもずれていたら、彼とは出会わなかったのだから。

風の強い秋の日、仕事で出張した私は、ピンチヒッターで同じ出張先に来ていた彼と出会った。
初対面から面白い人だなあという印象。本気なのかふざけているのかわからない彼の悪戯っ子のような瞳に、まるで警戒心は起きなかった。

偶然にも同じホテル。
話が尽きず、笑い合い、いつの間にか朝を迎えていた。
お互いがお互いのことを話し、お互いに離れがたく、つい朝まで話し込んでしまったのだ。

私は警戒心が強い方である。
もちろんこんなことは初めてだ。そして初対面の異性とLINEを交換するなんて、あり得ないことをしている自分に驚いていた。

それからは、毎日LINEで話し合った。もうあの時に恋は始まっていたのだ。
そして遂に、彼は車を飛ばして私の街まで会いに来ると言った。

少しでも綺麗になりたくて、美容院に行ったり、ネイルをしたり、女の子の準備は大変だ。
鼻は高くならないけど、少しでも綺麗な肌でいたくて、いつも以上に気を使う。
寝る前の他に朝のパックも欠かさない。
ウキウキしながら彼の来る日を指折り数えた。

もっと大変なのは当日の朝だ。何を着るかは大体決めていたものの、本当にこっちで良かったのか?こっちの方が肌が綺麗に見えるのではないか?
今朝に限って前髪がうまくまとまらない!
時間はどんどん迫ってくる。
お化粧は念入りに、でも厚化粧に見えないように。
リップの色は何色にしようか?
服が決まらないと化粧も決まらない。
余裕を持っていたはずなのに、もうバタバタである。

バッグも靴もまあ納得して、約束の場所へ向かうまでの所要時間は3時間以上もかかった。
これって平均?
女の子は本当に大変なのだ。

でもね、大変だったことなんて悟られてはいけない。さり気なさが肝心だ。
久しぶりに会った彼が、少しだけ眩しそうに私を見たから、それでもう満足なのだ。
私ってちょろいなって思う。

二度目とは思えないほど話しも弾み、楽しいデートになった。

そして、彼は私の大切な人になった。

惹かれ合う行程を言い表わすのはは難しいけど、ずっと前からそういう風になると決まっていたみたいに、私たちは気持ちがぴったり合ったのだ。

見つめ合い、笑い合う歓びや楽しみを味わった後、また合う約束をして別れる寂しさったらないよね。
明日はもう会えない。
遠距離の辛さを初めて知った日々。

毎日彼のことが頭から離れない。毎日の電話やLINEだけでは満たされない想い。
幸せなのになんだか哀しくて、叫びだしたくなる。
彼もこんな気持ちになるのだろうか?

月に一度のデートと毎日のLINEや通話。
幸せな毎日だ。
私は彼に合う日のために毎日努力を欠かさない。
少しでも可愛くなりたい。

今彼は何をしているのだろうか?
私のことを少しでも思い出して欲しい。
できれば一日に何度も。
嗚呼、私はいつからこんなに我儘になってしまったのだろう。
自分の気持ちが止められないなんて初めてだ。

それから半年経っても、私の気持ちは全く変わらない。
ちょっと人前で話すのは憚られる会話もするようになったけれど、それは心の中に留めておくことにしよう。

私と彼の心の距離はとても近いものになり、お互いにお互いを必要としていることが伝わってくる。
なんて幸せな日々。
距離だけが二人の邪魔をしていた。

二人とも仕事を持っている身だから、予定を合わせるのは大変だ。なかなか会えない時には泣きたくなる。
声だけでは足りないことだってあるんだよね。
彼の仕事が忙しくなり、それは分かってはいたけれど、やはり連絡が途絶えると不安になるし、何より寂しい。

彼で一杯になりすぎた心には他のものは入らなくって、涙する夜も増えてしまった。
怒っている訳じゃない。
ただただ寂しいだけで、その想いが上手く伝わらなくて。

ある日些細な事から言い争いになってしまった。
元々お互いに温和だし、殆ど喧嘩なんてしたことがなかったから、戸惑いと悲しみで言葉が出なくなってしまった。

何も言わない私に、彼は私が思ったほど彼を好きではないのではないかと誤解してしまったようだ。
『このままじゃ僕の気持ちだけが大きくなってしまう。しばらく会わないことにしよう。』と。別れにも近い言葉。「私はあなたが大好きよ!」心の中で叫んだけどね、言葉って声に出さないと伝わらない時もあるんだよね。
結局気まずいまま別れてしまった。
いつもならまたね、の優しいキスをしてお別れするのに。
黙ったままの私がいけなかったんだ。あの時、彼は私の言葉を待っていたのだから。
小さな事。
ほんの小さな事がここまで大きな亀裂を生むなんて、思ってもみなかった。

この日、彼からLINEは来なかった。
私は月を見上げて、独り涙にくれていた。

焦れったい。自分でも不甲斐ない。なぜ「大好き」の一言がいえなかったのだろう?

もう彼とは終わってしまうのだろうか?
そんなのは嫌だ。
初めてアポを取らずに電話してみた。
話し中……。
もうだめだと思ったとの時、電話が鳴った。

……彼からだった。
二人とも同時に電話していたことが分かって笑いあった。
そして少しの沈黙の後、私は胸に手を当てて口に出した。

「大好きだよ」「誰よりも大切だよ」と。
何故だか涙が溢れて、そのあとは言葉が出なくなった。
彼は『ありがとう。僕も大好きだよ。明日、会いに行くよ』と言ってくれた。

言葉にする大切さが分かった時、二人はまた一歩近づけた気がする。
いくら心の中で想っても、言葉にしなければ伝わらないこともあるんだ。
これからはもっともっと素直になろうと決心した。

彼との出逢いは、私の中の何かを変えてくれた。
オシャレをすることで気分は上げられるけど、もっと大切なこと。
それは素直になること。
自分の心に正直になること。
そして、心の内を伝えること。
大切な人なら尚更だ。

彼とは前よりもう一歩近づけた気がする。
翌日はお互いに思っていたことを話し合い、少しタバコの匂いのする甘くて苦い口づけを交わして、私の気持ちは決まった。

今度は私が彼の街に行こう!

こうして二人がもっともっと近づけたらいいな。
その先に待っているものはわからないけど、気持ちを素直に口に出して、お互いを大切に思っていれば、いつかきっと……。


今隣に彼がいる。
手を繋いで、もふもふの毛布にくるまって。
テーブルには入れたてのココア。
なんて幸せで、なんて安心できるんだろう。

この幸せがずっと続きますように。
今年のクリスマスプレゼントはお互いに“言葉”にしようと話し合った。

私の“言葉”はもう決まっている。
彼はなんて言ってくれるかな?

聖夜の夜に奇跡が起きますように……。

この恋はまだ始まったばかり。
そしてこれからは二人で育てて行くのでしょう。

彼の心の中には同じ“言葉”が用意されていた。

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