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先月まで二ヶ月かけてマッチングアプリで三、四十人の女とやり取りをした。そのなかで僕はK子に決めた。ディズニーランドの写メがインスタ映えして素敵だった。ポチャとあったが気にしなかった。

K子に決めると、他の女には「アプリやめます。あなたに良いご縁を」とコピペを送ってアカウントを停止した。それ以外に、二人の女と寝た。二人ともポチャだった。K子と寝る前提でのお試しだった。我ながらひどい男だと思う。ひとりは登戸の保育士のミケポだ。マンコが小便臭い女だった。もう一人は西川口の鉄工所の事務員でずっと濡れたままの絶叫系の女だった。

僕はK子と夜な夜なLINE通話をした。

「で、本当に奥さんだけなの、人生で殴った女性ってのいうは？　」

「じつはそれだけじゃない」

「ぜんぶ、吐いちゃいなさいよ」

「もう一人いて」

「で、中国の彼女Cは妊娠したあとどうしたの？　」

「堕（お）ろした。その時の、別のセフレGがCの堕胎手術に付き添った。僕は部屋に篭（こも）っていた」

「あんた、本当にひどい男ね」

「初めて言ったよ。他者に。懺悔室でもないのに」

「私とヤル前提で二人の女を抱いたわけ？」

「ああ」

「海外ではデーティングっていうの」

「デーティング？　」

「私、アメリカに留学経験があって帰国してからデーティングの意味を知った。デーティングの期間は複数の相手と付き合う。それがアメリカ流のお付き合いの暗黙の了解」

「一応、その件は僕の愚行録に入らないわけだ」

「いま私四十四歳だけど生ではヤラない」

「子宮筋腫の手術をしたから？　」

「それとこれとは別、アンタ、女性の体ってか、そもそも女性についてなにひとつ知らないのね」

「うん。だからK子のことをもっと教えてよ」

「小さい頃、母が離人症だった。母はなぜか私に殺意を抱いて私の首を絞めた。母は私を殺しにきた。父は私を打って教育をした。だから私は父が怖くて母のことが言えなかった。小五のときに、実際に絞殺されて、心肺停止になった。病院で蘇生したけど、半年間、寝たきりだった」

「自分が怖いのよ。母の血が私に流れているのが。もし私が子を産んだら、私も母のようになって自分の子の首を絞めるんじゃないかって」

「僕によく言った」

「アキちゃんの愚行も大概だったけどー」

次の土曜に僕たちは葛西臨海水族園でデートをした。

その後、K子が好きな駅下のスタバに寄って、神田のネカフェに入った。

「キスだけねー。いまは生理中だから」

「うん。昨日からの約束だもん」

「そんなこと言ったって、男って我慢できないのよねー」

「我慢するよ。K子を最後の女にしたい」

「あら、カッコつけちゃって」

「Kちゃん黙ってキスに集中して」

「あ、あぁ」

「身体は正直なんだね」

「ばか」

僕は高崎線で帰る。K子は京葉線だ。分かれ目の秋葉原駅で別れた。

K子は大手企業の総合職で課長職だ。僕からは勝ち組に見えた。

K子はホームに立ったまま笑顔で僕に手を振った。

列車はなかなか出発しなかった。

K子は、僕にキスをされて何度も舐められて、化粧が落ちた笑顔のまままだ片手を振っていた。ラメの入った爪が光っていた。健気だった。電車のなかで僕は恥ずかしかった。けど、K子の潤んで澄んだ瞳は逸すまい。山手線が発車するまでK子の笑顔を見つめた。

次の日、K子からLINEが来た。

「アキちゃんとは付き合えない。アキちゃんを彼氏として見えない」

「K子にとって僕は友達なんだ」

「アキちゃんは『私とただの友達じゃあ、嫌』なんでしょ。となると、私たちもうお別れだねー」

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K子。僕の言うことを聞いておくれよ。

僕はね、K子が言う友達としても残りの人生を過ごせるような未来がやって来る。そんな気がするんだよ。

「夫婦」でも「家族」でも「パートナー」でも「友達」でもない「アキちゃんとK子のスペシャルなカップル」みたいな？

だって、未来って誰にもわからないだろう？

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僕は、K子にLINEを送ったが返信はなかった。K子にブロックされたようだった。