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派遣王女☆ウルスラ / 第7話(7,854文字)

■第7話■

扉絵

異界
その星は何かが原因で自転をしないようだ
球体の半分は陽が当たらず、見わたす限りの雪の大陸だ
日の射さぬ黒い日陰の半球
それが今回の舞台
雪の王国であるグラン・ケ・フレディシマ王国だ
曲がった地平線の陽があたる地表に黒くかがやく城
それは日光領土を支配する大公爵家が支配するノルドン大公国の城だ
こちら側の国は常夜大中小の月が三つならんで浮かぶ


1頁 フレディシマ領地


針葉樹林に覆われた氷山の火口から
間欠泉のごとく滝壺の獣のゲロが吹きあがる
ゲロゲロゲロゲロゲロゲロ〜ッ!!
「ひゃっほー!!」
ウルスラ、ボッチ、ルーシーの登場
「あれッ!!」

三人は空中で瞬く間に凍って
ガチガチガチガチ………
凍ったまま雪上に落ちる
ドサッ
クマの親子が歩いてきて、ウルスラに噛みつく
ガブッ
ゴリッ
「グヘッ!!」
歯が欠ける母グマ
母グマは頬を両手で押さえて立ち去ろうとする
子グマはナイフとフォークで食べようとする
(…やめなさい、食べてもきっと不味いわよ…)
親子グマは立ち去る
(ママ、今日はハンバーガーがいい)
(昨日食べたでしょ!!)
(まわる寿司は!?)
(あそこは食中毒でまだ営業停止……)

翌る日の夜
雪はしんしんと降りつづける
雪像になって雪に突き刺さるウルスラ、ボッチ、ルーシー
遠くから狩猟する貴族が現れる
貴族たちはそれぞれ、四頭だての橇、スノーモービル、エアスパイダー、ドローン、ラジコン機などに乗ってマンモスを追いかける
凄まじい勢いで貴族は雪原を走り抜ける
貴族の服にはノルドン公爵家の紋章が見える
ガンッ、ガンッ、ガンッ
ウルスラ、ボッチ、ルーシーは跳ねられる
六本の足だけが雪原に突きだす
翌月の夜
狩猟を終えた貴族たちはノルドン大公国の城へとまた走り去っていく
翌々月の夜
ドドドドドドドッ
雪崩が起き、ウルスラ、ボッチ、ルーシーは雪崩にのまれる
雪中のなか、隣に凍ったマンモスがある
翌翌々月の夜
女王が城へ向かうカボチャの橇
巨大除雪車が道を作っていく
ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ
巨大除雪車に弾かれるウルスラ、ボッチ、ルーシー、マンモス

4個の雪像は凍った湖に落ちる
湖底に沈むウルスラ、ボッチ、ルーシー、マンモスは巨大魚に食べられる
麦わら帽子をかぶった巨人が釣りをしにやってくる
巨人はスコップでせっせと穴を掘り、キャンプ用の椅子に腰かけ糸を垂らす。
怪物魚がかかる

バシャッ

月あかりを背に
怪物魚が飛びあがる影
巨分は薪に火を焚べて巨大魚を丸焼きにする
ボト、ボト、ボト
薪が燃える上に落ちる三人

あぢ〜ッ!!

三人は飛びあがる!!
麦わら巨人にぺこりと深くお辞儀をする三人
熊に誘われて三人は一緒に魚を食べる
「ありがとうございました!」

ぱちぱちと炭は爆ぜる
「で、ここが、パブロ爺の文通相手のいる…」
周りを見わたすボッチ
傾いた道標が火にあたってみえる
《☟ここ、グラン・ケ・フレディシマ王国領地》
《☜あっち、グラン・ケ・フレディシマ城》
《☞だいぶ向こう、ノルドン大公国》
《︎☝︎そこ、出会いの酒場》
と書いてある
ボッチは
「ここはフレディシマ王国で」
「あっちがそのお城で」
「かなり向こうがノルドン大公国で」
「酒場はそこです」
ウルスラはうなづいて
「なるほど〜……へぇ〜」
「って読んだだけやないかいッ!!」
ウルスラはツッコむ。ボッチはイタリア語辞典をだして
「フレディシマは…」
パラパラとページをめくる
「…スラングでクッソ寒い!!」
「つまりこの国の名前は…」
「クッソ寒い!!王国です」
ズコッー!!

ルーシーはガタガタ震えている
ウルスラは明かりがついたログハウスを指さして
「ルーシー、あそこの酒場で温まろう!!」
「ぬる燗があるかも!!」
ボッチはさけぶ
「お嬢ッ!!」


2頁 出会いの酒場


カラン
酒場のなかは暖かい。つくりは質素だがテーブルには肉料理やワインや魚料理や果物などがならぶ。繁盛している。カウンターではスーツを着た疲れた男が焼き魚をつつき、奥では若い赤髪の女がグラスを傾けている
トイレの手前の小あがりの座敷では氷の妖精の家族が韓国焼肉を食べている。網の上に蛇腹ダクトがついた椅子席では狩人や騎士がジンギスカンを摘まんでいる。《reserved》とプレートがある奥の個室では貴族がどんちゃん騒いでいる
カウンターをみると髭を生やしたコップを拭くマスターがいう
「食券を買って」
「ショッケン?」
「後で頼むんなら、赤色のボタン」
「食券制度ですね」
テーブルを忙しなくまわるバニーガール姿のウェイトレスがやってきて
「まずはそれを押して。突き出し代だから」
「これ。ですか…」
「あとでゆっくり頼めばいいわ」
ウェイトレスは去っていく

3頁 三人の賞金


壁にデカデカと三枚のポスターがある
「ぎゃっ」
「どうしよう………」
先ほどの巨人が窓を叩く
窓からは巨人の片目だけが見える
「あら、まっちゃんどうしたの!?」
巨人のまっちゃんは窓の外で、盃をクイッとやる
「死神殺しね。先週樽で入ったから裏にまわって」
まっちゃんはウルスラたちに気づく
ウルスラたちはマイムで賞金首のポスターをさすと気づくまっちゃん、毛皮のコートを三つを窓から投げ入れる。三人、毛皮にまとう
ボッチは食券を買う。三人は顔を隠して奥の方のカウンターに座る
若い赤髪の女はウルスラとボッチとルーシーとポスターを交互に見る
それから酔って真っ赤になった顔をパッと破顔させ
「マスター、この三人に…」
「大吟醸十六代を一合ずつ…私の払いで」
赤髪の女はいう
「太っ腹だねえ、サクラちゃん」
マスターは答える
「ああ、金なんか命あるときに使わないとね」
サクラはカウンターに突っ伏す
「そりゃそうだな」
マスターはコップをふき、笑う。サクラはぼやく
「命がなくなったら金なんて意味はないさ……」
カウンターに突っ伏したまま赤髪の女は泣き始める
「どうしたんですか? このお嬢さまは」
「泣きたくなるときは誰にだってあるさ」
マスターは、サクラに
「カードで?」
「ガルディで?」
「ガルペイで?」
サクラは
「いや現金で」
えーんえーん

ボッチはタコワサビと蛤とサザエの磯焼きとオムライスとお子様ランチ二人分を頼む
「まいど」
マスターはいう
ボッチはマスターにエッダの写真を見せる
「この美女、見かけませんでしたか?」
マスターはいう
「ほう、こりゃまた…美人だねぇ…」
「…王女ヒルデさまとどっこいどっこいだ」

4頁 変身できますか?


ウルスラはいう
「おじさん」
マスターは二人のお子様ランチのライスにフレディシマ国旗とヒルダ女王の顔の旗を立てる
「なんだい?」
「変身できるとこある?」
ズコッー!!
ボッチとルーシーはズッコケる
「変身ねえ………」
マスターはコップを拭き、考える
「そんなとこあるんかいなッ!」
ボッチはツッコむ
マスターは網に蛤とサザエを乗せ、取り箸でたこわさびを小鉢に盛りつける
「あそこの、オランド・キアラ夫妻はできるんじゃない?」
カウンターに入ってきたバニーガール姿のウエイトレスは、小上がりで韓国焼肉をつついている氷の妖精の家族を指さす
「アケミちゃん、家族で食事中なんだから」

ウルスラは小上がり席へ走っていく
「こんわっち!」
ウルスラはいう
「はい、こんわっち!」
氷の妖精家族は答える
「変身させてください!!」
ズコッー!!
カウンター席はズッコケる
氷の妖精夫妻は耳打ちする。ウルスラはいう
「ここの食事代を奢ってくれたらいいって!!」
ボッチは財布をのぞいて、泣きながら両手でOKサインをだす

5頁 多目的トイレ



《お手洗い》の暖簾がかかる前
多目的トイレから出てくる男が、女に一万フレッド札を渡している姿をやり過ごし
ママ妖精は三人を連れて多目的トイレに入る
ピカッ!!
多目的トイレはマグネシウムが発光するように輝く
出てくる四人の影
小上がり席から手があがる
アケミが給仕にいく
「ピッチェカルビ、上タン、チゲ、冷麺、カムテプガク(カジメの薄揚げ)、チェックサル(牛の腰下の肉)、韓牛のジョン(チヂミ)、アマダイの蒸し煮、コチュジャン、カルビチム、ユッケビビンパプ、チャックテンダーユッケ、韓牛とアワビとセリのお焼きとエビなどを薄切りにして韓牛から時間をかけてじっくり出汁をとったスープ、紅参ビンソン、紅参(6年ものの高麗人参)を使った人参アイスクリームを〆で」
妖精ママはウルスラたちにピースをする
アケミは
「まいど」
ズコーッ!!
ボッチは財布を逆さまにして泣く

6頁 仮面舞踏会開催


トイレの通路から出てくると、居酒屋のなかの時が止まった。誰もが息をのんだまま呼吸を止めていた。それから一気にざわめきがあがる
ウルスラは世界を破滅させるほどの美しさで
ルーシーは世界を救うほどの妖艶さで
ボッチは魔王級の美男子になっていた
ウルスラとボッチとルーシーはカウンターに座り直す
「ど、どんな魔法だったんだ…」
マスターは訊ねる。ボッチは答える
「本来の姿いや、ちょっとのあいだの仮の姿に」

後ろから、ネーチャン。と下品な声がする
ウルスラとルーシーはは振り向くと男が五、六人、色気で卒倒する
マスターとアケミは
「美がヤバすぎる!! ヒルダさまに匹敵するわ!!」
マスターは思い出して
「あっそうだ!! 仮面舞踏会が開かれるぜ!!」
アゴで壁のお尋ね者のとなりのポスターを指さす

☆フレッド歴63987年、287月9021日☆
☆第7648回グラン・ケ・フレディシマ王国主催☆
      ☆大舞踏会を開催☆     

居酒屋は活気づく
「おおッーー!!」
「そうだった!!」
「7648回連続優勝をつづける…」
「ヒルダ女王に伏兵があらわるだ!!」
奥に座る楽隊のよう一団が楽器を持ちだす
彼らはフルートや バグパイプやハープやアコーディオンやバンジョーなどを演奏し始める

7頁 ノルド公爵家長男ギューク


「なんだ、下等民よ。騒がしい!!」
奥の個室から貴族が現れ、背の高い体格のがっしりした男は太い声でさけぶ
男は無数のスラッシュが入った丈の長いシャツに金襴のビロードの服地のチュニックをかぶり、袖のスラッシュは宝石でつないで強調し、70センチある厚底の靴を履いていた。股間には、コッドピーズと呼ばれる金貨やキャンディを入れる袋状の小物入れをぶらさげている。男は自分の魅力は形の良いふくらはぎだと思っていたために極端に短い足を白いストッキングで美しく見せていた。
男のまわりにいる貴族たちの紋章はザルツニルベン太公家の紋章だ。
ウルスラは男の目の前にガルド金貨を投げる
「あッ、超激レアの500ガルド金貨だ!」
男は500ガルド金貨を拾おうと前につんのめってシークレットブーツが外れた。
男の背丈は美女ウルスラの膝下までしかなかった
「ぎゃっはっはっは!!」
酒場のなかは爆笑の渦になる
「だまれッ!!」
酒場はしんとなる。激昂した男はさけぶ
「ここにいる...貴様ら全員!!………こんご一歩でも…」
「わがノルド領地に踏み入れた者は…ノルド太公国入寇罪とし」
「……即刻、斬首刑とする!!」
「ひいぃ!!」
「娘が嫁いでいるのに…」
「朝、ノルドからやってきたのに…」
「そりゃ、あんまりだぁ〜!!」
「明日はどこにかえればいいんだ…」
服の埃をぱんぱんと払う男
「申し遅れた。私ノルドン公爵家…」
「…の長男、ノルドン・ギューク・エリントンと申す」
「あなたも仮面舞踏会に? じつは私も毎年………」


8頁 くノ一サクラ


カウンターで突っ伏していた赤髪の女サクラはさけぶ
「ザルツニルベン太公家および…」
「ノルドン公爵家その一族よ!!」
「ノルドン公爵家その嫡男…」
「…ノルドン・ギューク・エリントン!!」
「たしかに、私はギューク・エリントンだが…」
サクラは懐から小刀をだす。ギュークは笑って
「物騒な…お嬢ちゃんはどちらの方かな?」
「貴様にいってなんになる!!」
「貴様は、戦争や紛争や虐殺でいくらの民を殺したんだ!!」
ギュークは高らかに笑う
「面白いことをいうね、きみは…」
「私が百万の兵を引いて国を滅ぼしたとて…」
「…私には罪などは微塵もないのだよ」
「私は、ただノルドン家に生まれてきてしまっただけ」
サクラは小刀を構えギュークを睨む
「ごほん。きみにひとつ聞くがね」
「もしきみがノルドン家に生まれていたら」
「きみは戦争を防げたというのか?」
サクラは睨む
「きみだって一度、戦争に行けばわかるさ」
「戦争は、戦争という大きな生き物なんだ」
「人間が止めようとしてもダメなんだよ」

「うるさい、黙れ!! 父の仇だ!!」
サクラは三人に残像しながらギュークに突進してくる
パシッ
腕をつかまれる
サクラは腕を絶世の美男子になったボッチにつかまれ
はうッ!!
ボッチのあまりの美しさに見惚れ、失神する
ボッチはギュークに
「ここは私たちに免じて、お引き取りねがいたい」
「キサマの面なぞ見たことはないぞ!!」
「生まれて二十五億年、こんな顔でおます」
ウルスラはルーシーに賞金首のポスターを指して
「ごく最近にあの醜男になったのね」
ボッチはウルスラとルーシーにツッコむ
「醜男(ぶおとこ)いうな〜ッ!!」
ギュークは笑っていう
「ま、ノルドン公爵家は器は小さくはありませぬがな」
ウルスラはルーシーに囁く
「あいつは…ケチンボ…チンケな…チャチな…偏屈…さもしい…こせこせ…ちまちま…しぶちん…狭量…偏狭…ケツの穴……」
「おんどりゃあッ!! じゃかーしぃわいッ!!」

ぜえぜえぜえ…

シークレットブーツを履いたギュークは片手をウルスラのあごにつけ
「では、この貴族の恥の落とし前…」
「絶世の美女でおられる…お嬢さまに…」
「…どうつけても・ら・え・る・の・か・な?」
「私の第十九番目の側室にでもなりますか?」
ギュークとその取り巻きたちはどっと笑う
「ぎゃっはっは!!」
「こんなボロ居酒屋みたいに!!」
「小料理でも経営してもらってな!!」

ギュークはいう
「私と踊られることを引き換えに…」
「…ノルド太公国入寇罪の件の反故に…」
「…してやっても良いがな……」
「お美しいお嬢様…あなたのお名前は?」
「………ウルスラです……」
「…私のウルスラよ…仮面舞踏会でお会いしましょう」

サクラ泣き崩れる


9頁 駆けこむフリード


ドンドンドンドン
酒場のドアが叩かれる
ガタンッ
ドアは開かれる
フードを深く被った男が火傷を負った赤ん坊を抱え、酒場に駆けこんでくる
「だれか!!助けてくれ!!」
「赤ん坊が大火傷なんだ!!」
「火事に襲われて、このなかに…」
「…どなたか医者はいますかッ!?」
「だれかッ!!」
男はフードを剥いで大声でさけんだ
「…この子の命を…」
「助けてくれッ!!」

酒場の中は静まりかえった
だれも答えようとしない
(男のアップ)
男は顔が溶けた醜い怪物のような大男だった

「だれか!!」
「おれは農民だ」
「ンだンだ」
「肥溜めに手ぇつっこんで畑を耕すだ」
「来年、おら東京さいぐだ」
「ンだンだ」
楽隊たちは楽器をしまい始める
「明日は朝がはやい出発だな」
「そろそろ宿に戻るかな」
「がっはっはっは!!」
ギュークは大笑いする。真横にいる背の高い男に話しかける
「たしか……ゴザロ殿は軍医ではなかったかな」
「去年までは上級軍医でした。が、いまは…」
「…ラ・ザムザダール軍暗黒師団……」
「第810(ハチイチマル)機械化部隊長に昇格しました」
ギュークたちの取り巻きがいう
「未来のないガキなど、助けてどうなる!?」
顔が溶けた男は赤ん坊を抱え震えている
「この赤ん坊にどうかご加護を!!」
「医師は神の名のもと……」
醜男はギュークの目を見て懇願する
「…いかなる命もおなじ重さと!!」
ギュークは醜男を制して
「神に見放されたような醜い顔のお前がいうな」
「がっはっは!!」
ギュークの取り巻きは継ぐ
「たとえ、その醜い命が救われたとて」
「この貧しい国の穀潰しになるだけだ」
「お前みたいな醜女(しこめ)になっら…」
「火傷で死んだほうが幸せというもの…」
ゴザロはいう
「貴様の名は…」
醜男は答える
「フリードにございます」
ゴザロはフリードに
「フリードに訊ねるがな……」
「お前その顔で人生は幸せだったか?」
フリードは赤ん坊をつよく抱く
ゴザロはいう
「生きていて……」
「楽しかったのか?」

ギュークたちは大笑いする
「ぎゃっはっは!!」
すると、酒場内もつられて大笑いをする
野次馬たちは笑う
「ぎゃっはっはあ。はやく連れて帰れかえれ!!」
「そうだ、そうだ!!」
「飯がまずくなるぞ!!」

10頁 女王ヒルダ



カラン、カラン

ヒルダ登場
「おおッー!! ヒルダ女王!!」

ギューグなどの爵位をもつもの以外はみんな床に片膝をつき胸に拳をつける
ヒルダはいう
「わたしがみなさんを邪魔してるのよ」
「皆さんがお楽しみの場所では結構よ」
「どうぞ膝をあげてみな楽しんで!!」
ヒルダは笑う
パッと、酒場内に赤いバラが満開に咲き乱れる

ワッー!!

楽隊はまた楽器を取り出して演奏を始める
みんな歌い始める

「♪あっヒルダさま、ヒルダさま」
「美人のうえに、頭(おつむ)良し」
「品格、風格、気だてよし」
「才色兼備に、器量良し」
「婿のきてありゃ、文句なし!!♫」

「かんぱ〜い!!」
「がっはっはっは!!」

ボッチは訊ねる
「この歌は………」
ヒルダは答える
「この国で、国歌に次ぐ有名なわらべ唄です」
美女になったウルスラとルーシーも民衆とともに踊る
コラー!!
ヒルダは笑って怒る

きゃっはっはっはっ

「ささ、ヒルダさま、わしらがいっぱい奢りまさあ!!」
「農夫のあっしから、一献(いっこん)どうぞ!!」
ヒルダは優しく遮って
「その、赤ん坊どうしたのです?」
フリードに抱かれる赤ん坊はまるで真っ赤な肉の塊のようだ
「ばぶ、ばぶ、ばぶ、ばぶ…」
フリードは床を見て答える
「火事に遭いまして……どうか」
「ヒルダ王女さまのご慈悲を…」
ヒルダは赤ん坊を見つめる


11頁 ヒルダの回想


ヒルダの回想
三つ月の満月の夜
フレディシマ城は火事になっている
ヒルダの母
「ヒルダ!! だれかヒルダを助けて!!」
王妃の間に入ってくるスノーデル国王
「エイリーン!! 無事か!!」
「裏切られた!! 副将ボーディンに!!
「やつがここに火を放ったのだ!!」
天蓋つきベビーベッドが燃えている。中で赤ん坊が泣いている
「ああ〜!! ヒルダ!! 」
エイリーンは火の中へ走っていき燃えるベビーベッドからヒルダを取りだし
火だるまになってスノーデル国王に渡す
スノーデル国王は赤ん坊をシーツで包み火を消す
「だれか!! だれかおらぬか!!」
スノーデル国王はさけぶ
「はっ!!ココに!!第九勇者討伐遠征軍白虎旅団長のジーク・ボリス大佐であります!!」
スノーデル国王は、旅団長を睨む
「きさまあ!! ジークといったなっ!! 貴様が我がフレディシマ国王がみた最後の勇姿ぞ!! ヒルダを頼んだぞ!!」
「国王は?」
国王は優しい顔をしていう
「ジークよ…妻を置いて逃げるような国王に…」
「この国の……どの民がついてくるんだ……」
国王は笑って涙をながす
「ヒルダを頼んだぞ!! 窓から逃げるんだ!!」
ジーク隊長はさけぶ
「スノーデル国王!!」
国王は大粒の涙をながしながら
「フレディシマ国王七世…」
「わが妻と灰となり燃え尽きようとも…」
「きさまの命綱はぜったいに離さんッ!!」
ジーク・ボリスは赤ん坊のヒルダを胸に縛りつける
三つ月の満月の夜に燃えるフレディッシマ城の影
王妃の間の窓からロープで降りるひとりの兵士の影


12頁 エッダ婆


ヒルダは真横にいる老婆に声をかける
「エッダ婆」
「はいな、ヒルダ姫」
「その赤ん坊を、大至急、城に運びなさい」

ウルスラとボッチとルーシーはコソコソ話をする

ヒルダは醜男に
「あなたの名前は?」
「フリードと申します」
「あなたは、あの赤ん坊の父親ですか?」
「ただの通りすがりのものです」
「あなたは家に帰りなさい」
「はい」
醜男はヒルダに深々と頭をさげて店をでる。

酒場の外
しんしんと雪は降る
醜男の後ろ姿の影が小さくなる
エッダ婆と呼ばれた老婆は、侍従たちに指示をして、《救急》とプレートがある豪華なカボチャ馬車に赤ん坊を運びいれる。エッダ婆も乗り込む
ウルスラとボッチとルーシーも乗り込む
エッダ婆は驚いて

「あなたがたは? どなたかしら?」
「エッダさんですか?」
「え? はい」
「パウロ爺からのお手紙です!!」


第8話へつづく


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