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『片想い中の女性の前でスベリ倒したら結婚したくなった話』

(ネタを披露)
「コント!死亡フラグ!」
(1人の男が空家に逃げ込んでくるシーン)
「やっとゾンビの群れから逃れられた…。ここに空家があって良かった」
(男の子が隠れている)
「ん!?あんなところに子供が!?君、大丈夫かい?」
「うん、おじさんは?」
「ちょうどこの家に逃げて来たところなんだよ。君は?」
「僕はパパとママとはぐれちゃってここに1人で隠れていたんだ(泣」
「そうだったのか…。それなら俺がパパとママのところに連れて行ってやるよ!」
「え!?だって外にはゾンビが…」
「あんなノロマな奴等、この俺の腕力と俊足があればあっという間さ!」
「おじさん!それ死亡フラグだよ」
「…死亡フラグ?」
「うん、調子に乗って油断しているキャラほど死にやすいものはないよね!」
「…何を言っているのかよく分からないな〜。それより窓から外の様子をうかがって隙があればここを出発するよ!」
「おじさん!それ死亡フラグだよ」
「何が?」
「窓の近くにいる人ほど死にやすいものはないよね!」
「これもなの!?あのね、俺はそんな事いちいち気にしている暇はないんだよ。早くここから出て…、ってゾンビが家に入ってきた!!」
「おじさん!行こうよ」
「ここは俺が何とかする!君は早く逃げるんだ」
「でも…」
「行け!行くんだー!」
「うん!でも身を挺して仲間を守る行為も死亡…」
「やかましーな!」

事務所のお笑いライブに出演するにはライブに出るためのネタ見せに合格しないといけない。
何十組も挑戦する中で受かるのは5〜6組の狭き門なのだ。
そんな私は当時、ぬけたクランクというコンビで活動していた。
ネタ見せが終わるとお笑いの作家さんからダメ出しを頂ける。
「ぬけ?ぬけた?クラ?クランク?え〜っと、まず名前がめんどくさい!」
まさかのコンビ名からの出だしだった。
さいさきが悪そうだ。
「死亡フラグってメジャーな言葉だと思ってるかもしれないけど、年齢層が上がると伝わらない可能性があるから説明は丁寧に」
的確な指摘。
「ちなみにどっちがぬけた人でどっちがクランクの人?」
タカアンドトシさん感覚で言われても困る。
名前分けなんてしていない。
「じゃ、右の人(私)!うーん、演技が残念!」
大声で一刀両断された。
あなたは波田陽区さんか。
「演技が悪いと内容が入ってこないからもっと練習しよう」
コントをするうえで1番大事なところ。散々な結果だった。
しかし、
「でも今回のネタは今までで1番良かった!ライブ頑張ってね!」
なんとライブに出演が決まったのだ。
どんだけツンデレやねん。

今回のライブではある目的があった。
それは片思い中の女性にネタを見てもらって爆笑という格好良いところを見せつつ告白。
最高のプランだ。
作家さんからも今までで1番良かったとお墨付きなのだから間違いはないはず。
担当した芸人の中で過去1でこれで売れっ子の仲間入りだねと言われた気がする。
いや、あの期待の眼差しは言ってたな。
早速彼女との旅行を計画的しなくては…。

本番当日。
会場は満員御礼で賑わっていた。
流石にお客さんの前で披露するのは緊張する。
しかも、大好きな人が見ているのだから無理もない。
更に心配なのがネタも大事だが出番順もかなり重要視される。
会場が温まっていない状態だとせっかくの売れっ子のネタでもややウケに終わるだろう。
盛り上がりをみせる中盤辺りが望ましい。
気になる順番は…、
トップバッター…。
フラグ立ち過ぎなんだよ。
このライブ自体が時間とお金を掛けた1つのフリなんじゃないかと思う程だ。
しかし、やるしかない。

開演。
次第に体が震え出す。
…。
コンビ名が呼ばれ勢いよく舞台に登場。
その瞬間に彼女と目が合う。
客席の最前列に座っていた。
やりずれー。
しかし、これは愛の試練!
彼女と付き合えるというフラグなのだ!
爆笑かっさらってくるぜ!

「コント!ちぼうフラグ!」
この瞬間、私の死が確定した。
「ヤットゾンビノムレカラノガレラレタ〜。ココニアキヤガアッテヨカッタ〜」
緊張もあいまって信じられないくらいの大根演技が炸裂する。
「ン?アンナトコロニコドモガ!?キミ!ダイジョウブカイ〜?」
お前の方が大丈夫かとお客さんの目線が訴えてくる。
ネタがすべったときは換気扇の音が聞こえると先輩に聞いたことがあるが、私の場合は外で走っている救急車のサイレンが聞こえた。
何とか必死に取り戻そうとするが大根演技が棒読みになっていき被害が拡大するだけだった。
徐々にお客さんが死んだ魚の目をしていくのに気が付いたのだが時は既に遅し。
安心してくれ。
死にたいのはこっちだ。
ネタをやり切ることにも意味があるので無我夢中で進めることに。
最後に【どうもありがとうございました】と言うことでネタが終了した合図になるのだが、心の底から彼女に申し訳ないと思ったのか、
「どうもすみませんでした」
と本音が声に出てしまう。
すると、会場で最初で最後の笑いが起きてしまうのであった。

ライブが終わると出待ち対応になる。
芸人が来て頂いたお客さんの元へ足早に向かうのだが…行きにくい。
ウケが1回だけなんてどんな顔をして会えばいいか分からないからだ。
ってか、あれをカウントしていいのか。
モタモタしていると、
「お疲れ様!」
と私を見つけた彼女が声を掛けてくれた。
スカートが似合う清楚系で可愛いという言葉しか出てこない。
好きフィルターが付いているせいもあって天使にしか見えなかった。
考えてみればとても理解がある人なので優しく迎えてくれるのではないか。
面白かったよや良かったよと言って笑顔で接してくれるに違いない!
思い切って感想を聞いてみると、
「私は大丈夫。大丈夫だったよ」
自分に言い聞かせている時点で絶対大丈夫じゃないやつだ。
天使は気遣い上手だった。
「これ良かったら」
なんと差し入れを持ってきてくれていたのだ。
ラッピングが可愛い手作りの生チョコ。
天使は料理上手だった。
「人を楽しませる仕事って素敵だと思うからこれからも頑張って!」
天使は励まし上手だった。
もう告白しないからプロポーズさせてくれよ。


その後はたわいもない話をして解散する流れとなった。
今回の失態を考えるとやはり言えなかった。
タイミングはこれからいくらでもあるだろうから次こそは絶対格好いいところを見せよう。
天使の後ろ姿を見送っているとそこに相方が現れ私の肩をポンと叩く。
「残念な結果だったけど僕達は全力でやり切ったよね。でも…」
どうやら相方なりに優しい一言を添えてくれるようだ。
やはり持つべきものは相方だ。
「恋人や奥さんの恋愛を持ち込む人って死亡フラグだよね」
この時、生まれて初めて人を殺めたいと思った。

#創作大賞2023 #エッセイ部門 #お仕事小説部門  

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