夜。
その夜はとても激しく雨が降った。
手元のスマートフォンで時間を見ると深夜ニ時。築六〇年の木造アパート。立て付けの悪い雨戸。ガタガタと揺れ、定まらない。しばらくぼうっと宙を眺めていたが眠気が再び訪れることはなく、諦めて上体をむくりと起こした。
シパシパと目をまばたかせ、ぼんやりとドアの方を見た。目はまだ慣れてなく、ただそこには闇があるだけだった。
その夜、その時、不思議な感覚に陥り、その瞬間だけ僕の周りの気配は一切を遮断した。何年も住んでいる部屋。四歩歩けばコタツがある。その奥には扉があり、扉の横に仕事机がある。
目を瞑っていてもどこに何があるか把握できるほど馴染んでいる部屋で、僕はこの夜のこの瞬間だけ、あたかもそこに彼女がいる感覚に陥った。延々と続くかに見える暗闇に、少し手を伸ばせば触れられるような、そんな感覚。
かつて、彼女はそこのコタツで寝ていた。僕がどんなに布団を買おうと言っても頑なに拒否し、コタツと座布団で丸まって寝ていた。それは外敵から身を守る防衛反応が生まれつき身についているような寝方で、硬く、しかし、心地良さそうに僕の部屋で静かに寝息を立てていた。
生活費になります。食費。育ち盛りゆえ。。