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麻雀と覚醒剤

※フィクション

そいつが覚醒剤(シャブ)をやってるのは誰しもが知っていた。

その日も待ち受け画面のままの携帯電話を耳につけながら

「ちょっと電話。代走。」

と、アンパンマンのポーチを持って非常階段に消えた。

しばらくして、ソイツは帰ってきた。
さっきまで死んだ魚のような目をしていたのにパッチリとした目で。

シャブと麻雀は非常に相性がいい。
麻雀は時間をとんでもなく使うゲームだ。
雀荘にいる大半のやつがモテないのもそのとんでもない時間や金を服や出会いに使わないで過ごしているからだ。

そして、とんでもない時間打ちっぱなしになると疲れや眠さや体力が無くなってくる。

その脳に三ツ矢サイダーを入れたアイスボックスを打ち込むような感覚がシャブなのだ。

シャブを打って麻雀を打つとどうなるか?

それは牌の裏が透けて見える、人の待ちがわかる‥という訳ではない。

麻雀打ちなら一回はある

『ああ、今日は集中出来てるな。』と思う状態、勉強をする時やスポーツをしている時に体験するゾーン。

それが常に続いている感じだ。
この状態で仕事や勉強をしているとかなり集中できる。しかし、そのうちそれ無しでは何も出来ない抜け殻になる。


その雀荘は駅から離れていて、オーナー、私、シャブ中、そして新規の客の四人で打っていた。

マスターが

「今日は終電過ぎたから朝までこの四人で打つみたいだね。」

というとシャブ中は

「じゃあちょっと電話してくるよ。」とアンパンマンのポーチを持って外にでかけた。

『別にシャブをやるのは勝手だがなんとなく負けたくねーな』

と、もう100回は見直した『むこうぶち』を見ながら思った。

すると新規の客も「全入りなら私もトイレ。」と入った。

一人しか入れないのでトイレの前で新規の客と入れ代わりで入る、洗面所で顔を洗うと歯磨き用のコップが濡れていた。

「‥?」

自分が戻ると同時に新規の客が飲み物を頼んだので自分もコーヒーを頼むとシャブ中が帰ってきた。

早速、卓が立つ。
地方の雀荘特有の暗黙の了解でラス半なしの始発まで打つ。
レートはそんなに高くない、千点100円の鳴き祝儀ありの500円。

私が


ローピンを切ってリーチという。
ピンズはそれしかきっていない。


すると、シャブ中は4ピン、3ピンときってリーチ。シャブ中は

「ツモ」


なんとなくピンズに違和感があった。

新規が初めて

「ピンズ、手出しでしたよね?」

と聞くと

「リーパイしすぎだ、この兄ちゃん。ピンズの下は通るよ。」

と低い声で答えた。なるほど


→から2番目から6を切ったらピンズが

となり、1234ピンは通ると思ったのか。

『677とか何かのシャボとか俺がリーパイしてねーとか色々あんべよ』

とは思ったが

「何でも読まれちゃいますね。」

と答えた。

その後も淡々と淡々と打っていく。
シャブ中は土日丸々と打っているのに目は爛々としていた、していたが代走を頼めずに打っていると徐々に徐々に目が濁って顔は疲れていった。


『もう少しでシャブが切れそうだな』


そんな事を考えていた。
気になるのは新規だ。この人も丸一日は打っている。しかし、凄い集中力だ。


その後、シャブ中はオーラス全員がかなり競っている親で

「これだけは切れない!ノーテン。」といった。
他の3人はテンパイを宣言した。手を見たシャブ中は

「白は!?王牌かよ!?どこだ!?」と王牌をめくったが、マスターが


「白はあなたが鳴いたじゃないか。」と言った


数時間前まではリーパイの細かい所まで見てた男がこれだ。
シャブが切れたとはいえ震えたり、幻覚をみたりはしない。ただエネルギーが枯渇したようになるだけだ。

朝になったしここが限界となりお開きとなった。
シャブ中は車で何処かに、マスターは片付けをするのだが

「もし車で帰るならご新規さんを送ってくれないか?」

と言われたので、駅まで送る事に。


途中、質問をしてみた。


「あなたはさっき何をしていたんですか?」


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