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紫陽花 ─アジサイ─

下の記事の連想で書いた小説です。


紫陽花

穏やかな午後の光の中で、夫が意味ありげな視線を向けてくる。


「さっき、散歩に行ったらばね、紫陽花が綺麗に咲いていたんだよ」

「…そう」

夫の言葉を耳にして、背中に寒いものを感じた。

夫は向かい合う私達の間に置かれた2つのコーヒーカップを器用に避けて、私の手に自分の手を重ねてきた。


「…12月なのに、紫陽花が咲いていたの?」

私は震える声を悟られないよう、夫に返した。

キョトンとした夫の表情。
目をそらす。


「あのね、私剣道でも習おうかと思うのよ。護身術にもなるじゃない?
近所の武田先生のところ、主婦にも人気なのよ…」


夫の表情をチラと見る。
夫はイラつきを抑えられないのだろう。テーブルの下で貧乏ゆすりを始めた。


「私、これからは貴方に守ってもらわなくても良いように、強くなります。竹刀を振ってね!竹刀しない!」


私は震える手で、引き出しから緑の枠が印象的なその書類を出し、夫の前に叩きつけた。



[完]


#小説
#隠語

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