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エピソードⅣ|私のままで

RUIは、小さい頃から舞台に立つことが好きだった。「ガラスの仮面」に夢中だった。小学校から始めたバレエ。待ち遠しかった発表会。キラキラした舞台の前のドキドキする緊張感。舞台に立ってしまえば、もう大丈夫。私が踊れば、みんな喜んでくれる。笑顔になってくれる。私は、それが何よりもうれしい。

小さい頃から優等生だった。学級委員にお勉強。褒めてもらえるし、期待されることだって嫌いじゃない。息苦しさを感じた時もあったけど、大丈夫。私は優等生でいい。

いつの頃からだろう?RUIは、自分に自信を持てなくなっていた。踊ることは好きだったから、大学生になってもう一度バレエもしたし、社会人になってからはジャズダンスもやっていた。やっぱり踊るのは楽しい。でも、小さい頃に大好きだったキラキラした舞台、ドキドキした緊張感は忘れていた。大人になるってこういうことだと思い込んでいた。青森だから、田舎だから。そんな理由も見つけていた。青森ワッツチアダンスチーム「ブルーリングス」に出会うまでは。

2017年5月。青森ワッツのBリーグ2016-17シーズン最終戦は福島県郡山市でのアウェー、福島ファイヤーボンズ戦だった。コラボレーション企画の一環で、チアダンスチーム「ブルーリングス」も初めてアウェーに帯同した。プロ野球楽天イーグルス公式チアリーダー「東北ゴールデンエンジェルス」で経験を積んだ岩舘千歩がディレクターとして率いるブルーリングスは結成4年目。HONAMI、MANAE、KAE、KOKO、NAO、ERI、KAHO、MINAMI、MIRAI。バレエやバトントワリング、多彩な経験を持つ個性豊かなメンバーが集まっていた。

ファイヤーボンズチアとブルーリングスが共演する圧巻のチアパフォーマンスがオープニングを飾ると、第1クォーター終了後、ブルーリングスが定番ナンバー「WE LOVE OUR TEAM」で両チームにエールを送る。応援ツアーで大挙してやってきた青森ブースターと福島ブースターが声をそろえ、ボルテージが上がっていく。

ハーフタイム。「スラムダンク」のテーマソング「君が好きだと叫びたい」が会場に鳴り響いた。両サイドに分かれてコートインしたブルーリングスが、曲の進行に合わせて呼応していく。バレリーナのようにつま先からしなやかに伸びた美しいフォルムとダイナミックなムーブ。誇りを感じさせる笑顔と共に、観客を魅了していく。そして、その動きがコート中央でひとつになった瞬間、青い情熱の炎がほとばしるかのように、ブルーリングスが次々と舞った。郡山のアリーナは歓声に包まれた。

SNSに投稿された動画に、RUIは目を奪われていた。小さい頃に大好きだったキラキラした舞台への思いがよみがえってきた。輝いていた。青森にはこんな素敵なチームがある。自信に満ちあふれた魅力的な女性がいる。チームの指針は「凛とした心を持った輝く女性を目指す―」。私もそんな女性になりたい。いてもたってもいられずメンバー募集に応募していた。何かを押し殺していた自分を変えたかった。

“お人形さん”だよ。千歩さんがパフォーマンス中の写真を送ってきた。笑顔の私。わかってる。この笑顔は仮面だって。NAOやMIRAIの写真からは声が聞こえてくる。GO!GO!WAT’S!私は?チームのメンバーにはなれたけど、笑顔で踊ってるだけ。NAOは同じ青森市内なので一緒に帰ることが多かった。よく泣いてた。チームの足を引っ張ってごめんなさいって。よく笑ってた。私は大好きなブルーリングスの一員なんだ。ジュニアチームのお手本にならなきゃって。まるで初めて妹を持ったお姉さんのようだ。お母さん=千歩さんに叱られてはまた泣いてるんだけど、そんなNAOがうらやましかった。NAOのように自分に正直でいられたら。

MIRAIには試合の日くらいしか会えなかった。今日のRUIさん、声が少し小さかったです。私だったら遠慮してしまうこともはっきり言う。でも、その言葉で明日はもっと声を出そうって思える。今日はすごくいい笑顔でしたよ。私だったら照れ臭くて言わないことも言ってくれる。でも、そう言ってもらえるのはやっぱりうれしい。MIRAIのように周りを気遣えたら。

たくさんの気付き。私が変わっていく

いつの間にか、居心地が良くなっていた。いつの間にか、自分から声を出したいって気持ちになっていた。発表会を楽しみにしていた幼い頃の気持ちに。人の笑顔がうれしかった私。このチームは人を笑顔にする。このチームは私らしい、私のままでいられる。千歩さんは、現役を退いても、私はずっとチアリーダーだって言った。その時はよくわからなかったけど、今はわかる。千歩さんは演じることなく千歩さんなんだ。チアリーダーの千歩さんが、千歩さんのままの千歩さんなんだ。だから私も、私のままでいたい。

地元にプロスポーツチームがあって、チアができることは素晴らしいことだよ。千歩さんはそうも言った。千歩さんはそれを伝えようと青森に帰ってきてブルーリングスをつくった。ブルーリングスは人を幸せな気持ちに、頑張ろうって気持ちにしてくれた。あの郡山の日のようにホームもアウェーも分け隔てなく、アリーナにいる全ての人を。青森は田舎だから何もないって決めつけていた私に、大人になるってこんなものだと諦めていた私に、そうじゃないって教えてくれた。自分が変わるとたくさんの人が応えてくれた。私はブルーリングスに出会えて本当によかった。だから、伝えていきたい。千歩さんのように。MIRAIと目があった。そうだよね、私たちがやらなきゃ。

2020ー21シーズン。岩舘のいない初めてのブルーリングス。ディレクターの役割を受け継いだRUIは幼い頃の自分を思い出していた。キラキラした舞台に立つ緊張感。大丈夫。もう仮面は脱ぎ捨てた。そして、ブルーリングスに心動かされ、同じ思いを胸に集まったメンバーがいる。MIRAI、YUUNO、MAYU、SAKI、NARUMI、MIYUU。そして、千歩さん。ありがとう。千歩さんの情熱は絶やさない。私たちはブルーリングス。みんなを笑顔にするために、私たちはコートを駆ける。

《PROFILE》

RUI(るい)
青森市出身。2017-18シーズンからブルーリングスに在籍。2020-21シーズンより、退任した岩舘千歩さんの後を継いでチアディレクターに着任。

ブルーリングス
青森を愛し、青森から輝く女性像を発信する。チーム名には、青く燃える情熱の炎が凛と輝いて輪(リング)となり、和を広げるという思いが込められる。Bリーグで戦う青森ワッツを鼓舞するパフォーマンスはダイナミックかつキュート。「青森らしさ」にこだわったチアは、清潔感とエレガンスにあふれ、子供たちや県外ブースターからも人気を集める。Bリーグ発足前年のTKbjリーグではチアグループのベストパフォーマー賞も受賞。チアスクール生で構成されるブルーリングスジュニアチームとともに、青森ワッツのホームゲームを青く彩る。

episodeⅣ | text&photo: Hiroki Nakamura | photo: Shinji Narita | movie:  Hiroki Nakamura, Hiroshi Kasai

エピソードⅣは、2020年12月8日付陸奥新報に掲載されました。

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