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アドボカタス 『はじまりの誓い』と『2つの50円玉』

『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 1~

ワタシはreader。
読み上げる人。
ちょっとした事件があって、それをきっかけにボランティアを始めることにした。
事件について?
それはいいじゃない。個人的なことだから。
ボランティアをすることを家族は知ってるかって?
んん?
ワタシに家族はいないよ。
でも家族みたいな人はいる。
彼らはワタシが何をしようとしているか知ってるわ。
通じあっているもの。共有しているのよ。

ボランティアは、アドボカタス。
グーグル翻訳にかけると代弁する人。
ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述なのだけれども。
言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。
彼らの多くは、気持ちが言葉にならないことでもどかしさを感じている。不便だと思っている。
私はそんな言葉にならない言葉を読み上げるの。

うまくできるかどうかはわからない。
読み上げることで、もやもやが消えてなくなるかどうかもわからない。
でも、知らないでいるよりも、知って臨んだほうがはるかに価値があるということを教えてくれた人がいたから。
それに、本業があるから毎日というわけにもいかない。
けど。
頑張る。

今日は宣誓の日。
これからの展開、お楽しみに~!



でも、せっかくだからひとつだけ。

お話は、ある送信履歴(とはいえ、私たちには受け持ちの送信ボックスが決まっているのだけれど)の送り主、そのお父さんの幼少時にさかのぼる。送り主のお父さんはもらったばかりのお小遣いを握りしめ、本屋さんに向かったの。電車通りを渡った先にある2階建ての本屋さん。ガラス張りで陽光が店内全体に行き渡る、当時としてはモダンな書店だったわ。
少年の買う本は決まっていた。『鉄腕アトム』の絵本。
目的の本は、1階の平台ですぐに見つかった。いさんで手に取ってページをめくる。
これこれ。

喜びのファンファーレが鳴り響き、笑みが顔から蒸気のように噴き出した。

左手に50円玉を握りしめ本を右手にレジに向かおうとした刹那、値段が目に入る。
そんな……。
少年は驚いた。ひゃくえんと書いてある。生気が抜け、ぜんまいが切れた玩具みたいに足が止まる。

しばらく呆然としていると「足りないの?」、学生帽をかぶった制服の学生が少年に声をかけた。
少年は何も言わなかった。幼な心にも、学生のお兄さんが何をしてくれようとしたかがわかったから。
そんなこと、悪くってできない。

readerは少年の真意を読み上げなかった。心の中で念じただけだ。
読めば届いてしまう。これはよけいなおせっかいなのだ、とreaderは思った。
だけどあまりにも思いが強かったものだから、読もうとした気持ちがこぼれ、学生のお兄さんに降りかかってしまった。
霧のように広がった思いは、もはや収集するには広がりすぎている。
「いくら足りないの?」
少年はつい左手を開いてしまう。学生のお兄さんは、絵本に100円と書かれているのをとらえていた。

「はい、これ」

小銭入れから取り出した50円玉を、お兄さんが差し出していた。
ためらいながら少年が50円玉を握りしめていた左手を差し出す。
その上に、お兄さんは差し出した50円玉を乗せた。

当時、50円玉には種類があった。少年がお小遣いとしてもらったのは、今の500円玉ほどはある穴の開いた大きな50円玉だった。そこに小ぶりの穴の開いていない50円玉が添えられた。ふたつの50円玉が重なった時、キンと、澄んだ音を響かせた。
申し訳なさとありがたさが入り混じる気持ちで少年は小さく「ありがと」と頭を下げた。
顔を上げると、お兄さんは少年が最初に見せていた笑み以上の笑みを浮かべている。
以来少年は、折りにふれ、学生のお兄さんがしてくれたことを思い出す。
思い出すだけではない。

少年がお兄さんにしてもらったことと同じようなことを誰かにしてあげた時、readerはその誰かに、少年があの時に感じたことを読み上げることにしている。


この道に“才”があるかどうかのバロメーターだと意を決し。ご判断いただければ幸いです。さて…。