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Novelber/01:窓辺

 オズはよく、窓辺に腰掛けて霧の天蓋を見上げていた。
 その頃のオズはまだ言葉も喋れなくて、だから何を考えてるのかなんてさっぱりわからなくて、そこに何が見えているのかも、誰にもわからなかった。だから、ぼんやり頭上を見上げるオズの横で、オズの好きな――好きか嫌いかくらいは流石の俺にだってわかった――歌を歌うのが、朝の仕事を終えた後のもう一仕事だった。
「なあ、オズ」
 歌の合間に話しかけても、もちろん返事はない。ただ、大きな紫色の目を、天蓋から俺に向けてくるだけ。
「そんなにじっと、何見てんだ?」
 オズは答えない。けれど、オズの手元にはいつでも青いクレヨンがあって、ぼろぼろのスケッチブックが握られていて、そこには青い、青い、何かが描かれている。天蓋を見上げた後は必ずそうだ、青いクレヨンを握って、言葉にできないのがもどかしいとばかりに、画用紙いっぱいに青を広げる。
 それが、窓の向こう、霧の天蓋のさらに向こう、誰も見たことのない「青い空」だって知ったのは、もう少しだけ後の話。
 
(ゲイル・ウインドワードの独白)

あざらしの餌がすこしだけ豪華になります。