小さな小さな蕾のおはなし

小説にするには浅く、思い出として残すには濃いそんな話。


好きと伝えるには淡すぎる気持ちを持った19歳の夏。


推しに似たその人に会える夜のバイトがとても楽しかった。

同じバイト先の先輩。まだ未成年の私には、4つ年上の彼がとても大人に思えた。

基本塩対応なその人は、私の話なんて聞いてない様に見えて、ちゃんと考えてくれるそんな不器用な優しさを持っていた。

バイトが終わる深夜0時から3時まで話してたり、朝まで飲んで酔って朝の散歩をしたり、深夜ドライブしてそのまま早朝から公園で花火をしたり、夜中に急にファミレスに呼び出してみたり、そんな青春に付き合ってくれる大切な人だった。

メイクをする様になって、スッピンを見せたのも彼が初めてだった。


けれど終ぞ、彼に女性として見られることはなかったし、私も恋愛感情として好きだったのかは謎のまま。ただ、片思いをしていたと評したくなるくらいに、キラキラとした青春が詰まった思い出を与えてくれた人だった。

彼がいたから、邦楽ロックに詳しくなった。彼がいたから、夜の遊びを満喫できた。


ああ、楽しかったなと思えるくらいには、きっと彼が大好きだった。


そう言えば、彼と昼間に出かけたことは無く、夜しか会わなかったなぁと今更ながら思う。

彼に最後に会った日も夜だった。

彼の家の最寄りのスーパーの駐車場。そこで、餞別としてオネダリされたCDを渡した。

これで彼と会えるのは最後だったけれど、彼の前では泣けなかった。涙の一つでも流しておけば、可愛い後輩になれたかもしれないけど、私は最後までただの後輩だった。


数年一緒にいたけど、気持ちを自覚することも告白することもなく終わった私の青春。

空港のブランコの存在を知ったあの日、月明かりに照らされる彼の姿がとても鮮明に残っている今がその答えな気がする。

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