雷とへそ

突然ですが、私にはおへそが無いのです。
人間なら誰しもが持っているそれを持っていないとは何ゆえか。
それは私の出生の時に話は遡りますので、割愛させていただき、私にはへそが無いという事実だけをお伝えしておきます。

子どものころ祖母に、「雷さんにおへそ取られてしまうよ」と言われたら、「私おへそないもん」と返す可愛くない子ども。
それが私でしたが、子どもの頃もそしていい大人になった今も私は雷が大嫌いです。
ゴロゴロというあの独特な音も、そして落ちた時の地響きもすべてが嫌い。しかし、雲を駆け抜けるあの光は美しい。

私は接客業をしていますが、接客中に雷が鳴るなんてこともよくあります。そんな時どうしているか。

とにかく耐えている。
今すぐ耳を塞ぎたいのを耐えに耐えているのです。
時々不意打ちを食らい、ビクッと身体を震わせることもありますが、できる限り何でもない様な顔を作り切り抜ける。
そう、とても大人なんです。

ただ嫌いなものは嫌いなので、悪態もつきます。そりゃあもう、いつもは穏やかな口調も荒々しくなり、その辺のやんちゃなおじ様たちは顔を引き攣らせて帰っていくレベルの口の悪さが顔を出す。

でも、先ほど申し上げた通り、雲を駆け抜けるあの光だけは美しいと思っている。だから、私は電気を消して、耳栓をしてカーテンを開けて、その光だけを堪能する。
雲と雲を駆け抜ける白い光。
それを眺めながら眠る日もあるくらいです。

私には取られるおへそはありませんので、雷さまがやって来てもへっちゃら。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?