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鑑賞録 #12 「ヘルヴァ・ボス シーズン2 第1話:THE CIRCUS」

私をストラスに決定的に沼らせた回。

この回には幼い頃のストラス、ブリッツ、フィズが登場するが、幼少期を出してくるのはcharacter developmentとして本当にずるい。
言わずもがな、褒めている。


本作に登場する親というのは揃いも揃って毒親ばかりだ。

フィズの親については語られていないが、ストラス、ブリッツ(、のちにモクシー)の親についてはしっかりダメっぷりが描写されている。

ブリッツもポップではあるがダメ親だし、ストラス(はめちゃくちゃ努力しているが)とステラもオクタヴィアにとって健全な両親かと言われたらそうではないし、どこもかしこも機能不全家庭ばかりでつらい。

唯一の救いは1x5で出てきたミリーの両親くらいか。


ストラスの父パイモンは自分の子供の名前も把握していない薄情な親であるが、Goetiaの中でも群を抜いた軍団数を持つ王である。

ストラスも軍団を持っている。

ちなみに、この回でステラが自分の兄として言及しているアンドレアルフスもGoetiaの一人として名を連ねているが、まだあんまり出番ないよね。


パイモン役の声優Jonathan Freemanはブリッツォの父役もやっていて、ダメ父2名とも彼の声である。

 Jonathan Freemanについて検索してみたところ、映画「アラジン」のジャファー役もやっていたそうだ。
アスモデウスの声のジェイムズに続きアラジンからのキャストである。


ストラスは偉大な父から魔導書をもらいなんやかんやで精進せよと言い渡されるが、同時に許嫁がいることを告げられおっそろしく凶暴そうなステラの写真を見せられる。
なにゆえその写真を選んだ大人たち。

写真を見て泣くストラスと効果音がめちゃくちゃかわいい。
ちなみにこの可愛さは大人になった現在もスリッパの効果音として健在だ。

泣いているストラスに対するパイモンの反応は最低だが、父として何かしら対処しようという気持ちはあるらしく、一応は励ましたりもする。
いずれにせよ全く愛情は感じられないが。

その励ましの一環としてパイモンはストラスをサーカスに連れて行くのだが、そこでストラスはブリッツォを目にすることに。

現場にあらわれもせずリモート参加のくせに「貧乏人の臭いがする」とか言っちゃうパイモンとサーカスを見ているストラスだが、気が晴れず、つまらなそうにしている。

しかしサーカス団員のブリッツォが現れたとたんに目を輝かせ、笑顔を取り戻す。まるで一目惚れのようだ。

ここが沼である。

ストラスについては単にhorny owlキャラと健気さを好ましく思っていたが、ここで彼らが幼少期に出会っていたことを知り、ストラスにとってブリッツはおそらく初恋の人であり、ステラは拒否することのできない許嫁(かつナチュラル・ボーン・ヴァイオレント気質)だったことが分かるからだ。

パイモンは「息子を慰めたいが相手をするのは面倒だ」と言ってブリッツォを「買って」息子に充てがおうとし、ブリッツォの父も端金(たった5ドル!)でそれに応じ、ついでに「ママの助けになりたいだろ?」と純粋なブリッツォを利用してパイモンの館から貴重品を盗めと言いつける。

双方この世の終わりみたいな父子関係である。
親子といえば、特に西洋では父子関係が取り上げられることが多いように思う。

もちろん母子関係も出てくるが、どちらかといえば「母親」はシングルマザーの物語として描かれがちだ。

本作でも母親はほとんど出てこず、ブリッツの父、ストラスの父、モクシーの父、父としてのブリッツ、父としてのストラスが描かれる。
オクタヴィアにはステラがいるが、現時点では二人の関係は描かれておらず、ストラスとオクタヴィアの父子関係がメインだ。

父親たちの企みで引き合わされた二人だが、当然ストラスは喜び、ブリッツォも気が進まないながら徐々に楽しく遊び始める。

ブリッツはこの頃からすでに成り上がり精神を持っており、Goetiaとしての重い責務を課されているストラスと共に将来を語り合う。すごく健全で微笑ましい関係だ。


時は流れ、ステラと結婚しオクタヴィアをもうけたストラスは壊滅的にひどい結婚生活を送っているせいでHappy Pills(たぶん抗うつ剤)を飲み、ステラからのハラスメントに耐え続ける日々。

そんな暗澹たる暮らしの最中、ブリッツとの再会を果たすことになる。

ブリッツは幼い頃に聞いた「人間界に行くことができる」魔導書を盗みに入ったがセキュリティに見つかってストラスに報告されてしまい、苦し紛れにストラスとの関係を持っただけ。

しかしストラスからしてみれば初恋の人が突如自分の前に現れ(盗みという動機を誤魔化すためではあるが)強引に迫られてしまったのだから、その気になってしまうのも無理はない。

ストラスが思いのほか変態な性癖を持ち合わせていた(or ブリッツに噛まれてメーターを振り切ってしまった)のは予想外だっただろうが……


再び時は流れ、現在。

ストラスの衣装から、1x7でOZZIE'Sの店に行ってひどく傷つき、ブリッツとも気まずい別れ方をしたあとだと思われる。

ステラ主催のパーティーで飲んでいたのと同じ「強い酒」の緑のボトルが転がっているので、ブリッツがヤケ食い&ヤケ酒したのと同様、ストラスもヤケ酒して寝落ちしていたのだろう。

目覚めてすぐ、いつもの "Happy Pills" を服用している。

もうやめて……
もうストラスのしんどそうな姿をみせないで……

ストラスがさめざめと "Owl in a cage"を歌い出すが、持っている本にはアスモデウスのクリスタルが描かれている。

ASMODEAN CRISTALS

ここに書かれているルーン文字を解読した猛者がいるようで、「アスモデウスのクリスタル」とは人間界に行くことができるツールであり、アスモデウスから与えられるものであることが書かれている。

これがあればブリッツはストラスから魔導書を借りる必要はなくなり、つまりストラスは自分が用済みになってしまう可能性を知りつつ、自らそれに手を出そうとしているということだ。

魔導書にまつわる利害を取り除いて純粋にお互いに向き合った関係を築かなければならないと思っているが、魔導書がなければブリッツを繋ぎ止められずに自分から離れていってしまうかもしれない。

悲しすぎる……

このクリスタルについては後のエピソードでまた触れられているので、その際改めて言及したい。


この話の最後でハラスメントをするために帰ってきたステラに対し、とうとうストラスが離婚を切り出す。

「(お互いに)選択の余地のなかった結婚であり、その目的である世継ぎのオクタヴィアも17歳になったのだからもう無理に共にいる必要はない。この宮殿からも私の人生からも出ていってくれ」

永遠に近い命を持つ彼らにとってこれを告げるまでの年月がどれくらいのものなのか分からないけど、Happy Pillsに手を出すくらいなのだから我々と同じつらさに換算していいと思うんだよね。

幼いストラスに思い切り心を持っていかれた直後にDVの被害者になっている状態を見せられるという残酷さ。構成が鬼畜の所業。

幼い頃のストラスの描写だって十分にひどくて、そんな人生だったのによくHappy Pillsを飲むくらいで対処できてるなと思ってしまう。

Owl in a cageの直後に現れたステラに "The f**k are you doing!?" と聞かれて "Reflecting." と答える口調がな……しんどいな……


このようにして私は、ただの変態だと思っていたストラスのあまりに健気で可哀想で幼気なところを見せられ続けたせいで、どっぷり沼に浸かってしまったというわけである。



ステラ

ステラは小さい頃から気性が荒くペットを虐待するような暴力性とモラルの欠如っぷりで、長年 精神的にも肉体的にもストラスを虐げ続け、娘のケアもストラスに任せ、ストライカーを雇ってまで夫を殺そうとしている。

パートナーの愛情を裏切って浮気や不倫をする人は本当に嫌いだが、ステラには好意も情もなくただただ虐げていただけなのだから浮気を責める権利なんかないんじゃないかな〜

もっとも、ステラが苛烈に浮気を責めている理由は「(下等な)インプなんかと!」という点だけど。

英語圏のファンダムで「なぜみんなステラをそんなに悪くいうの?ストラスが浮気をしたことが原因でああなったんじゃないの?」みたいなコメントを見かけたが、この回を観たあとではまったくそうではなかったとコメント主も理解しただろう。

もしこの回を観たあとでそのコメントをしたのだとしたらもうどうにもならないが……



ストラスとブリッツの悲恋

ストラスについて掘り下げるのが本当につらくて楽しいので、掘り下げていきたい。

彼は実の親からネグレクトされていて、夫婦関係においては明確にDVの被害者だ。ていうか母親はどこ?

パイモンは一見して父親として振る舞おうと努力しているように見えるが、それは「愛情」や「息子のため」ではなくて、自分の「父親としての能力」を気にしているから。

「父としての教育」というより「部下のマネジメント」である。

"I'm so good at daddyingg!" などと子供でも分かる勘違い発言をしているとおり、「ストラスの気持ち」なんて気にする対象だとさえ思っていない。

関心事は「自分にマネジメント能力があるか」だけで、その評価さえ自己満足なのだ。

もちろんパイモンの滑稽な振る舞いはコメディーなのでこんなふうにシリアスに捉えるところではないし、"ネグレクト"というのも我々の価値観でそう見えるだけでGoetiaにおいては当然のことなのかもしれない。

そもそもパイモンほどの存在に「彼自身の親」なんていう概念は存在するのだろうか。同じようにネグレクトされていた可能性もあるが、父親という存在がいないために「父親」のロールモデルがないというのも考えられる。

もしやGoetiaにおける子供の存在というもの自体、我々がイメージする「家族」というよりはプロダクトや歯車みたいなものかもしれない。ストラスの名前を知らなかったのも大企業のお偉いさんが自社の社員の名前を覚えていないみたいな感じだし。

イギリスで発見されたグリモワール『ゴエティア』によると、パイモンは序列9番の地獄の王である。一部は天使からなり一部は能天使からなる200の軍を率いており、ルシファーに対して他の王よりも忠実とされる。彼自身は主天使の地位にあったという[注釈 1]

Wikipedia「パイモン」

パイモンには(HBにおける)父がいないと仮定した上でこの引用をふまえると、ルシファーとの関係性がロールモデルみたいなものという可能性もあるのかな。だとしたら本当に上司と部下なのだから、あの「マネジメント感」も頷ける。

いずれにせよパイモンを一般的な親として見るのには無理がありそうだ。

そして、執事はGoetiaではないが、しかし彼からも義務感やビジネスライクさが見えるだけで愛情や慈しみみたいなものはない。
ストラスには兄弟もいないし友達もいない。
ちびストラスたちが貴重品を集めてまわっている間、宮殿の中にもひとっこひとりいない。

ストラスはピュアで、本が大好きで、話すことが大好きなのに、それをシェアしたり他愛のない話をして笑いあう相手がいない。執事は当たり障りない返答しかしないし、父親も自分が言いたいことだけ言ってストラスの話には興味を示さない。

誰も自分を見てくれる人がいないなんて孤独すぎる。

そんな時、ブリッツに一目で心を奪われ、父親の計らいで一緒に遊ぶことができた。
家の中を駆け回って、普段しない遊びをたくさんした。
対等に接してくれて、自分の話を聞いてくれて、相手も自分のことを話してくれる。

ストラスにとっては本当に宝物みたいな時間だっただろう。

ブリッツは宮殿内を平気で走り回り、あとを追うストラスは息切れしている。そもそも貴族は走ったりしないのだろうけど、身体を動かす経験に乏しくそんな相手もいないということだ。

ブリッツはパフォーマーとしての体力もあるだろうが、彼には一緒に遊んでくれるフィズがいる。ストラスには広大な本の世界があるが、身体ごと飛び込むことはできないし共に走り回ってはくれない。


25年経ち、大人になったストラスにはGoetiaや社交界の繋がりこそあれ、現在に至るまで友達と呼べる人もおらず、結婚はしたものの相手があのステラなので心身ともにDVを受ける日々。

そんななか生まれたオクタヴィアを溺愛し、自分が親からもらわなかった愛情を注ぎ、彼女のためにと妻からの扱いにも堪える。

それでも疲弊して、朝目が覚めたことに絶望し、抗うつ剤に頼り、強い酒をあおって紛らわす。
そこへ現れたのが魔導書をくすねに忍び込んだブリッツだ。

ストラス目線のブリッツに施されたエフェクトを見るに依然として初恋マインドが残っていると見ていいだろう。

ブリッツの本来の目的をこの時のストラスが把握していたかどうかは分からないが(多分把握していないが)、セキュリティに処分を任せず自分で引き取ったところを見ると、ブリッツの目的がなんであれ、何かしらの理由をこじつけて不問にするつもりだったのだ。

「また友達になってくれないかな?」と淡い希望を抱きつつ。

それが25年ぶりの再会で舞い上がってしまったのか、冗談とはいえ "You were here to ravish me, weren't you?" なんて言ってしまう。

ブリッツが "Ew." とリアクションしているし、ravish me や ravish youなんて普通に聞いたらゾッとするが、過去「夢中にさせられた」のは事実なのだ。

ところがブリッツの方はストラスと違って"経験豊富"であり、目的のためには手段を選ばないマインドを備えていたせいでどんどん変な方向に話が進んでいく。

ステラとの愛のない触れ合いや刺激もなく変わり映えのない生活を続けてきたストラスにとってブリッツに強く求められている(ように感じた)ことは雷に打たれたような衝撃だったのだろう。

一気にタガが外れて迸るほどの変態性がこぼれ落ちているが、数十年間抑圧してきた分が解放されたと思えばまあ……理解……でき……うん。

そして、現在の爛れた関係に。
でもブリッツと楽しく過ごしたあとの彼は抗うつ剤を飲んでいない。
本当に彼を救済している。

だからこそストラスも破格の対応をしているのだろう。

1x1の電話の内容を踏まえると「ブリッツは忍び込んだことがバレて苦し紛れにストラスと肉体関係を持ち、ストラスが眠っている間に魔導書を勝手に持ち出し、勝手に使って人間界でドンパチやっている最中の電話でストラスが『月に一度満月の日に濃密な夜を過ごそう。そうすればその日以外は魔導書を貸してあげる』と条件を出し、ブリッツが追いかけ回されているどさくさで条件を飲んだ」ということだろうが、だとしたらめちゃくちゃ寛容な処置だ。

その寛容すぎる処置がむしろブリッツを卑屈にさせている要因の一つでもあるかもしれないが……

ストラスは立場的には王子だが実質箱入り娘みたいなものであり、ストラスにとって荒っぽくて刺激的な世界を見せてくれるブリッツこそが王子様みたいなものなんじゃないだろうか。あとはなんか色々とツボなんだろうな。

それに、ブリッツの馬好きが高じて発した「バルーンの馬の足がないのは砂糖を摂りすぎて足が機能しなくなったから」という事実に基づいた冗談と幼いストラスが本で身につけた知識が重なって二人だけが面白さを分かち合っている瞬間があるし、2x2でもブリッツのジョークをストラスだけが面白がっている瞬間があったりする。

ストラスは自己肯定感の低いブリッツにとって天然の全肯定マンで、ブリッツはストラスにとって変化のない日常を引っ掻き回してくれるヒーロー。さらにユーモアのセンスも合うなんて最高じゃないか。

ストラスには愛し愛されているオクタヴィアがいるが、彼女はまだまだ守るべき子供であって頼って甘えられるわけではないし対等な友達というわけにはいかない。

幼い頃からストラスにはブリッツしかいないというのに、まさか自分がストラスの初恋みたいなもんで、片思いを拗らせたような情を持たれているとは夢にも思わないブリッツは変態貴族のお遊びに付き合うかわりに魔導書を借りているとしか思っていない。

それ以外の気持ちを感じていても、いつもの癖で否定して蔑ろにしてしまう。取引だの身分差だので予防線を張るってことはつまりブリッツにとって失いたくない(心が揺らいでいる)相手ってことなのだろうが……

1x6の幻覚と同じだ。
拗らせと執着と自己肯定感の低さと自己嫌悪の無限ループ……悲恋……



字幕

S2からオフィシャルで英語字幕がついている。

S1は自動生成字幕で観ていたが時々間違って文字起こしされ、英語の達者でない私は「は?どういう意味?timestamps?」となっていた。
しかしS2からは(公式がミスっていない限りは)正しい字幕で視聴できるということである。

HHきっかけでどうにかこうにかHBも正式な字幕版を作ってもらえたりしないもんだろうか?

せめて英語字幕だけでもほしい。



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