(詩)横浜駅から席を立って

ずっとシートに座っていたけど
ふいに人が少なくなったから

横浜駅から席を立って
ドアの前に立った
わざわざ開く
左側のドアに立って

なんとなくもう
そんなに人は乗ってこないと
わかるから

次は桜木町、関内、石川町

そして山手の駅
そこを過ぎてから
しばらく左側のドアは
開かなくなる

いつも横浜駅から山手まで
きみを送っていった

夏の夜はよく
ナイター帰りの人込みに
もみくちゃにされながら
ふたり黙って
突っ立っていた

きみが降りる
山手の駅に近づく頃
いつもきみはなんだか
かなしそうな顔になるので
ぼくはきみが痴漢に
あっているんじゃないかと
心配になった

そして今はひとり

ドアが開いている
わずかな間だけ
山手の駅の空気を吸い
ホームに降りた
わずかな人の影を
ぼんやりとながめ
もうきみがいるはずもない
その人波をながめては

静かなためいきをつき

それからまた
ドアが閉まれば
しばらくもう
そのドアは開かない

そしてあの頃のように
あの頃と同じように
ぼんやりとドアにもたれたまま

ぼくは流れ去る街を見ている
あの頃と同じように

あの頃きみを想いながら
流れ去る街を
ずっと黙って見ていたように


横浜駅から、席を立って

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