(詩)床屋の引退

午後の陽の射す
少し客のとだえた
床屋の窓辺で
店の老夫婦が語り合う

男は
陽射しに自分の指を
かざしながら

こいつらが
もうこいつらが

もう何年も何十年も
人の頭を刈ってきた
こいつらが
毎日毎日来る日も来る日も
人の頭を洗ってきた
この指が

もう、そろそろ
くたびれたって、言うんだよ
もうおれのゆうこと
ききたくても
きいてあげられないって
わびるんだよ

だから、そろそろ
もうおまえのその
すっかり白くなった頭など
日々やさしくなでながら
こいつら、
休ませてやろうかと
思うんだ


午後の陽の射す
少し客のとだえた
床屋の窓辺で

店の老夫婦が語り合う
しみじみと語り合っている

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