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止まった観覧車

そこにはいつも
子どもたちの
笑い声が響いていた

開園を待って並ぶ家族連れ
今日はうんとハッピーな
日曜日にしよう

おとうさん、いつも忙しくて
おまえたち、どこにも
連れて行ってやれないから

お昼になったら
ママの作ったサンドイッチを
みんなで頬張ろう
芝生の上に坐り
やわらかな風に吹かれながら

おとうさんは
くたびれたから
しばらくごろんと
横になっているよ

ああ、なんてきれいな空だろう
わたしたちのような
家族連れの雲が
ふんわりと流れてゆくよ

もう乗り損ねたものは
ないかい?
また次はいつ来れるか、
わからないから
おとうさんの仕事は
いつも忙しいからね
たいへんなんだ
一時も気が抜けない
今度の休みは
ええと、いつかな

おまえたち、遊園地に来て
まだ観覧車に
乗っていない、だって
途中で止まったら怖い、だって

ばかだな、そんな事故
起こるはずないだろう
係りの人たちが一生懸命
やっていてくれるんだから

大丈夫だ、おとうさんとママが
ちゃんと下で
見ていてあげるから

ほら、もうすぐ
きれいな夕焼けが観覧車の
一番てっぺんで見られるだろう

おとうさんの働く
発電所の建物も見えるだろう
早く、行っといで

そして
一番てっぺんにのぼったら
元気な顔で
手を振って見せておくれ
おまえたち、元気な顔でね

そこにはいつも
子どもたちの
笑い声が響いていた

けれどもう
子供たちの笑い声は聴こえない

観覧車は
あの日から
止まったまま

チェルノブイリ4号機みたいに


#チェルノブイリ原発事故

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