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短篇「パパの恋人と赤い屋根の家」

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「姉さんはいったい何で出来ている?」「姉さんはね、恥と恐れと怠惰からできているの」という姉弟の、タイトルのパパとその恋人はいったいどうしたんだ!っと言いたくなるような姉と弟のここ… もっと読む
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短編小説「パパの恋人と赤い屋根の家」1/6

♢短編小説を3回に分けて、これがその1回目です。短編を分ける?伝わるかしら?でもそれが青島ろばの純文気分です。 その短編を「異界の標本」としてまとめていきます◇ 「パパの恋人と赤い屋根の家」1 不思議な事だった。 パパに恋人ができていろんなことが大きく変わると思っていたのにそうでもなかったことが。 私は二十歳を過ぎていたし、弟だってもう十代半ばを超えていたのだからパパに恋人の1人もいたっておかしくない。私たちにとっても有益なのではないかと考えていた。いずれ私たちだって独立

短編小説「パパの恋人と赤い屋根の家」2/6

♢短編小説を4,5回?に分けて…これがその2回目です。短編を分ける?伝わるかしら?でもそれが青島ろばの純文気分です。その短編を「異界の標本」としてまとめていきます。 「パパの恋人と赤い屋根の家」2 「ミサ子に比べたら俺の落第なんてなんでもないことだよな」 と弟が発した言葉に2つの思いが同時によぎった。 誰かに肯定されるのでなく、みずから肯定できるほどにこの子はへこたれていないんだってこと。それとも、へこたれてはいるけれど、それ以上にミサちゃんのことを心配しているのだろうか

短編小説「パパの恋人と赤い屋根の家」3/6

♢短編小説をこま切れに?分けて…これがその3回目です。短編を分ける?伝わるかしら?でもそれが青島ろばの純文気分です。その短編を「異界の標本」としてまとめていきます。 「パパの恋人と赤い屋根の家」3 私の中に、気の重い何か引っかかりのようなものが沈殿していて、とても質量を増しつつあることに気付いた。 「何か言いたいことがあるのじゃないかしら?」 パパの恋人が振り返った。 「言いたいことなんて、まさか。ただ申し訳なくって。もうすぐ籍も入れるのでしょ、だのに弟が落第だなんて。そ

短編小説「パパの恋人と赤い屋根の家」4/6

◇短編小説をこま切れに?して…これがその4回目です。短編を分ける?伝わるかしら?でもそれが青島ろばの純文気分です。その短編を「異界の標本」としてまとめていきます。 「あなた、いつも窓の外を見てぶつぶつ言ってるわね」 パパの恋人が不意に私達の思考を遮ったようだ。 止まっていた時間が流れ始める。 傍らを見ると、いるはずの弟の姿が消えていて私はあわてた。 「あなたって、いつもそんな風に考えごとをしているけれど悩んでばかりいたってしかたないわよ」 私はあたりをキョロキョロしたけれど

短編小説「パパの恋人と赤い屋根の家」5/6

◇短編小説をこま切れに?して…これがその5回目です。短編を分ける?伝わるかしら?でもそれが青島ろばの純文気分です。その短編を「異界の標本」としてまとめていきます。 窓枠の向こうの強い力に吸い決まれる。 帰ってきたのだ、と私は思った。何かを一気に超えて古巣のマンションへ戻ってきたのだと。でも、あたりには誰もいなくって、弟やパパやママの姿をさがした。 「気のせいだったんだ。もうこの空間には誰もいないし、何もないんだ」 私はかつてしたようにリビングの窓から赤い屋根の家を仰いだ。