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#53 傷だらけの天使

 人はいろんなもので出来ている。親や家族、育った環境や時代は勿論、読んだ本や聴いた音楽、観た映画、等々…。今はあまりテレビを観る時間もなくなってしまったけれど、自分が一番影響を受けたテレビドラマと言えば間違いなく「傷だらけの天使」だ。’74年10月から'75年3月の放送だから当時は中2、あの頃はしゃべり方がアキラになっていたっけ(修ではなく!?)。
 何にそんなに惹かれたのだろうと考えてみると、まず一つはその自由さ。ヘッドフォンをしたまま眠り、新聞紙をナフキンにトマトを齧る、オープニングの冒頭から持っていかれた。菊池武夫のファッションもカッコよかったし、ボロいビルの屋上にあるペントハウスの暮らしには憧れた。あのビルは代々木にあって、割と近年まで残っていたらしい。一度訪れてみたかったなあ。
 魅力のもう一つは、ドラマ全体に流れていたペーソス。いつもお金がなくていいように使われているけれど、お金はほしいものの悪にはなり切れない。葛藤しながら、何とかギリギリ踏みとどまるところに生まれるホッとするような気持ちと自嘲。そうしたシーンに流れる井上堯之の音楽が絶妙だった。
 数年前にBSで26話全部の再放送があって、録画しながら観た。驚いたのは、話の中で人が簡単に死ぬこととまだ戦後が色濃く残っていたことだ。人が亡くなるのは探偵ものだからということもあるかもしれないが、やはり時代性もあるかと思う。そして、終戦から30年が経った当時に自分が無意識だった戦後があんなにも残っていたことが新鮮な発見だった。30年という時間は意外とあっという間なのかもしれないなと、震災から12年経った今に思う。 
 どの回も魅力的だけど、一つだけ選べと言われたら、最後の2話は別枠として第24話の「渡辺綱に小指の思い出」かな?この回の坂口良子が「前略おふくろ様」に繋がった気がする。その後の「祭ばやしが聞こえる」のいしだあゆみも可愛かったけれど、何しろ柳ジョージの主題歌が渋かった。
 萩原健一が亡くなったとき、リヤカーを引きながら夢の島のごみの中を走りたい気分だった。今でもカーオーディオに「傷だらけの天使」のサントラが入っていて、ランダム再生でオープニングテーマがかかると、どんな時でも気分が上がる。
 


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