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鬱ドラマに浸りたい方お勧めドラマ

『地下鉄道~自由の旅路~』バリー・ジェンキンス監督(アマゾンプライムビデオ)全十話。

2016年8月に米国で出版され、全米図書賞を受賞したコルソン・ホワイトヘッド氏の同名ベストセラー小説のドラマ化。タイトルの“アンダーグラウンド・レイルロード”(地下鉄道)は、奴隷制度が存在していた19世紀のアメリカで、南部の奴隷たちを北部へ逃がす手助けをした組織や、その逃走路を指す言葉。現実世界と非現実世界を行き来する小説では、逃亡を企てた黒人奴隷の少女が、秘密組織ではなく、実際に地下で運行されている鉄道を発見し、自由を探し求める旅の途中で時間旅行や宇宙旅行までも経験していく姿を描いた。

バリー・ジェンキンス監督は『ムーン・ライト』でアカデミー作品賞をとった監督で、アメリカ南部の綿花畑やそれぞれの街のセットが壮大です(『風と共に去りぬ』を彷彿させる)。そして一番の見所は地下に作られたプラットホームと蒸気機関車。穴から地下道に入っていくシーンもアングラ的に幻想的。ブラッド・ピッドがプロデューサーです。

読書メーターに投稿した原作レビュー

黒人の奴隷の逃亡を助ける為の組織である「地下鉄道」。ダークサイドを行く「銀河鉄道」、「B(ブラック)トレインで行こう!」という本線(メインストーリー)はコーラという黒人少女の逃走=闘争のストーリーなんだが、各停車駅(潜伏先)での人との交流が面白い。「ノース・カロライナ」で出会った「エセル」はコーラに協力的な夫人ではなく最初は泊めるのも反対した。コーラが病気になって「聖書」を読んであげる。白人協力者も騎士たち(KKKのような)にバレると絞首刑にされる。続く章ではエセルの意識の流れが短編小説を読む感じ。

ドラマは登場人物の把握が第一なので、簡単に紹介します。

コーラ・ランドル

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ジョージア(アメリカ南部の州)の奴隷少女。逃亡の過程で白人青年を殺めてしまう(正当防衛的なのだが)。賞金稼ぎの奴隷ハンター・アーノルド・リッジウェイに追われて捕まったり。コーラが地下鉄道の各駅停車で見るそれぞれの社会が『ガリバー旅行記』の想像の国になぞられているのですが、この国の話は実際にアメリカにあった話だそうです。

奴隷ハンター・アーノルド・リッジウェイ

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この白人男の心理描写が難しい。なんていうか父親が黒人解放運動の神父で、その父親に反抗して青年期を過ごした複雑な性格の持ち主。いまでいうストーカー性格というかコーラを犯罪者として追いながらコーラに惹かれていくというような。勿論それはレイシストとして屈服させたいという思いなんですが。青年時に最初の奴隷狩りで死んだ男の子供(赤ん坊)を引き取り育てて家来のようにするのですね。

ホーマー

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その家来の子供です。ドラマ中もっとも嫌われ役だったみたいで、アメリカでは彼が出てくるとSNSでは非難轟々だったらしいです。確かに小憎たらしい黒人小僧なんです。吹き替えだから余計に際立っていますね。でも、彼はそう育てられたからそういう少年だったわけで、そのへんに監督の意図があると思います。教育が大切なのだと。

ジャスパー

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前半の重要人物です。コーラと共に逃亡奴隷となる。彼がけしかけたということがあります。コーラと無理に生殖させられたりめげるシーンが多いのですが、彼が希望を見出していたのが『ガリバー旅行記』なのです。コーラの案内役(ガイド)として登場しますが.........

グレース

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ノース・カロライナの白人街の屋根裏部屋に匿われている少女で第2のヒロインです。ノース・カロライナは黒人そのものを排除する街で屋根裏部屋生活はナチスのユダヤ人を連想させます。この少女の話は実話に基づいたものらしいです。エピソード7では彼女の物語。このエピソードは20分しかないのですが詩的なエピソードで重要です。

ロイヤル

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コーラを自由黒人安楽の地インディアにつれていく自由黒人の青年。コーラに恋するのですね。

あとコーラの母とか奴隷ハンター・アーノルド・リッジウェイの父とか屋根裏に匿ってくれる白人とかそれぞれのエピソードで重要人物が出てきますが全体の流れとしてはこの登場人物を頭に入れとけば大丈夫です。でも鬱ドラマですけど。

最初に言っておくべきですが鬱ドラマです。ストレス解消にはなりません。レイシストは別かもしれないけど。アメリカの奴隷の歴史を描いたもので希望はあまりないのです。最終話でそういう形を取っていますが、基本全話ネガティブな物語です。奇跡的にグレースがヒロインとなるエピソード7は素晴らしいけど「銀河鉄道の夜」のカムパネルラなんだと思います。地下で輝く蛍の光が美しい。それと吹き替えなのでそのへんの違和感もあります。だからホーマーの嫌な子供が強調されたり。

エピソード1「ジョージア」

ジョージアの奴隷農園の一幕です。心臓の弱い人は見ないほうがいいです。けっこうめげるようなシーンがあります。無理やり奴隷同士でセックスさせたり、鞭打ちのシーンの残虐さ、そして火あぶり。逃亡するのが当然の世界ですね。だから、地下鉄道のトンネルを見つけたときに解放感を得られる。この章はドラマとしては一番おもしろいかも。まあ、ここでコケたらドラマ終わっていますものね。

エピソード2「サウス・カロライナ」最初の「地下鉄道」の停車駅です。この街では黒人が白人の混じって働いています。黒人の悲劇の歴史を伝える博物館がある。そこにコーラは雇われるのです。そういう教育をしていると思って見ているとコーラは違和感を感じ始める。妊娠したことも関係してくる。そこで医者にかかるのですが........。1時間がとても長く最後の20分ぐらいが盛り上がります。でも鬱ストーリー。実際にアメリカであった話だそうです。ナチス的な優生主義のストーリーです。

エピソード3「ノース・カロライナ」ここは黒人差別が激しい街です。ナチス時代のドイツのような黒人狩りが行われていて自由主義のキリスト教者の家に黒人少女が匿われています。そこでコーラはグレースと息を潜めながら生きているのですが、奴隷ハンターが姿を現す。そして捕まってしまうのですね。そのときに匿ってくれたキリスト教者の家が燃やされてしまいます。中にグレースが残っているのに。こんな鬱シーンばかりです。

エピソード4「大いなる精霊」日本語で「精霊」とありますが色々調べてみると「聖霊」のような気がします。原作者のコルソン・ホワイトは『ニッケル・ボーイズ』でもキング牧師に尊敬している描写がありました。そのへんのキリスト教の救済の思想が背景にあるのだと思います。ストーリーは奴隷解放論者の神父である父に反抗する息子の話で、奴隷ハンターとなるアーノルド・リッジウェイの物語です。鬱々なシーンばかり。宗教的な暗さもあってキツいエピソードです。たいていこのあたりでみんなめげてくるような。

エピソード5「テネシー」

本筋に戻って奴隷ハンター・アーノルド・リッジウェイに捕まったコーラとジャスパーのストーリー。コーラはすきを見て逃げる度に捕まってしまいます。ジャスパーはもう諦めの境地ですかね。荷馬車の中で歌を歌っています。黒人霊歌です。歌を歌いながら死んでいきます。そこが天国なのでしょう。このドラマは歌も一つのテーマとなっています。エンディング曲が毎回変わっていて最初はヒップホップ風、次はブルースやゴスペルと毎回変えています。そのへんはBLMと繋がっているのかもしれないです。そういう問題提起ドラマなのです。

「地下鉄道」における音楽の重要性 バリー・ジェンキンス監督&作曲家ニコラス・ブリテルが語る #地下鉄道 #自由への旅路 #バリージェンキンス #Amazon https://eiga.com/l/jNKKW

エピソード6「テネシー」

また「テネシー」です。ここのシーンはうんざりするぐらい荒廃した土地です。元は先住民の土地で彼らを追い払って白人が移住してきた街なのでした。そこに奴隷ハンターの実家があるのでした。父が危篤状態でその家にコーラを連れてきて泊まるのです。よくわからないシーンですが、危篤状態にある父にコーラを見せびらかしに来たような感じです。そこの自由黒人の手引もあり、コーラは助け出されます。しかし、奴隷ハンターを殺すなと言われる。地下鉄道があるからそこから逃げろと。その後にいろいろありますがコーラ逃げるの回でいいでしょう。

エピソード7「ファーニー・ブリッグス」

グレースのエピソードで、コーラは登場しません。「ノース・カロライナ」のその後のグレースの物語です。ここが一番詩的で美しいエピソードで全話は時間がないけどお試しに見る方は、ここをお勧めします。20分で短いので『地下鉄道』の映像と世界観を楽しめます。

エピソード8「インディアナ 秋」

また本筋に戻りまして自由黒人の理想の村です。ここも牧歌的なシーンが多いのですが展開が見えないと謎ばかりで、なんでこんな夢の国がでてくるのかと思ってしまいました。実際にそういう村があったということです。なんていうか共産主義的なコミニュティでコーラも居づらさを感じてしまうのが伝わってくるのですね。それでもロイヤルに優しくされたり、なんか今までのネガティブな世界からまったく正反対の世界を見せられてもという感じです。

エピソード9「インディアナ 冬」

ドラマ上のクライマックスですね。インディアナの村にレイシストの白人が押しかけてきて虐殺するのです。これも実際にあった話なんだそうです。その騒動に奴隷ハンターが現れまたコーラは捕まってしまいます。でも、その御蔭で虐殺を免れた形になったのですが.........

エピソード10「メイビル」

コーラの母親の想い出のシーン。母性の物語ですね。突然、最後でこのシーンを持ってきたのはハッピーエンドに近づけたかったのかな。結果的にコーラ生きなさい!というドラマになっています。疲れるドラマですけど、アメリカの奴隷制や音楽に興味がある人には面白いドラマだと思います。ただ鬱ドラマだということは何度も言います。

参考になった解説として、ドラマを見た後にこの解説を見るとよくわかると思います。

町山智浩 海外ドラマ『地下鉄道 ~自由への旅路~』2021.05.18 https://youtu.be/wtculjkzwC8






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