見出し画像

夏の花海塔新田のマリア

『地の群れ』(1970/日本)監督熊井啓 出演鈴木瑞穂/松本典子/瀬川菊之丞麦人(寺田誠)/原泉/奈良岡朋子/佐野浅夫/北林谷栄/宇野重吉/紀比呂子

解説
熊井啓と原作者の井上光晴が共同でシナリオを執筆、「黒部の太陽」の熊井啓が監督した社会ドラマ。撮影は墨谷尚之が担当した。

アマプラで。ディスコミュニュケーションの映画。戦争が国同士のディスコミュニケーションの結果で、アメリカが広島・長崎に原爆を落としたのもディスコミュニケーション。

その直後アメリカの飛行機から「原爆は日本の皆さんのためのアメリカからの花束」というチラシがあったとか。事実かどうかわからんが、映画の中で、そのチラシの言葉を入れて女子学生が歌を作ったのだそうだ。歌詞は忘れた。何かを伝えようとした歌なんだと思う。それは教師によって禁止された。

それはサイドストーリなんだが、メインストーリーは朝鮮部落の女が「海塔新田」の者にレイプされた。「海塔新田」は原爆難民が住む日本人の部落なわけだった。構図としては、底辺の者同士で憎しみ合う構図で上位が安定するシステムになっている。

それでその娘が抗議しに行くのだが、聞き入れららずに母親が抗議しに行って殺されてしまう。レイプされた娘が診断書を書かなかった医師に文句を言いに行く。実はこの医師は、若い時に部落に住んでいて、朝鮮人の女を身籠らせて死なせてしまった。医師はそれがきっかけで部落を出て医者になった。その関係性が錯綜していてわかりにくなっているのだが、日本人部落と朝鮮人部落の敵対関係と原爆という落とし物。

この映画は役者がいい。朝鮮人部落の母親役が北林谷栄。日本人部落の父親が父親が宇野重吉だ。北林谷栄と宇野重吉の口論バトル。無論、北林谷栄が勝つだろう。そのときのセリフがすごい。「あんたたちの血は毒されているから腐って滅びるけど、私達の血は続いていくんじゃ」というような。外に出た時に、暗闇から石が。石を投げるのは他の日本人?

若い時に「海塔新田」を抜け出した医師が原爆症の診断をする娘の母が、それを認めようとしない。原爆に会ったことが知られるとこの街では住んでいられないからだ。長崎の浦上天主堂は、原爆の被害を受けて取り壊された。世論で広島ドームのように残すという意見もあったのだが、キリスト教の原罪のイメージなのか「原爆はアメリカの花束」というチラシと通じることだと思う。ケロイドのマリアは残して置けない。

そして部落という場所に群れとなって住んでいる虐げられた者がいるという映画。難しいけど、こういう映画は貴重だ。歌を思い出せればいいのだが。そこで一句。

夏の花海塔新田のマリア

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?