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恐ロシアの原点がここに!

『親愛なる同志たちへ』(ロシア/2020)監督アンドレイ・コンチャロフスキー 出演ユリア・ビソツカヤ/ウラジスラフ・コマロフ/アンドレイ・グセフ

解説/あらすじ
1962 年 6 月 1 日、ソ連南部ノボチェルカッスクの機関車工場でストライキが勃発した。「雪どけ」とも称されたフルシチョフが目指した豊かな共産主義統治にも陰りが見え始め、困窮にあえぐ労働者たちが物価の高騰や給与カットに抗議の意思を示したのだ。社会主義国家で大規模なストライキが起こったことに危機感を覚えた政権は、スト鎮静化と情報遮断のために最高幹部を現地に派遣、翌日には約 5000 人の市民への銃撃を開始した。熱心な共産党員で市政委員も務めるリューダは、18 歳の愛娘スヴェッカの身を案じ、凄まじい群衆パニックが巻き起こった広場を駆けずり回る。三つ編みに青いリボン…スヴェッカはどこにいるのか、すでに銃撃の犠牲者となって“処分”されてしまったのか。長らく忠誠を誓ってきた共産党への疑念に揺れるリューダが、必死の捜索の果てにたどり着いた真実とは……。

今年のベスト級の映画だった。アンドレイ・コンチャロフスキー監督は初めて観たが、けっこう日本で公開されていたのに観てなかった。これ一作でも凄い監督だとわかる。モノクロだったからソ連時代の作品かと思ったら、ロシア産だった。最近のロシア映画もハリウッド化しているのに、これはソ連の反体制映画の流れを汲む感じ。

今見ても凄い。というか今観なければいけない映画のような気がする。国家に忠誠を誓う官僚としての母と民主化を求める娘の対立。まさに今ロシアで起こっていることだ。この映画ロシアで公開されたのか?今だったら無理だろうな。監督の無事を祈るばかり。

ある工場のストライキからそれを支援する民衆のデモ、官僚たちがいる会議室前にデモ隊がやってくる。工場は民衆で囲まれて、誰が民衆をなだめるのか官僚たちのなすり合い。やがて軍隊を要請して官僚たちは逃げ出すが民衆が突入してくる。軍隊は空に向けて発砲。しかし、KGBのスナイパーが民衆を狙い撃ちするからパニックへ。娘がそのデモ隊の中にいることから、母は娘を探す。

世代間の考えの違いは、まさに今のロシアを見るよう。そして、母の父、爺さんはコサックでイコンを信仰する正教徒だった。過去に親戚が殺されている。もう引退しているので、ただの酔っ払いなのだが、母(娘)に突きつける歴史的事実。

母はスターリンがいればこんな事件は起きなかったという。フルシチョフがスターリン批判したから、民衆が頭に乗ったと。どこまでも社会主義者の官僚なのだが、娘を想う気持ちは人一倍強い。デモ隊がスナイパーに狙い撃ちされるシーンが凄い緊張感だ。これだけの映画がロシアで作られていたんだ。

それとソビエトによる隠蔽工作も凄い。血塗られた道路を洗っても落ちないから新たに舗装しろとか、関係者には外部に漏れないように、徹底的念書に署名させるとか。KGBのやり口は凄い。軍隊は民衆に発砲したくなかったのに、KGBのスナイパーがやってくるとか。恐ロシアの原点だよな。プーチンは元KGBだし。そういう仕組を十分活用しているのだと思う。

娘を探すのを手伝うのがKGBの男なのだが、彼はすでに死刑宣告を受けているのだった。そのKGBのボスはほとんどヤクザのボスだった。ソ連のシステムがそういう構図なのだろう。とにかく役者の演技も緊張感があってスクリーンから目が離せない映画だ。


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