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シン・俳句レッスン29

今日の一句料理シリーズ。昨夜は夕飯食べずに寝て、今日のモーニングだった。トーストと味噌汁、目玉焼きぐらいしかなかった。ちなみに卵二つで目玉焼きだよな。一つ目は縁起悪いから「サニーサイドアップ」と呼ぶ。確かそんな曲があったはず。

秋雨や玉子を割つて目玉焼き

高屋窓秋(たかや そうしゅう)

川名大先生によると高屋窓秋から俳句が変わった。それ以前にも変化はあったのだが、決定的にそれまでの句とは違っていた。テーマ主義。一定のテーマを明らかにして俳句を詠む。第一句集「白い夏野」だ。

わが思ふ白い青空ト落葉ふる    高屋窓秋
頭の中で白い夏野となつている  高屋窓秋
白い靄に朝のミルクを売りにくる 高屋窓秋

白だろうな。自分もテーマ色を決めたいんだが青にしようと思ったがすでにくすんでいるから灰色かな?そう言えばパソコン通信時代のハンドルは灰ガン(灰色のガンダルフ)だったのだ。灰色ガンと勘違いされていたが。

灰色の雲重たく目玉焼き

なんか不味そうな目玉焼きだ。

目玉焼き灰色の部屋に太陽を

明るくなったか?

むさしのゝ空真青なる落葉かな  水原秋桜子
わが思ふ白い青空ト落葉ふる   高屋窓秋

カタカナの「ト」は何か意味があるのか?よくわからん。落葉の形かな?「ト」は休止符のようなものだと作者。切れということかな。

卵割るト灰色の部屋に太陽

キャンプ寝て高嶺の雲は海となる   高屋窓秋
スケート場沃土丁機(ヨードチンキ)の瓶がある 高屋窓秋

もう一つ口語の書き言葉を確立したということ。都会的なスマートさがあるような。

モーニング目玉焼きは焦げている

さらに口語の書き言葉から新詩情表現(エスプリ・ヌーボー)が生まれたという。

いま人が死にゆくいへも花のかげ
白蛾病み一つ堕ちゆくそのひゞき

観念世界を俳句にする。

目玉焼き崩れ染みだす体液か

そして新詩情表現は社会詠と発展していく。

核の詩や人肉ふたり愛し死す  『星月夜』
蜜雲や大和の国はひかり虫   『星月夜』
花の悲歌つひに国家を奏でをり 『花の悲歌』
核の冬天知る地知る海ぞ知る  『花の悲歌』

さらに戦後20年近い沈黙のあとに内的変化として異界や夢の世界に広がっていく。

雪野より梅野につづく遠い雲
雪月花美神の罪は深かりき
雪月花されば淋しき徒労の詩

川名大『モダン都市と現代俳句』は、新興俳句を中心にみた現代俳句史。個人ではなくグループやその時代に流行した俳人を並べているので俳句史として理解しやすい。現代俳句協会の分裂とか中にいる人はなかなか書けないだろうそういうトッピクもある。何より女性俳人についてこれほど述べた本はないのではないのか?戦時の女性俳人として、藤木清子に出会えたのは良かった。

藤木清子

川名大『モダン都市と現代俳句』は「女性俳句の世界」として女性俳人のジェンダーとセックスについても述べている。例えば杉田久女よりは竹下しづの女の俳句の大胆さを評価したり台所俳句とされた中村汀女の俳句の中にもそこしか生きる場所がなかった女性のジェンダーについて論じている。それは女性の自立ということに挫折した杉田久女よりも発展的なのかもしれない(少なくと昨今の俳句ブームは女性俳人が生み出したものだ)。そんな中で戦時の男社会を見つめながら新興俳句を作り続けた藤木清子は注目に値する俳人だと思う。

通り魔に寒気(そうけ)立ちたる古衾
古衾悪魔に黒髪摑まれぬ
独りする注射に灯す日短
亡夫(つま)の額に日ざしがぬくゝとけている
飢えつつも知識の都市を離れられず
さびし春機械の如く生くる妻
しろき月黄金(きん)となりゆく若葉かな
梅雨さむし南京豆のしろき肌
寄食して夫婦の話きいてゐる
ひとり身に馴れてさくらが葉となれり
春ふかく心継ぎ足しつぎたしぬ
ひとすぢに生きて目標うしなへり
ひとりゐて刃物のごとき昼とおもふ
まひるましろき薔薇むしりたし狂ひたし
女ざかりといふ語かなしや油照り
戦死せり三十二枚の歯をそろへ
戦死者の寡婦にあらざるはさびし
厭世の柔かき軀をうらがへす
戦争と女はべつにありたくなし
いさかひのさびしさ詩書をかいいだく
蚊の墜つる静かな音が身に韻(ひび)く

川名大『モダン都市と現代俳句』より「藤木清子の人と作品」

「通り魔」の句は「古衾」という男の論理に異議を唱える。戦時の弱い女の立場をこれほどの激烈に詠んだ句があったのだ。今も変わらない社会がそこにあるかもしれない。

「独りする」はヒロポンとか?

「亡夫(つま)の」は「未亡人を詠える」の詞書。

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