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日本維新の会の総合経済対策


はじめに ~ 岸田総理への提言

先週10月20日から2023年の臨時国会が始まりました。最大のテーマは補正予算による総合経済対策です。政府の総合経済対策は今月末を目途に示される見込みですが、岸田総理の各省への指示書、及び臨時国会の所信表明演説の中に概ね方向性が示されており、各党がそれに対する対案として、独自の総合経済対策案を提言しています。

日本維新の会では、臨時国会開会に向けて政務調査会で草案作りを進め、10月23日に総理に提言しました。

提言書本文は下記のサイトからご覧いただけます。

提言内容についての解説動画も公開しました。


NHK、日経、朝日、読売、産経、時事、テレビ朝日など、主要なメディアが取り上げてくれました。

<NHK>

<日経>

<朝日>

<読売>

私自身は国会議員団の政調会長代行として、提言の草案作成と取りまとめを行いました。作成にあたっては、今の日本に必要な経済対策を示すだけでなく、維新の政策理念と経済に対する基本的な考え方を再度考え直す非常に有用な機会になりました。

1.日本の経済状況の認識

日本維新の会の基本的な経済認識は、政府側の認識を担う日銀、財務省、内閣府のエコノミスト・官僚、及びそれとは異なる見方を提示する複数の有識者の方々と定期的に協議をしながら、各種のデータや研究者のレポート等を参照して形成されています。その上で、平場を中心に党で議論し、違う見方をする議員同士の様々な意見とすり合わせています。

今の経済状況に対する認識は、政府に近い見方をしています。国民生活に厳しい影響を与える物価高は続いているものの、全体として日本経済は緩やかな成長軌道に乗りつつあります。各種の経済指標を見ると、コロナ禍を脱したことによる需要回復に伴い、企業の収益、設備投資、賃金上昇、及び政府の税収に良い兆候が見られます。需給ギャップは2023年4-6月期+0.1%(内閣府試算)となり、3年9か月ぶりにプラスに転じています。

物価高騰については、インフレ率(コアCPI)は+3.1%と高い状況ですが、輸入物価下落を要因として落ち着いていくことが見込まれます。ただし、イスラエル・パレスチナ情勢、ロシアのウクライナ侵略の動向、米国等の利上げの状況など、想定不可能なリスクを多々抱えており、安心できる状況とはいえません。

なお、経済状況の認識については、結論ありきのポジション・トークが巷に溢れていますが、「多くの人が言っているから正しい」というポピュリズム的な立場とは一線を画しています。経済対策を考えるには、事実に基づく現状認識がまずあり、それについての洞察や分析があり、そこから対策を考えるのが基本です。「財政出動増」や「減税」といったような目的があらかじめ固まっていて、事実と解釈を後付けするような運動論には与しません

2.今必要な経済対策とは

 経済が成長軌道に乗りつつあるわけですので、「何もしない」という選択肢があることを出発点に考えています。経済対策はやるとしても、経済の自然な流れに任せ、それを後押しするのが合理的です。

そもそも毎年この時期に経済対策を行わなければならない合理的な理由は何もありません。単に慣例的に補正予算が毎年組まれているというだけです。
補正予算は財政法上、当初予算編成時に予見し得なかった緊要な支出に限られる特例的な措置であり、毎年必ず組まなければならないものでもありません。 

にもかかわらず、なぜ政府与党は補正予算で毎年大盤振る舞いをするのでしょうか。それは、自民党の総合経済対策の提言を見れば一目瞭然です。
びっしりと並んだその内容は、自民党の選挙を支える業界団体や既得権団体、そしてその意向を汲む省庁からの陳情と要望のオンパレードです。

政府は、補助金という形で、できるだけ多くのお金をバラまき、彼らを満足させたいと考えています。高齢者を中心に給付金を出したり、社会保障の負担を減らしたりするのも選挙に効果的です。 

政府与党が表向き説明する経済対策の理屈は、それらを正当化するためのこじつけばかりです。

毎年の経済対策は看板政策をより多く打ち出すことで、より多くの陳情や要望に予算を配ろうとします。だから政府与党の打ち出す経済対策は、何とでも読めるように総花的になっており、個別の施策には経済対策と何の関係があるのかさっぱり分からないようのものがたくさん含まれているのです。

今回の政府の経済対策に示されている5本柱も、維新の見立てとしては、今すぐ実施しなければならないのは1の物価高対策と生活者支援だけです。 

3.維新の3つの基本方針

今回の経済対策は昨今の経済状況を鑑み、「何もしない」選択肢があるというところから検討し始めました。そして、経済の自然な成長を後押しすることを基軸とし、今すぐ手当の必要な対策として、絵物価高騰とそれによる生活困窮者支援のみに絞った対策を行うことが妥当としました。

その際、自民党との対立軸を示す意味も込めて、次の3つの事を基本方針としました。 

1)「集めて配るのではなく、そもそも集めない」 

経済対策の手法として、バラマキに使われやすい補助金や給付よりも、減税や社会保険料減免を先に考える。 

2)「短期と長期の施策を明確に分ける」

補正予算としての緊要性の認められる短期のもののみに絞り込み、長期の施策は来年度以降の当初予算で再検討する。 

3)「中長期的な改革の方向性を示す」

補正予算での施策を一過性の補助金、融資、税制上の優遇措置に終わらせず、中長期の規制改革や構造改革を試行するような内容とする。 

4.財源

政府与党はより多くの陳情や要望に応えるため、補正予算の額を膨らませようとします。そのため、国債増発を正当化する様々な理由を捻り出します。 

国債発行の全てが悪いわけではありません。しかし、インフレや需給ギャップなどの経済状況や財政の全体像を考えず、ただ増やすことが正義であるかのようなポピュリズム的主張や、国債発行には限界がないかのような無責任かつ根拠なき空想論には維新は公党として与しません。 

国債発行量は年々増え続けており、特にコロナ禍の補正予算では2年間で国家予算に相当する額が積みあがるなど異常な状態になっています。
それらを正当化する理由は、長期のデフレにより需給ギャップが大量に発生しているため、それを埋める必要があるという事でした。
しかし、コアCPIが3%を超え、需給ギャップがプラスに転じている今年の状況では、もはやその論理は通用しません。 

維新としては、このタイミングでの経済対策は、問題提起の意味も込めて、国債発行をしない範囲で行うことが妥当と考えました。

それでも財源は問題ありません。昨年度税収は71.1兆円となり、当初見通しより6兆円増収があり、今年度の税収見通しも上方修正される見込みです。
加えて、今年度の予備費が5兆円あり、多くの使い残しが出る見込みです。政府はこっそり使途変更をしようとしていますが、国庫返納すれば財源になります。
これらを踏まえれば、今年度のみで7兆円、来年度も含めると10兆円以上の財源が、国債発行無しでも調達できます。 

5.維新提言の内容

以上の経済認識や基本方針等を踏まえ、昨年度税収の上振れ及び今年度予算の執行残を原資として、下記の内容を柱として10兆円規模(補正予算では7兆円規模)の経済対策を、維新として岸田総理に提言しました。

なお、個々の施策は中長期的な改革の方向性を示すものですが、補正予算による実施分については、2024年3月末までの期間を対象とした短期的措置としました。 

1)現役世代の社会保険料の減免(5.7兆円)

社会保険料の被保険者拠出のうち、後期高齢者医療制度分、介護保険(第 1号被保険者)分、国民健康保険の 65歳以上分を除いた現役世代分について、低所得者層は5割(1.2兆円)、それ以外は3割(4.5兆円)の減免を行います。

2)エネルギー価格高騰対策(0.5兆円)

現行のガソリン補助金を最小限に縮小し、ガソリン税の「当分の間税率」を廃止することで、業界団体への配慮が色濃く、プロセスが不公平・非効率・不透明な事業者への補助金支給から、税制措置による消費者の直接負担軽減に転換します。
加えて、再生可能エネルギーを最大限活用するとともに原発再稼働を速やかに進め、エネルギー供給を安定化させます。

3)子育て世帯への支援(0.9兆円)

これまで政府の支援が薄かった一方、出費が多く物価高騰の直接の影響を受ける子育て世帯を重点的に支援するため、大阪で進められている教育無償化のうち即時の実施が可能な施策を全国に展開します。
具体的には、小中学校の給食費の無償化、高校の所得制限のない授業料無償化を行います。
また、出産一時金と実費の差額補填により出産費用を無償化します。加えて、相対的貧困層の半数を占めるひとり親世帯へ直接給付を行います。 

内訳は、地方創生臨時金による地方自治体を通した小中学校の給食費無償化(0.3兆円)、就学支援金の引き上げまたは教育バウチャーによる高校無償化(0.3兆円)、出産育児一時金の増加による出産費用無償化(0.1兆円)、ひとり親世帯(135万世帯)への10万円給付               (0.2兆円)としました。

4)消費税減税(2.7兆円)

今年度予算の未使用の予備費の国庫返納を含む予算執行残を原資とし、来年度通常予算において、インフレなどの経済状況を勘案した上で、消費税減税(最大10%→8%)を実施します。合わせて軽減税率を含む複数税率は廃止し、単一税率とします。

6.なぜ「社会保険料減免」なのか?

今回の維新の経済対策案は反響が大きく、メディア各社が取り上げてくれましたが、多くは社会保障量減免に焦点を当てたものでした。注目を浴びた理由は、社会保険料減免は維新しか提言していないからです。なぜ、他党の提言しない社会保障料減免を、維新は提言したのでしょうか。 

その理由は、社会保険料減免は経済対策として即効性があり、低所得者層に直接的に届けることができること、また、現役世代の可処分所得を増やすことから、賃上げの方向性に沿って物価高騰による国民生活への影響の軽減及び景気浮揚を行うことができることです。 

政府は、住民税非課税世帯を軸に低所得者層への現金の直接給付を検討していますが、現役世代より資産を持つ年金受給者が多く含まれる非課税世帯ばかり何度も給付の対象としています。

しかし、還元というのであれば、可処分所得が減る中で支出が増え続け、苦しい生活環境下で歯を食いしばって社会を支え、経済の好循環を創り出そうとしている現役世代や子育て世帯、そして、ワーキングプアと言われる低所得者層に直接恩恵を届けるべきです。

社会保険料減免という政策手段の選択に当たっては、まず、経済対策の方法として、①減税、②社会保険料減免、③給付、④補助金、という4つがあると想定しました。これらのメリット・デメリットや特性を詳細に検討した上、組み合わせて施策を考えました。 

このうち、まず、持続可能性を無視した政府の選挙対策的なバラマキに対する問題提起として「集めて配るのではなく、そもそも集めない」という方針に基づき、①②を中心的に検討しました。 

④補助金は業界団体へのバラマキそのもの、③給付は対象者を絞ると資産を持つ年金受給者が多い住民税非課税世帯への選挙対策用の重ね塗りになることや、マイナンバー等が整備されず給付手続きの中間コストが嵩むというデメリットも含めて除外しました。 

②減税については、そもそも法改正や行政手続きで最短でも半年から1年程度かかるため、「短期と長期の施策を明確に分ける」という方針に合致せず、来年度当初予算での対応が妥当と考えました。 

また、消費税の持つインフレの自動制御機能や経済の需要創出効果を考え、輸入物価の下落がインフレ率にどの程度影響してくるかが分からないこのタイミングで行う必要があるかどうかは、見極めが必要という懸念がありました。そのため、減税は行うのであれば社会保険料減免の後に実施すべきとしました。 

これに対し、②社会保険料減免は、基本方針に最も合致した方策であり、可処分所得を増やして賃上げと同じ効果があり、かつ、減税よりも短期の措置ができ即効性もあります。また、対象者として低所得者層に直接届けることができると判断しました。

7.橋下徹さんとのやりとり

一方で、これだけメリットがあり合理性も担保できる社会保険料減免を、既得権との関係で社会保障費に触れて欲しくない政府与党だけでなく、他の野党も提言しないのはなぜでしょうか。それは、政策的な課題が存在するからです。

その本質的な部分について、維新の創業者でもある橋下徹さんからツイッター(X)で指摘があったので紹介したいと思います。 

指摘内容は、主に以下の3点でした。それらについて、現状の考え方を書きます。なお、このブログはあくまで個人のものですので、党を代表した回答ではありません。

1)保険料と税とは明確に分けるべき(保険料は政治でなく計算で決めるべき)ではないか? 

政府が今回消費税減税をしない理由を、「消費税は社会保障財源だから」と言っていることでも明らかなように、基礎年金や高齢者医療を中心に多くの社会保障は実質的に税投入による公費で賄われています。
社会保険料のみ計算式で決定されているというのは建前でしかなく、さらに実態は国民の目の届かないところでその原則の形骸化が進んでいます。

低所得者層や現役世代の多くは、この一見公正な「計算式」で自動的に増えていく社会保険料に違和感を持ち、不満を募らせており、その怒りは正しいものだと認識しています。 

だからこそ、少子高齢化社会に歯止めがかからず将来の社会保障の持続可能性が懸念される今、短期の施策として建前論で聖域とされている社会保険料に手を付ける事で、本当の受益と負担の実態を包み隠さず国民の見えるテーブルの上に乗せ、正直な議論を始めるべきではないか、というのが今回の問題提起です。 

それが、今作成している新・日本大改革プランでセンターピンに掲げる医療制度改革やデジタル歳入庁といった中長期の抜本改革に繋がっていくと位置付けており、また、そうした中長期の改革案を打ち出す具体的な作業を同時並行で進めています。 

ただし、総合経済対策は「長期と短期を明確に区別する」という基本方針ですので、それらは今回の対策としては書いていません。

2)長期の社会保険改革というゴールに向かって、税投入による保険料低減という第一歩は、道筋に乗っているのか?

上記の通り、社会保険改革というゴールに対しては、社会保険料減免ではなく、新・日本大改革プランにおいて、その第一歩を「医療のデジタル化」と明記しており、診療報酬や混合診療などの医師会利権に切り込む政策案を構築しています。 

今回はあくまで短期の経済対策の財源として、基本方針に合致し、政策手段として最適であったという事が、社会保険料減免を打ち出した背景となっています。 

その意味で、長期的に保険料に税を投入することを意図したものではありません。短期的な執行としては、保険料率を下げるという直接的手段だけでなく、同等の金額を給付する方法でも良いという基本姿勢です。 

社会保険という聖域に踏み込むことで、社会保険料には公費が既に投入されており、理屈の上では社会保険料減免も消費税減税も変わらない事や、社会保険料が計算式で決定されているのは建前である事を明らかにし、以前から維新が訴え続けてきた「税と社会保障は一体的に考え、改革していく必要がある」という事について広く問題提起することを最大の狙いとしています。 

3)政策の立案に留まっており、「執行」に関する考えが甘いのではないか?いったん下げた社会保険料を超短期間で復活させた場合、有権者とのハレーションを生むのではないか? 

「執行」の観点は橋下さんの仰る通り党として研鑽が必要と思います。官僚機構を動かせる政府与党や首長と違い制約はありますが、衆議院調査室・法制局、国会図書館、外部有識者、そして大阪を始めとした地方自治体の首長や地方議員等とともに、より解像度を高められるようにならないといけないと思います。 

今回の社会保険料減免の執行時に生じ得るハレーションについては、政府の一時的な所得税減税や電力料金の激変緩和措置、大阪市による上下水道料金の減額等の時限的措置と同様に、「下げて上げる」ではなく、「一時的に下げる」と有権者に受け止められるのではないかと想定しています。それであれば、政府の所得税減税や大阪市の上下水道料金と同様に、許容範囲内に収まるのではないかとの見立てをしています。


なお、橋下徹さんはかつての維新のカリスマ・リーダーであり、私が2012年に維新政治塾という政治の門を叩いた時には維新の頂点で大阪の大改革を実行していた憧れの方でした。現在は引退されコメンテーターとしてご活躍中ですが、時々古巣を気にかけて創業者の視点から本質的な問いかけをいただけるのは大変ありがたく、個人的には嬉しい限りです。

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