分断か協力か:米国大統領選挙から日本のあり方を考える ~ みょうこうミライ会議と、蘇るサン・シモン主義 ~

こんにちは。
青山社中広報担当の佐藤です!

今回は毎月配信している朝比奈一郎(あさひな いちろう)のメルマガに
記載した論考を掲載します。

分断か協力か:米国大統領選挙から日本のあり方を考える  ~ みょうこうミライ会議と、蘇るサン・シモン主義 ~

米国大統領選挙投票日まで、あとわずか3日となった。

前回は、民主党のヒラリー・クリントン候補に対して奇跡の逆転劇を見せたトランプ現大統領(共和党)であるが、今回はどうであろうか。

間もなく78歳となる民主党のジョー・バイデン候補は、かなり高齢である上、経験豊富と言えば聞こえが良いが、約50年もの間、政界にどっぷり浸かってきた「手垢感」のある人物だ。女性初の大統領を目指していたカリスマ性のあるヒラリー・クリントン氏ほどの強敵ではないようにも見える。しかも、今回のトランプ氏は挑戦者ではなく現職大統領である。経験則上、現職はとても有利だ。

したがって、前回同様、世論調査で言われている劣勢を跳ねのけてトランプ氏が当選する可能性もそれなりに高いとは思う。ただ、今回はバイデン氏が勝つのではないか。そのことを考える上で象徴的なのは、「ByeDon 2020」の標語だ。BidenではなくByeDon。「バイバイ、ドナルド(・トランプ)」という意味だ。すなわち、バイデン氏の良し悪しはともかく、「トランプにはこりごりだ。大統領を辞めて欲しい」という強い気分を表している。

なぜ、皆、トランプ氏が嫌なのか。深く考えるまでもなく、「彼は子供じみている」「大人気ない」等々の人格面での課題が真っ先に脳裏をよぎるが、それは本質ではないであろう。要すれば、トランプ氏が、米国を「分断している」ことに辟易している米国人が増えているということではないだろうか。

トップには敵を作ることをいとわない決断力が必要であることは論を待たない。その点、トランプ氏は、果断なリーダーであると言って良いであろう。問題は、コロナ対応しかり、環境問題しかり、彼の決断の多くが、むやみやたらに、米国の分断をもたらしてしまっていることだ。本当は分断ではなく、協力・連携が必要なのに。

あまつさえ、コロナによる米国の死者が約23万人となり、第二次世界大戦での死者数(約30万人とされる)超えが現実的になって来ている中、本来は、分断ではなく協調によってこうした難題に対応しなければならないわけだが、その気配は一向にない。

優柔不断ではあったかもしれないが、米国人の多くが、たとえポーズだけであったとしても、少なくとも建前としては、「理性」や「連携」を大切にしていたオバマ時代を少し懐かしんでいるような気がする。
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さて、協力とか連携ということになると、すぐに思い浮かぶのが「我が日本のお家芸」ということである。個々人だと、スポーツにおけるフィジカル面でも、ビジネスなどにおける論争でも、しばしば、欧米人・中韓人などに当たり負けしてしまう日本人だが、集団ということになると話は違う。スポーツでのチームメイト同士の協力、ビジネスでの会社を挙げての連携などを通じ、国際試合やグローバル競争で度々勝利を収めてきた。

ただ、特に政治・行政の局面になると、その点がはなはだ心もとない。与野党の足の引っ張り合いは永遠に終わりそうもなく、霞が関の各戦線、すなわち、地方創生・農業の未来・財政・少子高齢化、、、、と難問が山積する中、これといった協力・協調案件は見えてこない。菅政権が強調する「規制改革」などは、事の性質的に、既得権益と「闘わなければ」ならないが、とはいえ、何とか「協力・連携」などにより、難問を解決できないものか。

ミクロな実証と、マクロな構想について、以下、簡単に略述したい。

まず、ミクロな実証の方である。昨日までの3日間、「みょうこうミライ会議」という新しい取り組みに関して、現地で、最終合宿・プレゼンをしてきた。これは、妙高市アドバイザーとしての私や弊社が企画・運営の支援をしてきたプロジェクトで、具体的には、都市部企業・妙高市役所職員・妙高市の民間事業者や市民たちが約3か月にわたって議論を重ねて政策提案をし、プレゼンを受けた市長・市役所幹部が納得してゴーサインを出せば、翌年度などに予算化したり、事業化したりする、という取り組みである。

1)人の流れをどう創出するか(移住・定住、交流人口の増加)、2)交通問題にどう対処するか(観光客の二次交通や、免許返納者などの生活者の域内移動)、の二つをテーマに、都市部から、ダイハツ工業、NearMe、ワーナーミュージック・ジャパン、カヤック、日本マイクロソフトの各社から優れた若手職員などに加わってもらった。結果、彼らはもちろんのこと、市職員や市内関係者たちの驚異的な頑張りがあり(晩飯もなしに深夜まで議論が続くなどした)、また、あり得ないほどの協力・連携が進み、素晴らしいプランがいくつも提示された。日本人の「連携・協力」の底力を見せてもらった気がする。

妙高市内にいくつかあるワーケーション拠点や古民家などをフル活用し、定額制(サブスクリプション的に)で、どこにでも住めて・どこでも働ける案や、その拠点間を相乗りなどで移動できる案。日本で唯一無二の同地にある山岳ガイド育成の専門学校なども活用しての自然教育を絡ませての画期的な案など、その斬新かつ現実的なアイディアには驚愕した。その他、既存の雪上の花火大会に合わせて音楽フェスをやることで誘客の多角化を図る案や、市職員から通勤の相乗りを始めて「環境都市」妙高の浸透を図る案なども興味深い。既に短期間のうちに関係者と一部調整を進めての案である。全てが空想ではない。

また、ここにはまだ書けないが、民間企業によっては、妙高の地でインスピレーションを得て、社を挙げて「妙高モデル」的に新商品・サービスを生み出し、試作品も作って、間もなく発表するケースまで出て来ている。官を助けるだけでなく、民自身も助かっている。こうした無数の新しいプロジェクトが短期間で芽を出し、実際いくつもの案が実現しそうだ。市長もかなり興奮気味でいらした。

政府におけるデジタル庁構想・DX化などが典型であるが、もはや、政治・行政が抱える課題は、民間企業などの協力・連携なしには解決が進まない話が大半だ。公平・公正ということを一定程度保ちつつ、どのようにスピード感をもって解決を図るのか。特にDX化などは、官僚や政治家、そして民間企業間の、みょうこうミライ会議どころではない、熱のこもった真剣な議論による協力・連携が不可欠であろう。
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最後に、日本における協力・連携についてのマクロな構想について言及する。これは、再度「空想的社会主義(エンゲルス)」となじられる恐れもあるが、サン・シモン主義的考え方の復活を図るべきだということである。

冒頭で米国の分断について述べたが、同国の最も極端な分断は、貧富の格差だ。人口にして上位1%の富裕層が約3割の家計資産を有していると言われる。上位10%で7割超との調査もある。コロナの影響で、この傾向はますます強まると考えて良いであろう。

一億総中流などと言われていた日本も、相対的貧困率(可処分所得の中央値の半分に満たない所得層の率)の高さで、OECD34か国中、トップ10(実質的な意味でワースト10という意味)入りが状態化してきている。子供の貧困率は約14%(7人に1人)にもなっている。

現在のみずほ銀行や王子製紙など500社以上の創業に関わり日本の資本主義の父とも言われる渋沢栄一は、合本主義を唱え、特定の財閥や個人だけが儲ける体制をよしとはしなかった。ドラッカーの評価が特に高いが、開発途上国や社会主義体制からの移行期などでよく見られる新興財閥層の富の独占が、日本では比較的見られなかったのは、そうできる状況にありながら、自ら「渋沢財閥」を決して残さなかった渋沢栄一の影響が大きいとも言われる。

フランス文学者の鹿島茂氏が主唱者であるが、約1年半にわたる滞仏経験を持つ渋沢栄一に、サン・シモン主義の影響を見る向きがある。産業を社会の基礎におきつつ、資本家と労働者が対峙する暗い世ではなく、労働者が安らかに暮らせるように資本家と労働者が互いに尊重し合うような世の中を想定していた。経営者が過度の報酬を取るなどせず、「労使協調」がキーワードでもあった高度成長期の日本企業などが、ある意味サン・シモン主義者の理想に近い状態であったかもしれない。

「人は自分のためにだけ生きられるほど強くない」と喝破したのは三島由紀夫であるが、国際的な存在感がどんどん落ちている中、元気のない日本の企業人・起業家は、いまこそ、「自分たちがしっかりと稼いで、多くの雇用を生んで、社員や社会を救うのだ」と、社会全体での連携・協力を模索すべきではないか。政治も官僚も、足の引っ張り合いではなく、どのように「あらゆる富の源泉である産業」を活性化していけるのか、協力しながら真剣に議論すべきではないのか。菅政権肝いりの成長戦略会議では、おざなりのシャンシャンの議論ではなく、時に深夜まで続くような、こうした本質的な議論を期待したい。

民にあって、そういうプラットフォームを弊社こそが本来は提供しなければならない、と感じ、空想で終わらせてはならないと思いつつ、「みょうこうミライ会議」などの、一国から見れば、まだまだ小さなチャレンジで終わっている。ただ、ミクロな動きの横展開と、マクロな構想からの動きと、大きく攻めたいと気宇だけは壮大である。

他の産業人だけに期待するだけでなく、2024年頃から1万円札の肖像となるとされている渋沢栄一翁の顔を、間もなく10周年を迎える株式会社の弊社こそが沢山拝まねばならないが(その頃はキャッシュレスでご尊顔を拝謁する機会は少なくなっているかとは思うが)、情けないことに現実は厳しい。

筆頭代表CEO
朝比奈 一郎

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2019年5月末から青山社中で働く広報担当のnote。青山社中は「世界に誇れ、世界で戦える日本(日本活性化)」を目指す会社として、リーダー育成、政策支援、地域活性化、グローバル展開など様々な活動を行っています。このnoteでは新人の広報担当者目線で様々な発信をしていきます。