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#ネタバレ 映画 「紙の月」

「紙の月」
仕事にプライドを持てと会社は言うが
2014-12-20 09:41byさくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

昔、ある漫才師がタクシーに乗ったとき、運転手を「かごかき」「くもすけ」と呼び、トラブルになったことがありました。

職業、キャリヤは、時に相手の、人としての評価にも値しますので、敬意を持って接することが大切ですね。

たとえば学校を卒業してすぐ就職し、定年まで勤め上げたなら、その仕事は、もう、その人そのもの、だと言っても良いと思います。

私にも、事例は違いますが、似たように残念な経験がありました。いつも上から目線なので不快に思っていた友人が、その日は、とうとう私の仕事にまで軽んじた態度を示したのです。その瞬間、私は全身から血の気がサーっと引いていくのが分かりました。あれは、「血が引く」というのは比喩ではなく、本当にそう感じられるんですね。

そして映画「紙の月」です。これも人のプライドの物語でした。

主人公の梅澤は、ある日、夫にペア・ウオッチをプレゼントします。いろいろと考えた末の購入でした。しかし、すぐ後に夫は、もっと高級なペア・ウオッチを買ってくるのでした。当然のように。

オー・ヘンリーの名作短編に「賢者の贈り物」がありますが、あれの正反対の行いですね。「賢者の贈り物」では、役に立たない物を贈っても心を伝え合えましたが、「紙の月」では、役立つ物を贈っても、贈り手の心を破壊したのです。

妻は、日ごろから夫の無神経さは承知していましたが、がまんしていました。愛なんて、そんなものさと。でも、あの時は、きっと、彼女も全身から血の気が引いていったことでしょう。

妻は銀行員です。お金のプロフェッショナルです。夫はそれを十分承知の上で「お金に対する妻の見識も、評価にすら値しないもの、として切り捨てた」のです。

妻の人格、仕事、そこにあるプライドが、夫から抹消された瞬間です。

それで妻は、夫に報復を決意をした。

それが、カネ(プロの意地)と、あの浮気。

曲解とは言え、もとより、妻には「右手のやることを左手に知らせてはならぬ」というキリスト教の教義が染みついています。

そして諸行無常、「お金も、人生も、ただ右から左へ流れていくもの」であり、「人生は、その瞬間を楽しむだけのもの」という刹那的人生観が、あの学校のトラブルを皮切に、この半生で作られてきたのです。

夫でさえも、例外なく、そのとおりに通りすぎていった。

だから決心し、カネ余りの、あるいは痴ほう症の老人たちから、誰にも知られないように盗み、金が不足している人たちの元へ、流した…

ところで、この映画の、表の主人公は、あの妻ですが、本当の帰結点は違うのだと思います。

それは、ベテラン銀行員である、お局様の隅なのでしょう。

そう、ベテランなのに隅っこに追いやられている隅なのです。

隅は非常に優秀な銀行マンですが、女性であり、中年になったというだけで、閑職へ人事異動され、事実上の肩たたき(退職勧告)をされています。

覚悟していたとはいえ、彼女のプライドは深く傷つきます。実は、彼女みたいな人はどこの会社でも少なくないのでしょう。肩たたきで、多くは失意の中、退職するのでしょう。だが、隅は意地でも辞めないことで会社に報復をするのです。

やがて、1人はガラス窓を砕いて逃亡し、もう1人は逃げなかった。2人は薄いガラス一枚で隔てられた、会社の外と内の相似形なのです。

それは梅澤「家庭、薄情な夫」=隅「会社、薄情な上司」という構図。

そして在職中は上司と、公然の秘密で浮気を楽しみ、問題が発覚しそうになると、すぐに寿退社した相川は、梅澤や隅よりも、ある意味、やり手の存在なのかもしれません。

ですから、これは、本当は、会社の女性に対する理不尽な行いを告発する映画なのでしょう。

あなた達のしていることは、本当に罪深いことなのだと。

★★★★


(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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