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#ネタバレ 映画「きみの瞳(め)が問いかけている」

「きみの瞳(め)が問いかけている」
2020年作品
新境地の演技、か
2020/11/11 17:41 by さくらんぼ (修正あり)


( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

どこかで映画「街の灯」へのオマージュらしいと読みましたが、ネットで見ると映画「街の灯」をモチーフにした韓国映画「ただ君だけ」のリメイクのようですね。こんがらかりそうです。

私は映画「ただ君だけ」は存じませんが、確かに映画「街の灯」へのオマージュの匂いはしました。

そして、吉高由里子さんの演技が素晴らしいです。

今まで盲人を演じた俳優さんをたくさん見ましたが、役柄もあってか表情が乏しい演技ばかりだったように思います。

しかし、ここの吉高さんは目の焦点が合っていないだけで、あとは健常者と同じような演技、いや目の焦点が合わない分だけ、少しデフォルメ気味の生き生きとした演技をしているように感じました。そのせいで、さらに魅力的な盲人が生まれました。これは特筆できると思います。

ふだん泣ける映画でも片目しか涙を流さない私ですが、今日は両目で泣いてしまいました。

★★★★☆

追記 ( 帰る家 ) 
2020/11/12 14:03 by さくらんぼ

オルゴールが出てきて、そのメロディーがヒロインの好きな「椰子の実(やしのみ)」でした。ヒロイン曰く、これは「帰る家が欲しい(望郷の歌)」なのです。

映画のラストシーンには、風力発電の風車が立つ海岸で、亡き母の後を追って、入水自殺しようとする彼を引き留めるヒロインがいました。「私と家に帰ろう」と。

彼は「椰子の実」で、風車は「椰子の樹」の記号ですね。

椰子の実は流れて行ってはいけないのです。彼の家はここにあるから。

という事から、この映画「きみの瞳(め)が問いかけている」は、「帰る家」について描いていたのでしょう。

彼・篠崎塁(横浜流星さん)は孤児のようで、施設で育ったようです。両親から十分な愛情をもらって育てられた人は、両親と実家が帰る家になるのでしょうが、孤児やそれに準ずる育ち方をした人は、そこに穴の開いたような空虚を感じていることがあります。

又、彼が不良だった頃の仲間にも、彼同様に前科のある者が多く、「どうせ俺たちは、誰も受け入れてはくれない。ならば、日陰者同士、仲良くやろうじゃないか」と、再び彼を悪への道に誘うセリフもありました(セリフは正確ではありません)。

彼らも又、世間に受け入れられないという点で、刑務所を出ても帰る家が無いのです。その哀しみは、映画「羊の木」に詳しく描かれていましたね。

それに対して、盲目のヒロインは、盲目という家の中に閉じ込められているわけです。

家の無い男が、家から出たい女を救う構図ですね。

そしてチャップリンの映画「街の灯」では、冒頭に除幕式前の銅像でテント生活するチャップリンがいました。あれも家でしたね。

映画「街の灯」は「恋は盲目」を描いていると思っていましたが、あちらも「帰る家」だったのかもしれません。

追記Ⅱ ( 映画「ただ君だけ」 ) 
2020/11/12 14:23 by さくらんぼ

映画「きみの瞳(め)が問いかけている」のリメイクの元になった、「韓国映画「ただ君だけ」の「帰る家」とは、まだ観ていませんが、やはり「朝鮮半島の南北問題」に帰結するのでしょうね。

追記Ⅲ ( ミカンとお饅頭 ) 
2020/11/12 14:39 by さくらんぼ

>映画「きみの瞳(め)が問いかけている」の、リメイクの元になった、「韓国映画「ただ君だけ」の「帰る家」とは、まだ観ていませんが、やはり「朝鮮半島の南北問題」に帰結するのでしょうね。

南北問題は愛憎の問題でもあるはずです。

映画「きみの瞳(め)が問いかけている」の彼は、不良時代に犯した罪で自殺者が出たのですが、その自殺の巻き添えを食って、ヒロインが運転する車が事故を起こし、ヒロインは盲人になり、ヒロインの両親は亡くなったのです。

いわば加害者に準ずる男なので、ヒロインを愛しつつも、去っていこうとするわけです。

ここにもヒロインと彼の間の愛憎問題がありました。

そう考えると、映画の前半にあるヒロインの登場シーン。

ミカンとお饅頭を両掌に乗せて差し出すところ。

差し出されても、どっちを取ろうか迷うところが、愛憎問題の振り子に似ていますね。

追記Ⅳ ( 「オレオレ詐欺」は自分の故郷まで失う ) 
2020/11/12 22:08 by さくらんぼ

映画「きみの瞳(め)が問いかけている」で、彼が罪を犯したのがオレオレ詐欺の集団です。

オレオレ詐欺というのは、ご承知の通り、家族を装って他人の家に電話をかけ、お金をだまし取るものです。

しかし、騙したのは他人の家族でも、逮捕され犯行が明るみに出ると、自分の家族、親戚、友人、知人を騙したように迷惑が掛かります。

そして、自分の人生を棒に振るだけでなく、あなたと家族・親せきであるというだけで、周囲の人の人生を壊してしまうこともあるわけです。

それにより、多くの人間関係を失うかもしれません。

事実上、帰れる故郷まで失うかもしれないのです。

事件の事は、恋人ができても、容易に打ち明けられないでしょうし、恋人のご両親にはなおさらです。

だから、恋人への加害者が自分であるという映画の設定は、ご都合主義ではないように思います。

この作品は、その重大さを若者に訴えているのでしょう。本人にとってはゲーム感覚の犯罪かもしれませんが。

ちなみに、同様の作品には、数々の受賞に輝く映画「いざなぎ暮れた。」があります。あちらは自分の親戚にオレオレ詐欺を働きますから、よりストレートに訴えています。

追記Ⅴ ( 「三歩下がって師の影を踏まず」 ) 
2020/11/13 9:09 by さくらんぼ

映画「街の灯」には、映画史に語り継がれる空前絶後のラストシーンがあります。

オマージュとかリメイクと言えば、当然にラストシーンをどうするかが大きな問題になると思いますが、この映画「きみの瞳(め)が問いかけている」では、(畏れ多いのでしょうか)直接対決は避けているようです。

しかし、「三歩下がって師の影を踏まず」ではありませんが、「三歩下がってラストシーンを推敲する」みたいな気持ちも感じられました。

私の勘違いかもしれませんが、ラスト直前に、迷いの痕跡みたいなものが感じられたのです。製作者たちも議論が分かれたのでしょうか。

追記Ⅵ ( ラストは映画「街の灯」の完全版なのか ) 
2020/11/13 16:56 by さくらんぼ

(  遅れましたが、映画「街の灯」のネタバレです。 )

>ところで「街の灯」のラストで、どうやらチャップリンは娘から捨てられるようなのですが、その後チャップリンはどうなるのでしょうか。諦めてまた浮浪者の生活に戻るのでしょうか。そのヒントを見つけました。

>あの大金持ち、自殺騒ぎを起こした大金持ち、あの時は、恋の真っ只中で幸福感に酔った様になっていたチャップリンが励まし、助けるのですが、あの大金持ちの自殺の理由が、妻に逃げられた事によるものだった様なのです。ここに関連付けと、暗示が有ります。

>娘に捨てられて、誰にも励まされなければ、ちゃプリンのその後も・・・。

>「街の灯」はなんと言う悲劇なのでしょう。

( 以上、 映画「街の灯」〈1931年〉 追記「捨てられたチャップリンは・・・」 2007/10/13 20:47 by さくらんぼ より抜粋  )

上記は、あえて表現をぼかして書きましたが、自殺騒ぎを起こした(アル中らしい)大金持ちは、入水自殺を図りましたね。

これが映画に直接描かれていない、チャップリンのラストを暗示する伏線だと私は思いました。

つまり、花売り娘に捨てられたチャップリンも、泥酔した後に入水自殺をするのです。

そして、映画「きみの瞳(め)が問いかけている」の彼もまた入水自殺を図ります。

この顛末になった根っこは、私と同じ解釈から来ているのかもしれないと思いました。もちろん単なる偶然かもしれませんが。

もし、同じ解釈から来ているのであれば、映画「街の灯」〈1931年〉では省略されていた部分を、私たちは観ているのかもしれません。

追記Ⅶ ( 無意識に逃げたヒロイン ) 
2020/11/15 9:41 by さくらんぼ

映画「きみの瞳(め)が問いかけている」の後半では、目が治ったヒロインがセレクトショップみたいなお店の店長をしながら(彼のお金で開店したようす)、ボランティアで病院のマッサージ師をしていました。

その患者の一人が彼だったのです。

ヒロインは男の背中をさすりながら、その鍛えられた筋肉に彼を思い出しました。そして、もしやと思い、男の手の甲に有った入れ墨を確認しようとしましたが、男は隠してしまったのです。だから、ヒロインは確認できないまま去っていきました。

もし映画「おもかげ」〈2019年〉のわが子を探す母の立場なら、「すみません、手を見せてもらえますか」と言ったでしょう。他人の子と知りながら助けようとするぐらいですから。

でも、映画「きみの瞳(め)が問いかけている」のヒロインは、探している彼かもしれないのに、黙って帰ってしまったのです。

その「黙って帰ってしまった」には、ヒロインの心の葛藤が透けて見えるような気もします。彼女は「(底辺に生きているような)この男を彼とは思いたくない」と思ったのでしょう。だから深追いしたくなかったのでしょう。

追記Ⅷ ( 想いを共有した瞬間 ) 
2020/11/15 9:50 by さくらんぼ

無意識にせよ、一度は彼から逃げたヒロインでしたが、再び追いかける気持ちになったのは、店を訪ねてきた彼が「椰子の実(やしのみ)のオルゴールを聴いて涙を流していたと、留守番の店員から聞いたからでしょう。

この事に、初めて自分がしたことの罪深さを自覚したのです。

追記Ⅸ ( NHK・朝ドラ「花子とアン」 ) 
2021/1/14 9:26 by さくらんぼ

(  以下、「花子とアン」のネタバレです。 )

ヒロイン・安東はな(吉高由里子さん)さんが、当時は難しかった「女性の学問」を、周囲の尽力もあって修め、出世していく様を描いた作品です。

しかし、ここには隠れた哀しき戦いがあって、安東はなの父・安東吉平(伊原剛志さん)と、祖父・安東周造(石橋蓮司さん)の、「学の差」による確執です。

安東周造は文盲のようです。他の朝ドラにも出てくるように、昔の田舎では珍しくなかったのです。

そんな彼は、普通に読み書きができる(確か婿養子)の安東吉平を、己の威厳を強めて精神的に遠ざけようとしたようです。自分が文盲であることを知られてバカにされまいとしたのだと思います。

安東周造の口癖である「そうさなぁ」。彼が何を話しかけられても、否定とも肯定ともつかないこの微妙な相づちで返すのは、「赤毛のアン」の中にも似たようなセリフがあって、オマージュの記号だと言われているようですが、「花子とアン」では、安東周造が己の無学を知られたくないために出した、苦肉の策の意味もあるのでしょう。

そんな事情がわからぬ安東吉平は、嫌われていると思い、失意の中、家に居づらくなって行商の世界に飛び出します。そして日本中を行脚し、ますます見聞を深めていきます。

家に残った幼き日のヒロイン・安東はなは、おじいちゃん子になり安東周造が溺愛します。

ここに、安東はなをめぐって、祖父と父との、静かで過激な三角関係の戦いが起こってしまうのです。一件落着とはいきませんでした。

遠くからその嫉妬に耐えられなくなった安東吉平は、才能ある安東はなに学問を修めさせるという口実で、安東はなを安東周造から隔離し、全寮制の都会の学校に入れるのです。もちろん安東はなは才女であり、その価値があるのは言うまでもありませんが。

これが、おそらく安東吉平自身も気づいていない三角関係の戦いなのです。

再放送をご覧になる時には、その辺りを注視するのも面白いかもしれませんね。

追記

ヒロイン・安東はなをめぐる、父・安東吉平と祖父・安東周造の、秘められた三角関係のワンピースは、きっと、それだけにとどまらず、(定石から言えば)相似形であろう全体像へと進んでいくような気がします。気がすると書いたのは細部を忘れたからです。

ここで、以前から気になっていた本名「はな」と、通名「花子」の謎が解けたような気がしました。

安東はなをめぐって「はな」と「花子」は三角関係だったのです。

追記2

それは、どこかで「赤毛のアン」にもつながっているのでしょう。

そして、なぜ今この作品が選ばれたのかと言えば、当然私の知らない事情もあるはずですが、ふと、コロナ過でのハンマー&ダンスと、人との三角関係を連想したことも確かです。

追記11 ( NHK・朝ドラ「花子とアン」② ) 
2021/2/20 10:21 by さくらんぼ

(  映画「ブラザーフッド」のネタバレにも触れています。 )

NHK朝ドラ「花子とアン」、先日の回では、花子が何年かぶりに里帰りするエピソードがありました。それは、上流階級の子女が集まる学校で長く異分子あつかいされた花子にとって、久しぶりの喜びのはずでした。

しかし、実家では、家族は相変わらずボロを着て極貧生活をしていました。そこに降り立った、すっかり良家のお嬢様に変身して、きれいな着物を着た花子。

花子には、学校どころか実家に帰っても、居場所が消えていたのです。

さらに妹が、進学どころか(恥ずかしかったのでしょうか、花子には内緒で)女工として働きに出ることを知ります。当時の女工は「女工哀史」という言葉もあるほど過酷で、現在の工場従業員とは別のものです。

やっと、「無学な極貧家族は恥ずべき存在ではなく、その家族の大きな犠牲の上に自分がある」ことを知った花子は、世間知らずな自分を恥じ、「学校をやめて働く」と言い出します。

しかし、それを止めたのは、妹も含めた家族全員でした。

花子は「家族の希望」なのです。

今でこそ子供たち全員に大学教育を受けさせることは珍しくありません。あまり成績の良くない子供でも、奨学金という名の多額の借金を背負わせ、有名ではない大学に通わせるのは普通の事でしょう。

しかし昔は、少なくとも、私の子供のころぐらいまでは、経済的な問題で「子だくさんでも大学教育は一家に一人」という家庭もあったと思います。

そして、その一人は一家の希望になるのです。だから勉学に励みます。

そして、生涯にわたって、リーダーとして家族の悩みごとの相談に乗るのです。そんな優秀な者が一人でもいると、家族は外部からバカにされたり騙されたりする心配も少なくなるはずです。

さらに、花子が仕事で大成功し、お金をたくさん儲ければ、家族のめんどうも可能な限り見たはずです。貧しい諸外国でもそのような構図はあるはずです。

その使命のために「家族で一人は成功しなければいけなかった」のでしょう。日本だけでなく、韓国映画の良作「ブラザーフッド」にも、そんな兄弟が描かれていましたね。

「ブラザーフッド」は、まだその自覚がない秀才の弟と、自覚がある凡人の兄が、文字通り戦って、理解しあうまでの物語でした。

追記12 ( NHK・朝ドラ「花子とアン」③ ) 
2021/2/20 10:24 by さくらんぼ

ある日のこと、花子は後輩の葉山蓮子(仲間由紀恵さん)から薬だと騙されてワインをご馳走になります。

それが酒だとは知らず、酔っぱらって騒いでしまった花子は、校長たちに見つかり、重い校則違反をしたとして退学させられようとしています。

しかし、葉山蓮子は「花子が盗み飲みした」と、校長たちの前で裏切りの証言をしたのです。

噂で花子が退学させられそうだと知った父・安東吉平(伊原剛志さん)は、駆けつけて花子をぶちます。生れてはじめてぶったのです。そして泣きます。それぐらいの一家の危機です。

そして、二人で校長に土下座をして許しを請いました。

校長はどう処分するか、しばらく考えるようです。

すでに花子はあきらめかけていました。

そこへ届いたのは妹・安東かよ(黒木華さん)からの手紙です。

女工として働いているかよは、朝から晩まで働いて、「寝ることが一番の楽しみ」だという生活の中、「お姉さんの事を考えると元気が出る」と、相変わらず花子を一家の希望と信じ頑張っているのです。

それを知った花子は「(私一人の問題ではない)このまま退学になるわけにはいかない」と、葉山蓮子の部屋を訪ねて裏切り行為への抗議をするのです。

ここにも、花子が「一家の希望」としての責任を全うしようとする姿が描かれていましたね。

追記13 2022.5.14 ( お借りした画像は )

キーワード「花屋」で検索してご縁がありました。少し滲んだ感じが美しい世界です。少し上下しました。そのままでも良かったですが、最高倍率にしてみました。ありがとうございました。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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