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#ネタバレ 映画「母と暮せば」

「母と暮せば」
2015年作品
片方だけの紳士靴
2016/1/24 7:20 by さくらんぼ


( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

浩二(二宮和也さん)の恋人・町子(黒木華さん)は、浩二が被爆死した後、浩二の家に新恋人の黒田(浅野忠信さん)を連れていきます。ところが、その人は片足が無いのですね。玄関先で片方だけの紳士靴がアップになりましたが、あれが主題のワンピースだと思います。

映画「風の丘を越えて/西便制」の中に、「すべてのものは二つで対になる」というセリフが出てきます。北野武監督の映画でも、この映画「母と暮らせば」と同じく、ラストに男女2人が寄りそって「人」文字を作るシーンが出てきました。

「自助・共助・公助」という言葉があるのなら、“もっと共助をしなさい”が、映画で語られている事なのかもしれません。

それから映画の冒頭、米国に「人間のやることではない!」とのセリフで、長崎原爆への憤りが語られます。

米国と同じクリスチャンの町で(チラシに写っている珍しい墓石に注目)、舶来の文明文化をまっ先に受け入れてきたのに、原子爆弾の標的にするなんて、なんと“神をも恐れぬ蛮行”なのでしょうと、ストレートに吐き出しているのです。

でも映画では、それだけではない何かも、語られている気がします。

★★★★★

追記 もう一度語られた映画「東京物語」 
2016/1/24 7:29 by さくらんぼ

この映画の深層から見えてくるものがありました。これは映画「東京物語」のオマージュにもなっていのかもしれません。舞台の家庭が東京物語を思わせる医療関係者(母は助産婦さんであり、浩二は医学生)であるのがその記号です。

映画「東京物語」では、本当は原節子さんが主人公で、“戦死した息子の嫁の秘めた哀しみ”を描いたのだと思います(詳細は映画「東京物語」のレビューをご覧ください)。

それが、いつのまにか“親不孝の子供たちの物語”の側面が有名になってしまい、本来の物語が忘れられていったのです。

この映画「母と暮らせば」は、その忘れられた部分に再度光を当て、ダメ押ししているようにも感じられます。

浩二は被爆死しましたが、霊魂になって、最初に、最愛の恋人・町子の元を尋ねていったはずです。しかし、そこで町子に想いを寄せている黒田(浅野忠信さん)の存在を知り、断腸の思いで諦めます。そして、その苦悩を癒すために母の元へ甘えにきたのですね。映画は、その甘えに来たところから描いています。浩二の陽気さは哀しみの隠れみのだったのです。だから涙の前ではいたたまれないのです。

母の居る助産所の窓には色ガラス(ステンドグラスの記号)がはまっており、教会の意味を持たせてあります。と言うことは、母はシスターの記号でしょう。煩悩を癒すための場所として最善のところです。母はイエスにつながる聖なる存在。だから闇業者とは付き合えないのです。

一方、町子は自分の心が浩二から黒田へと移っていくことに困惑し、自己嫌悪になっています。そこからの救いを求めて浩二の母の元へ足げく通ったのです。映画は足げく通うところから描いています。やさしい町子ですが、どこか影を感じるのは黒田のせいです。しかし、やがて浩二の母からも黒田の存在を言われて…。

このときの町子の気持ちは、映画「東京物語」の原節子の気持ちを思いださせますね。

そして映画「東京物語」では省略されてはいましたが、戦死した息子は霊魂となり、妻である原節子の元を尋ねていたはずです。映画「母と暮らせば」では、そこもしっかりと描きました。

今、ラジオから「月猫」(歌: あさみちゆき さん)が流れてきました。なぜかエンディングテーマにぴったりな。

追記Ⅱ ( ことわざ ) 
2016/1/24 8:56 by さくらんぼ

futoomoidasu,konnnakotoba「江戸の敵を長崎で討つ」。

追記Ⅲ ( 基調低音 ) 
2016/1/24 9:25 by さくらんぼ

「すべてのものは二つで対になる」と言いましたが、対になっていたのは「靴」だけではありませんね。

映画の冒頭、モノクロでエノラ・ゲイの内部が映されました。小倉と長崎、目視とレーダー、プルトニウム型とウラン型、広島と長崎などが、想起されましたね。

それから、生者と死者、誕生と死、幸福と不幸、光(熱線や聖人も)と闇(闇市も)、角餅と丸餅、出会いと別れ、男と女、三角関係(恋人同士、あるいは母をめぐって)なども出てきました(すべてがきれいに当てはまるわけではありませんが)。

だから、やはり「すべてのものは二つで対になる」はこの映画の基調低音だったのでしょうね。


(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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