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#ネタバレ 映画「夢売るふたり」

「夢売るふたり」
2012年作品
アブノーマルになった純愛
2012/9/19 21:42 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

「人間最大の謎は、男と女」と、チラシにキャッチコピーが書かれていました。私は女心を描いた映画は苦手なので、この映画も少なくとも半分は理解不能かもしれません。

この映画は、ある夫婦の物語です。

最初のころ、この夫婦にも純愛がありました。

しかし、想定外の事態から、夫は不倫(アブノーマル)を犯したのです。妻は夫が不倫をした怒りもあるし、ちょうど店を借りるための金も欲しかったため、夫婦で結婚詐欺をすることにしました。つまり、夫に対して、好きでもない女性と疑似恋愛を強要(アブノーマル)して復讐をはかるのです。怖いですね。

同時に、密かに、それをながめて性的な興奮(アブノーマル)に妻は浸ることになったのです。たぶん、これは妻にとっても想定外の楽しみ。でも、途中からは、振り子の様に、妻の気持ちが、興奮と怒りとを、揺れ動く様になったのでした。

さらに、夫が「もっと金が欲しい」と詐欺にエスカレートしだしたのは、本当に金欲しさのためか、それとも快楽追及のためか、後者なら復讐が復讐にならない。妻の心は千々に乱れたのです。

つづいて映画の記号さがしです。

よく知られたところでは「包丁」がそうですね。あれは一般に「男性のシンボル」です。食べ物は接吻にもつながる口を満足させる欲望であり性的な記号にもなります。火事の炎も情熱であり性的な記号になります。大きなテーブルもベッドを連想させます。その他にもあるかもしれません。

そして、腐った魚、が唐突にでてきました。それを嫌がる夫と、強要する相手の男。料理を食べることが性的な記号なら、腐ったものを食べさせるのは、アブノーマルの記号なのでしょう。

そして、映画はクライマックスを迎えます。

映画のラスト付近で妻は包丁を持ち出しましたが、階段から滑り落ちてしまい、包丁を手放してしまいます。

妻たるもの、夫(包丁)の手綱はしっかりと握っていなければならないのに、手放してしまうと、想定外の事態に巻き込まれていきます。

結婚詐欺の映画ですが、相手は女とは限りません。男同士だって結婚詐欺がありえます。とうとう、夫はその領域にまで踏み込んでしまったのではないでしょうか。

映画のラストで出てきた子供は夫自身を表しているのでしょう。妻が階段から落ちた時に助けようと子供が手を出したのに妻は手を払いのけました。夫だと勘違いしたからなのでしょう。さらに女と違って男は何歳になっても子供だ、というのはよく言われることですから。

そして、子供(つまり夫)が興信所の男の背中を刺したというのは・・・包丁は男性のシンボルですので、この場合、同性愛の記号になりえると思うのです。

この夫婦も行き着くところまで行き着いたあげく、やっともとの鞘に戻るのでしょう。

ラスト、自由に大空を泳ぐ2羽のカモメらしき鳥にはいろいろな解釈ができそうですが、あれは出所後、純愛生活にもどった夫婦の姿で、夫の夢見る理想世界だと思います。包丁が「男性のシンボル」なら、空を舞う鳥には「自由」という記号が相応しいからです。

でも妻は空を見上げてはいませんでした。夫は相変わらず子供ですが、妻はしたたかにも、さらに成長して、さらなる何かを模索しています。やはり女は魔物!?です。

どなたかも言われるとおり、松たか子の表情のバリエーションがすごい。映画「四月物語」以来の彼女のファンとして、観なければならない一作でしたが、やっぱり初々しいストレートな純愛スタイルの方が好きです。

★★★

追記 ( 包丁の置き方 ) 
2012/9/21 21:22 by さくらんぼ

この映画で「包丁の置き方」を思い出しました。料理の途中で包丁を手放す時のルールのことです。

何年か前に料理教室へ通い、初めて「まな板上の、正しい包丁の置き方」というものがあることを知ったのですが、それは「包丁は、まな板の向こう端(一番奥)に、刃を向こう端(奥)にして、横置き」するというものです。そうすれば手も怪我をしにくく、また不用意に落として足を怪我する心配もないのです。包丁は危険なものです。だからこそ必要な基本ルール。それを事を思い出したのです。

これは女性には常識的な事かもしれませんが、たいていの男にとっては、料理教室にでも通わない限り知らない事なのです。でも夫は板前ですから、ちゃんと、それを実践します。何回かそのシーンが出てきましたが、尖がった包丁ともあいまって美さえ感じる所作でした。それから出張などで包丁を持ち歩く時も、さらしならぬ新聞紙に丁寧に包んでいましたね。

包丁が「男性のシンボル」ならば、包丁に対する所作の美は「貞操観念の堅実さ」を表す記号にもなるでしょう。夫はもともと、いわゆるプレイボーイなどではないことが、ここからも伺えます。

しかし、妻が包丁を持ち出したとき、彼女は血迷っていたのかもしれませんが、包丁をむき身のまま持って家から飛び出します。そして、階段で転び、包丁は落としてしまったのです。

さらに、あのとき包丁を探しもしなかった。「それが女というものさ」などと言われればそれまでですが、探せばすぐに見つかるものを放棄してしまったことに、妻の「丹念さに欠ける性格」も透けて見える気がします。

この、一本の包丁に込められた夫婦の、男女の想いの違い、は面白いと思いました。

ところで、何が言いたいのかといえば、前述したとおり、やはり妻たるもの、最初から夫(包丁)の手綱をしっかりと握っていることに専念しておくべきだったのです。妻が嫉妬という火種(小さな火種から大火事になるのは、店が火事になったのと同じ)から危険な計画を立てなければ、夫自身からはけっして危険な世界へ足を踏み入れることなど無かったはずですから。

追記Ⅱ 2023.11.2 ( 包丁の置き方② )

なんという番組かは忘れましたが、最近見たTVドラマで、包丁をまな板の正しい位置に置いていないシーンを見た事があります。あれもアリなのかもしえませんが、妙に気になってしまいました。


(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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