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20食目 嗜む程度に君が好き

職場の飲み会で「年頃の女なのにまだ独り身なのか。誰か良い人はいないのか。」等と言われることにも慣れてきた社会人6年目。
今どきそんなことを大声で言って恥ずかしくないのかと呆れながら愛想笑いで流す。いつものことだ。
私も社会人になりたての頃は仕事が嫌で嫌で仕方なかった。昔から絵を描くのが好きで、大学生の頃始めた同人誌を描くことだけが生きがいだった。それも仕事に追われそんな余裕はなくなってしまった。
それならさっさと寿退社しようと思い、出会いを求めてマッチングアプリを入れた。
それで知り合った男性と何度か食事に行ったりした。そこから関係をもったこともあったが、付き合うというところまでは行かなかった。
それが楽だし、楽しくもあった。
そのうち仕事にも慣れてくると、同人誌の作製をする余裕も出てきた。フィギュアを集めて飾り、それを眺めながら絵を描く。
そんなこんなで結婚する気はなくなり、慣れた仕事を惰性で続けて今に至る。

「最近入った新人なんかどうだ?シュッとしてて中々男前だろう。うちは社内恋愛OKだしな。それか俺みたいなおじさんが好きならいつでも飲みに行ってやるぞ。ダッハッハ」
うるさい酔っ払いだ。愛想笑いのしすぎで頬が痛くなってきた。
それに新人はどうか?だって。あんたは知らないだろうが、私はその新人とこの後2人で飲みに行くことになっている。

数時間前、新人の子から職場の飲み会の後、2人で抜けないかと誘われた。新人なのに全体の飲み会を抜けて、先輩女と2人とはすごい度胸だと思った。誘い口調は見た目通り手慣れたものだった。
その日はアプリの男と飲む予定もあったが放っておいた。そのせいで通知が頻繁に鳴った。
「彼氏っすか?」
「いや、違くて。あのー、マッチングアプリをね、最近ちょっとやってて。」
「え、マジっすか!どれ使ってます?オレだいたい全部入ってるんで分かりますよ。」
「ぜ、全部?」
「はい!やっぱどういう子と遊びたいかその日の気分によって違うじゃないですか!」
そこからアプリ講座が始まった。あのアプリは真面目な出会いを求めてる人が多いとか、あのアプリはワンナイト用だとか。見た目通りのチャラさだ。
「詳しいなー」
「大学の頃からやってるからでしょうね、なんたって学生は暇ですからね。学生の嗜みってやつっす。」
「どうりで飲みに誘うの慣れてるわけだ。」
「そうですか?でも、そう思ったのに誘いに乗ってくれたんすね!」
「うーん、まあ、今まで持ってないタイプだったしね?」
「え、じゃあこの後とかって?」
「うちこの近くだけど、来る?」
「その展開の早さ、嫌いじゃないっす」

飲み屋からタクシーで三、四分の我が家へ帰宅。新人をソファへ座らせ、
「ビールしかないけど、まだ飲む?」
「はい、ありがとうございます!部屋、良い匂いっすね!」
「ごめん、匂いキツくしないと不安でさ。香水好きでどんどん強い匂いになっちゃってて。はい、ビール。」
「ぶっちゃけ前から香水は思ってたんすよ、でも女子って感じの匂いで嫌いじゃないっすよ。ゴクゴク。」
「そう、なら良かった。これからしばらくこの家にいてもらわないといけないから。」
「え、」
飲んでいた缶ビールを床に落とした。
「あ、れ、手が、、あ足も、、固まっ、、」
「ふふっ、ちょうど君みたいな爽やか系の若い男のフィギュアも探してたんだー。アプリだとなかなか良いの見つかんなくて。前から君がちょうどいいなって思ってたんだよね。」

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