渋谷系なアニソンについて語り始め、やがてそれをやめたことについて語る③ “2013年のこと”


 2013年に出版された『リスアニ! Vo.12.1』内には、沖井礼二×神前 暁×北川勝利×ミトという4名の対談が収録されている。同年にリリースされた花澤香菜の1stアルバムの関連記事であるが、対談の中で、沖井礼二が「2013年に声優のポップスで起きているシーンの変化は、1991年の日本のポップス・シーンの変動を思わせる」といった旨の発言をしていたことを、今でも思い出す。

 渋谷系アニソンを聴き始めてから、2013年ほど興奮させられた年はなかった。

 永遠に愛すべきSerani Poji、そのコンポーザーであったササキトモコが、KONAMIの音ゲーコンテンツのために自身の持ち味全開で書き下ろした、日向美ビタースイーツ♪”恋とキングコング”が配信開始されたのが1月9日。

 片岡知子が作曲を手がけ、「パパパ」コーラスで幕を開ける鮮烈なソフト・ロック、”ドラマチックマーケットライド”(『たまこマーケット』OP)のシングルがリリースされたのが1月25日。

 北川勝利がプロデュースを務め、北川に加えて中塚 武、沖井礼二、カジヒデキ、ミト、矢野博康、宮川弾、神前 暁といった壮々たる作家陣が一同に揃った花澤香菜の1stアルバム『claire』が発売されたのが2月20日。

 4月10日には、花澤香菜と同時代の声優として、大きな人気を集めていた竹達彩奈もまた1stアルバム『apple symphony』をリリース。こちらのCDは、彼女のデビュー・シングルを飾った沖井礼二作の”Sinfonia! Sinfonia!!”などに、花澤香菜と同様の渋谷系要素もありつつも、トータルな印象としては溌剌としたガール・ポップ、あるいは王道のアイドル・ポップとしての魅力も満載だった。なお、花澤香菜と竹達彩奈のアーティストとしてのデビューは、前年の2012年であり、シングルという形ですでに断片的に楽曲を耳にしていたが、アルバムという形で聴くことで、両者の目指す音楽性が明確となり、その制作陣のプロデュース・ワークの一貫性には、感動すら覚えたものだ。

 7月24日では、Rhodanthe*が歌うアニメ『きんいろモザイク』のOP・EDシングルがリリースされている。EDの”Your Voice”は、中塚 武のソロアルバムにて、土岐麻子が歌唱していた楽曲のカヴァーだ。一体いかなる経緯にて本曲がアニメのEDテーマに選定されたのかは謎だが、あまりにも最高の選曲。2019年、北川勝利のソロライブにて、この曲のカヴァーが披露されたとき、ぼくは泣いた。”Your Voice”が、『きんいろモザイク』を経て、小沢健二”大人になれば”や、布施明”君は薔薇より美しい”に比肩する永遠のスタンダードになったことを確信する瞬間だった。
 余談だが、北川勝利がプロデュースした藤村鼓乃美のデビュー作にして名盤、『Summer Vacation』も”Your Voice”のシングルと同日にリリースされている。

 そんな刺激的、衝撃的なリリースが相次いだ2013年も終わる12月、ぼくがiTunes上にて作成し、浴びるようにリピートして聴いた同時代の渋谷系アニソンのプレイリストは、今でもblog上に記録として残してあるのだが(ココで見れます)、こんなすごい時代はそうそうないぞ、と今でも曲名を眺めるだけでも嬉しくなってしまう。
 
 今まで地下鉱脈を掘るようにして探し求めていた渋谷系アニソンが、話題のアニメのタイアップや、華々しくアーティスト・デビューを果たした声優のアルバムを通して耳に入ってくるのが、この上ない喜びだった日々。さすがにこのジャンルを熱心に探し始めて、3、4年は経過しており、90年代や00年代の知られざるミラクルなトラックを見つけ出すのには苦労するようになっていた頃だが、新譜として、ずっと自分が望んでいたようなサウンドを、次々に耳にできることで、黄金時代の到来のごとき高揚感に包まれた1年だった。

 そして2013年の終わりから、ぼくはまた一つのシーンを知って感銘を受ける。それが、同人音楽だ。

(続く)

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