わたしたちの好きな同人音楽

 新作ではないですが、遅ればせながら最近リピートしている同人音楽作品について、感想を書いていきます。
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魚座とアシンメトリー『プリマステラ』(2018/4/29)

魚座

 この作品はM3の会場で手に入れることが叶わず、boothで購入を。
 骨格は80’sのUKギター・ポップを思わせる簡素なバンドサウンド、”ジングル・ジャングル”なギターのカッティング。コンポーザーの掛川さんは根っからのロックのリスナーに違いないとぼくは想像しているし、その芯の強さまで感じるのだ。
 その一方で、あくまで主役は女性ヴォーカルであり、その楽曲はとてもメロディアスで、一種のセンチメントを帯びている。まるで、CooRieや、marble、橋本由香利といったアーティストがアニメ・ソングに提供してきた楽曲のように。その魚座とアシンメトリー(何て最高なサークル名!)の音楽性が結実したM-3”ステラブルー”の甘酸っぱさには、聴きながら何度も魂を揺さぶられている。
 例えば、やるせない仕事で疲弊して帰宅した平日の夜、眠いを眼をこすりながら深夜に放映されているTVアニメを眺めているとする。映像の中では美少女たちが、大きな事件は起こらないけれども、穏やかに流れる時間の中で、ささやかな日常を祝福している。そんな作品を眺めているとき、エンディングテーマにこのアルバムの曲が流れたら、とても素敵だと思う。何か自分が大切なものを忘れてきたような気持ちを思い起こしながら、自分はその曲に耳を傾けているに違いない。——————————————————————
V.A.『Why don't you eat MONACA?』(2019/4/28)

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 稀代の楽曲制作集団、MONACAを敬愛する有志たちが、楽曲を持ち寄り、完成させたCDが本作。世の中にトリビュート・アルバムは数あれど、アニメ/声優/ゲーム音楽制作をメインとするプロダクションをテーマにしたオリジナル曲集などは、そうそうあるものではない。
 MONACAの音楽性は幅広く、一言で言い表すことは不可能だが、コアとなっているのは親しみやすいポップ・ソングとしての強度、渋谷系を経由したコンポーザーたちならではの洒脱な楽曲といったところだろうか? 本作はMONACAコンポーザーたちへのリスペクトやオマージュが随所にあり、楽曲のいたるとことでニヤリとさせられるアレンジがいっぱいだ。
 ぼくがこのアルバムでグっときたのは、「好き」という気持ちをこうして、形にすることの大切さ。どんなサークルにとっても、演奏することも、歌うことも含め、それをCDというひとつのパッケージとして完成させることは、日常生活におけるただならぬ努力と時間・金銭的犠牲があってこそだと思うけれど、とりわけ他の誰も作ろうとしなかった極めて趣味性の高いコンセプトの作品を、こうして大勢の参加者を集めて形にするのは、並外れた愛情がないと不可能だろうから。もう解散してしまったアイドル・グループが言っていた、「真摯であること。正直であること。一生懸命であること」というメッセージが、このCDにはラブレターのような初期衝動と共にパッケージされている。
 最後にひとつだけ書いておきたいのは、シークレット・トラックのようにラストに配置された”HRKW Princess”という楽曲。広川恵一の持ち味の一つともいえるフュージョン風のバック・トラックに乗せて、「広川恵一に会いたいな」と何度となく歌われる本曲には、ユーモアに隠された本気さに、静かに感銘を受けてしまった。The Replacementsの”Alex Chilton”とか、Jonathan Richmanの “Velvet Underground”とか、Tony Boyの”I Like Flipper's Guitar”とか、ダイレクトなアーティスト賛歌って本当に好きなんですよね。
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フーリンキャットマーク『デリケートベリキュート』(2019/10/27)

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 フーリンキャットマニアの皆さん、こんにちは。これはApple Musicのサブスクリプション・サービス内でも聴くことができるフーリンキャットマークの2019年作。全てとまではいかなくとも、初期からたくさんのアルバムを聴いてきたサークルだが、本作の素晴らしさ、中でも長いキャリアを通して確立された音楽性の成熟度には特に心を打たれてしまった。
 フーリンキャットマークといえばお洒落なギター・ポップ、ジャズ風ポップを音楽的な柱としている印象が強かったが、そのカテゴライズからはすでに越境。ハウシーなR&Bの”メロディック・ラヴ”、必殺のA&M風ソフト・ロック”セイフク制服宣言”、口ロロさえ想起させる”アキシブターンアラウンド”のヒップホップ要素など、音楽性の幅は領土を広げつつあり、今やそれらが渾然一体となりキュートでポップでワンアンドオンリーな帝国が構築されている。そして何より、どの曲もキュートなヴォーカルとメロディが良い。初期のROUND TABLE、あるいはboys & girls togetherやRoboshop Maniaといった先達がクリエイトしてきたジャパニーズ・ネオアコ・サウンドに比肩する”海岸線と君とモンブラン”は、謎のゲスト男性ヴォーカリストのスウィートな声質も特筆もので、本曲はフーリンキャットマークのギター・ポップ・サイドの中では屈指の名曲だと思う。
 ぼくは今、サークル史上最高傑作と感じたこの『デリケートベリキュート』に続き、『よこぬまくん』『ライバルはストロベリー』という2020年作を少しづつ聴き始めているのだが、あたかも『Bellissima!』から『Bossa Nova 2001』に至る頃のPIZZICATO FIVEの快進撃を幻視してしまうほど、現在のフーリンキャットマークにはサークルとしての勢いを感じてます。
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