その夜の侍(2012年)

画像1 その夜の侍は監督・脚本を担当した劇団THE SHAMPOO HATの赤堀雅秋が上演した同名の舞台劇を映画化した作品。主題歌はUAによってカバーされた名曲「星影の小径」。低い落ち着いた「静ぅか〜にぃ〜、静ぅか〜にぃ♪」がまた沁みる。
画像2 主人公の中村健一(堺雅人)は鉄工所を営む大人しくて平凡な中年男。5年前にひき逃げによって妻を亡くしている。物語の中で繰り返し使われる「健ちゃん?健ちゃーん?!」から始まる亡き妻(坂井真紀)が最後に残した留守電の内容は、健一の健康を心配してプリンを食べるなというメッセージであった。
画像3 そのひき逃げ犯が木島というチンピラ男(山田孝之)で、剛くんはその車に同乗していた友人を演じている。ホントどーーーーでもいい話をしながらかったるそうに運転中、健一の妻を轢いてしまう。
画像4 剛くん演じる小林英明は倒れた健一の妻を助けようと駆け寄り、病院に連れて行こうとするが、木島に制されてできない。そんな状況でも木島は全く臆することなく、放置して気にも留めていない様子。どこかの家庭から漂ってくるさば味噌煮の匂いを嗅いで、「今日どっかの家さば味噌だな…」と呑気に言ってのけるようなサイコパス野郎なのだった。
画像5 妻が亡くなってからずっと、遺骨を置いたテーブルの傍に座り、妻の洗濯物の抱きしめては匂いを嗅ぎ、事故当日に妻が録音した留守電を再生しては聞く生活をひたすら繰り返している。プリンを禁止する妻とのコミュニケーションを断ちたくない気持ちからか、取り憑かれたようにプリンを食べ、心配した妻の兄(新井浩文)が同僚の女性を紹介しても、全く心を開こうとせず、見合い話を先に進めることを頑なに拒み続けている。
画像6 刑期を終えて出所した木島に対し、健一は差出人不明の脅迫状を送り続ける。それは妻の5年目の命日に木島に復讐をするというもの。その執着心を鬱陶しがり、気味悪がるものの、木島は反省の色も見せず、生活を改める気などさらさらない徹底したクズ野郎であるw こういう役は山田孝之の十八番でしょうww
画像7 剛くんはタクシーの運転手で、出所した木島に仕事を斡旋してやり、木島は研修中の身となっていた。
画像8 タクシー会社の同僚の気弱なおっさん(田口トモロヲ)に「バーベッキュー♪バーベッキュー♪」と歌いながら灯油をぶちまける木島。完全に頭逝かれてる。。
画像9 揶揄い、怯える様子が可笑しくてたまらないらしい。鬼畜そのものw
画像10 そんな風にしょっちゅう揶揄われて暴行されるてるのに、木島の周りからは人が去っていかない。あるねー、こういう人間関係。善悪は置いといて、なんだかカリスマ性持ってる人っているんだよなあ。友人の小林もこのおっさんも、怯えたような表情を見せるのに、なんか側にいてあげちゃうんだよね。ストックホルム症候群とか、共依存とかの類の心理状況でしょうか。
画像11 通りすがりに目に付いた警備員の由美子(谷村美月)に難癖をつける木島。彼女の財布を取ってトイレにおびき寄せる。ホントどこまでもクズ野郎だな。。
画像12 多分木島にトイレで犯されただろう由美子。しかし不思議なことに彼女は「なんかいいですね、人がいるって…」なんて言って、木島の側を離れない。不思議とそこには怯えた様子だけじゃない愛着みたいな感情が見られて、ちょっと優しい気持ちにすらさせられてしまう。この映画には「繋がりたい」というキーワードがある。
画像13 ホテトル嬢役で安藤さくらが出ていて、カラオケで絢香の三日月を歌う。何気ないシーンだけど、歌詞もなるほどなーと思うし、彼女が「暇なの」という大事なキーワードを言う。他愛のない話がしたいとか、平凡とは全力で築き上げるものとか、映画を通して出てきたひとつひとつの言葉がずしんとくる。被害者が一瞬にして奪われてしまった平凡な日常を送ることは、かけがえのないことだったんですよね。
画像14 いよいよ復讐当日、2人は対面する。「こんばんは〜〜〜!!!」「………こんばんはーーー!!!」お互い心の中はビビリながらも、一定の距離間まで歩み寄って向かい合う。木島は健一に対し、他の人間には見せたことがないような怯えた表情を見せます。普段は思いつきで発する汚い言葉で人を平気で傷つける木島が、彼なりにものすごく頭を使って言葉を選んでいるのも印象的。
画像15 健一はお前を殺して俺も死ぬと息巻いていたのに、他愛のない話がしたいとか言い出す。そして「この物語は終始君には関係のない話だった」と憑物が取れたように木島を突き放す一言を言う。木島は回路が壊れたような顔をして、もみくちゃの泥仕合に散々付き合う。多分木島は誰も自分の心をえぐってくれなかったから寂しかったんだと思う。なんかこの対決シーンが清々しかった。
画像16 健一は5年の歳月をもかけて憎くて殺したくてたまらなかった木島を殺せない(殺さない)まま、激しい雨風の中の復讐劇は泥まみれで終了。このあと帰宅して妻からの留守電を消すのである。やっと前に進める。妻が2度と帰ってこない不条理さも、それでも平凡が続いていく皮肉も全て飲み込むラストがめちゃくちゃ良かった。評価が高くないのが不思議なくらいの良作に出会えたのも剛様のおかげかな(笑)

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