スマイル(2009年)

画像1 スマイルはフィリピン人と日本人のハーフとして生まれた早川ビト(松本潤)が人種差別、傷害事件、偏見からの不利な立場の裁判など様々な障壁を乗り越えていくストーリーで、放映と同年に制定された裁判員制度への問題提起なども盛り込まれた社会派ドラマである。外国人に対する陰惨な差別や暴力的なシーンの描写で視聴率はそんなに伸びなかったようですが、私は隠れた名作と言っても良いドラマだと思います。主題歌は椎名林檎の「ありあまる富」。絶妙なタイミングで入るこの曲がまた良いのです。
画像2 信仰宗教の教祖である父親が事件を起こした影響で、幼い頃から犯罪者家族として世間から冷たい視線を浴び続けてきた経緯から失声症となった三島花(新垣結衣)は、本屋で万引きを疑われたところをビトに助けられる。ビトに想いを寄せており、引っ込み思案そうな外見とは裏腹にジェスチャーや筆談で積極的にアプローチする。差別を嫌い、ビトを守るために自らの危険を顧みない勇猛果敢な性格。この時のガッキーが本当に可愛いんです。多分ガッキー女優史上、1番キラキラしてます笑。花はビトが務める町田フーズの経理に就職し、ビトと再会します。
画像3 綾野剛氏はほんの数秒だけですが、ビトが過去を回想するシーンで不良グループのリーダーである林誠司(小栗旬)に暴行されるチンピラの役で出演しています。めちゃくちゃ情けなそうな顔ですが、なかなかの名演でした。
画像4 「フィリピンにフィリピン言って何が悪い!」ってビトを侮辱したことが原因で、林からボコボコにされて、最後は倒れて「すいません…すいません…」って許しを乞う超絶カッコ悪い役です笑。
画像5 林はビトに仲間にならないかと誘います。日本国籍であるにもかかわらず、ハーフであることから過去に数々の差別を受けてきたビトは、偏見なしに自分を受け入れてくれた林に心を許し、不良グループに加入します。それ以来、ビトは差別を受けることが無くなりました。しかし、不良グループ同士の抗争の主犯格であった林は傷害殺人事件を起こし、ビトはその罪を着せられてしまいます。
画像6 7年の服役を終えて人生をやり直すため、仮釈放中は真面目な生活を送っていたビトの元に再び林が姿を現す。「人殺しのビ〜〜〜トちゃん!」と言いながら近づく林がめちゃくちゃ怖かった…。林はビトを呼び出し、ビトを助けようと林に立ち向かった花を暴行します。それに憤ったビトはついに殺人を犯してしまう。過去には自分を差別する者から庇ってくれた林の口から「このフィリピン野郎が!」という言葉が出た時、ビトの中で何かが崩れた。この時の林役の小栗旬のチンピラ演技は本当に身の毛がよだつほど凄いです。
画像7 花はマスコミからの追及や衆人環視の状況がトラウマとなっていたが、ビトを救いたい一心で勇気を出して法廷に立ちます。失声症で声を出せないため、林殺害事件で自分が見た真実を、筆談で精一杯伝えます。
画像8 物語の終盤、実刑か否か…裁判のシーンはまさに見どころです。一般市民から選ばれた裁判員たちが素人目線で裁判に参加し、思い思いに意見を交わしながらビトの運命を決める重い一票を投じるのです。ビト側の弁護士伊東一馬(実は彼も在日韓国人で差別を受けてきた経緯があるという設定)を中井貴一が、その事務所の後輩で町村フーズの娘である町村しおりを小池栄子が演じています。過去に林に着せられた冤罪事件も争点となっており、それをどう考えるかでビトの量刑が左右する、とても緊張感あるストーリー展開です。
画像9 刑務官の柏木役の勝村さんの演技がまた渋くて良いんですよね。実際はこんな温かい関係が築かれるのかはわかりませんが、柏木はたくさんの犯罪者を見て来た感覚から、ビトが根っからの悪人ではないことを見抜いていたようです。
画像10 このドラマにはいろんなメッセージが込められています。1番強いのはやはり外国人に対する差別や偏見の問題ですが、もう1つとして裁判員制度の是非についてです。3日間の裁判への参加とその後の審議を経て判決が下されます。審議は全会一致を目指しますが、決まらない場合は多数決となります。最終的に商社勤務の男性役の忍足修吾が投じた1票で、ビトの死刑が確定します。おそらく脚本を手掛けた宅間孝行氏は、この重い1票の責任を負う裁判員制度の意味を、国民一人一人に考えてもらいたい意図をドラマを通して表したかったのだと思います。
画像11 ちなみに最終回とそのひとつ前から脚本家が篠崎絵里子氏にチェンジしました。ビトの死刑判決があまりに可哀想だと視聴者側からのクレームが殺到し、書き換えることにしたらしいのです。この判断に納得がいかなかった宅間氏は第9回を最後に脚本を降ります。私個人としては、たとえバッドエンドでも宅間氏の脚本のままで見たかったです。裁判員裁判の重さを伝えるためのメッセージが歪められたようにも思いますし、見る人を選ぶこの重いドラマに視聴者への配慮やご都合主義は要らないと思いました。最終回は希望に満ちた結末でしたが、少し残念です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?