Mother(2010年)

画像1 Motherは日本テレビ、水曜ドラマ枠で放送されたドラマ。母性をテーマに坂元裕二が書き下ろしたオリジナルドラマは大ヒットし、2016年にはトルコで「ANNE」というタイトルでリメイクされたことを皮切りに、世界35カ国以上に展開された。
画像2 北海道の室蘭で産休の代理教師として赴いた鈴原奈緒(松雪泰子)は、クラスで妙にませた口調の道木怜南という生徒(芦田愛菜)に嫌悪感を抱きつつも彼女の体に痣を見つけ、親から虐待を受けているのではないか?と不審に思っていた。奈緒のその勘は的中。道木仁美(尾野真千子)には自宅を自由に出入りする交際中の男がおり、家に入り浸ってはゲームに明け暮れ、怜南はネグレクト状態となっていた。奈緒は雪が降る夜にゴミ袋に入れて捨てられた怜南を間一髪のところで救い出す。第一話から波乱の幕開けで、毎回次が楽しみになる大好きなドラマです。
画像3 剛くんは怜南の母親の恋人の浦上真人役で出演。ロン毛で虚な瞳、怜南を可愛がったり一緒に遊んでいるようなフリをして、実際は虐待したり弄んだりしているシーンが恐ろしく不気味でした。怜南は母親に本当のことが言えず、「道上さんと一緒に遊んでたんだよ!」と明るく振る舞います。怜南に人形のようなワンピースを着せて口紅を塗るシーンは当時も話題を呼び、ブレイクの足掛かりとなった印象です。その衝撃シーンの気持ち悪さに母親が発狂し、怜南はゴミ袋に入れて捨てられたのです。
画像4 奈緒は夜遅くまで親に放っておかれ、食事もまともに与えられていない怜南を自宅で保護する。前職では野鳥の研究をしていた奈緒が鳥の話をすると、怜南は目を輝かせて一緒に鳥を見に行きたいと言います。その健気な姿を見て、何とかして彼女を救い出さなければ!と怜南を誘拐し、継美(つぐみ=鳥のツグミが由来)と名付け、怪しまれないように男の子の格好をさせて2人で室蘭を脱出します。ドラマのラストに最高のタイミングで流れるhinaco(現、琵奈子)の「泣き顔スマイル」がまた良い曲で、毎回涙無しには見られませんでした。
画像5 奈緒は継美を連れて東京に向かうが、新聞やニュースで怜南が行方不明になっている事件が大々的に報道されているのを知り、不安になって宇都宮で途中下車する。さらに悪いことに怜南がトイレに行きたがり、荷物をうっかり外に置いた隙におろしたばかりの貯金全額を盗まれる。奈緒は実の母親に捨てられ、養護施設に世話になった過去がある。施設の桃子園長の元を訪れてしばらく滞在させてもらうが、施設は既に閉鎖されているため、やがて桃子とも別れの時を迎える。東京に着くや会社を営む実家の母(高畑淳子)にとりあえず金を借りたが…。
画像6 継美と生きていくために東京で仕事と家を探す奈緒。奈緒が用事を済ませる間に、継美は玩具店や図書館で望月葉菜(田中裕子)という年配の女性と偶然接触する。陳列商品や本を落とすそそっかしい葉菜を面白がって「うっかりさん」と呼ぶ継美。実は葉菜は奈緒を生んだ母親で、すれ違った際に奈緒に気づき、2人を陰から見守っていたのだ。しかし母親の顔を覚えていない奈緒はそれに気づかず、ただ継美の面倒を見てくれる親切な人として接している。奈緒はただ、いつ自分たちの身元が割れるかという不安の中、その日を生きるために必死なのである。
画像7 室蘭では怜南(継美)は海難事故に遭い、死亡したとされていたため葬儀が執り行われた。葉菜は奈緒と継美にただならぬ事情があることに勘づいていたが、新聞で事故の記事を目にし、継美がその行方不明になった子供だと察する。奈緒は葉菜が自分を捨てた母親であることを知らされ、憤る。少しでも我が子の力になりたい葉菜は、奈緒のために何十年も貯めた貯金を渡すが奈緒は受け取らない。母の気持ちはありがたいが、なぜ自分を捨てたのか?どうしても母を許せず、拒絶してしまうのである。
画像8 奈緒と継美は実家の鈴原家で世話になるが、家族は継美が奈緒の娘だと思い込み、いつまで経っても転校手続きをしないことを不審に思っている。理由はもちろん継美が偽名であること、誘拐した経緯が明るみに出るのを懸念してのことだが、訳あって本名を名乗れない子供を学校に入れる手段を葉菜から教わり、継美は転入することができた。新しい生活がやっとスタートした矢先、継美(怜南)の母親が娘のメモ帳に書かれた番号に電話する。それは鈴原家の自宅の番号であり、たまたま電話に出た継美は母親からと知って困惑し、「ママ…」と応答してしまう。
画像9 継美が生きていたことを確認した母親の仁美は、警察に事情を話して怜南(継美)を取り戻そうと画策を始める。一方、鈴原家では奈緒が継美を虐待から救い出すために誘拐した事実を知り、愕然とする。奈緒は家族に迷惑がかからぬよう、鈴原家から戸籍を抜くために離縁状を差し出す。継美は自分が家族の不和を招く原因となっていることに心を痛め、奈緒に置き手紙をして室蘭に戻ろうとしたところを奈緒に連れ戻さる。そして、葉菜は自らが営む美容室に2人を住まわせることにした。
画像10 葉菜の元で3人の静かな暮らしが始まる。継美は葉菜の誕生日に何かサプライズをしてお祝いをしようと提案し、3人は遊園地に出かける。継美がプレゼントに作ったビーズの首飾りを葉菜の首にかけると、葉菜は泣き出してしまう。「一度は手放した実の娘にもう2度と会えないと思っていたのに、こんな風に3人で暮らせて幸せすぎる」と。しかし、そんな幸せな時間も束の間、仁美が上京して葉菜の美容室を突き止める。仁美は押し入れに隠れている怜南(継美)に優しい声で呼びかける。芦田愛菜ちゃんの子供ながらに迷う表情の演技が本当に秀逸でした。
画像11 仁美は昔よく作っていた棒ドーナツ(棒ナツ)を思い出し、「ママが棒ナツ作るよ?怜南、出ておいで〜?」と継美の気を引く。継美は襖を開けて出て来るが、力のない眼で「ママのことは好きでも嫌いでもないよ。もうママじゃないからね。」と仁美を遠ざける。仁美はショックを受け、自分から怜南を奪った奈緒に怒りの矛先を向け、必ず怜南を奪い返すと奮起する。仁美も怜南の父親である元夫に裏切られ、ギリギリの精神状態で壊れてしまった過去が回想シーンで明らかになる。浦上真人と離れられないのもそんな寂しさからだったのかもしれない。
画像12 もう後には戻れないと覚悟を決めた奈緒は、葉菜から聞いた闇取引で戸籍を買い、これから先3人が家族として合法的に生きられる道を選ぶ。指定の信用金庫から入金をするために3人は伊豆へ出向くが既に警察の手が回っており、奈緒は戸籍を手に入れる寸前で未成年者略取・誘拐罪で逮捕される。
画像13 明るい未来を願って伊豆を訪れた3人は、奈緒が逮捕されると同時に離れ離れになってしまう。奈緒は執行猶予の判決が下り、出所。継美は室蘭の児童養護施設「白鳥園」に引き取られた。鬼気迫る松雪泰子の逃走シーン、命をかけて子を守り抜こうとする田中裕子の母性、芦田愛菜ちゃんの悲痛の叫び、どの演技も素晴らしく、めちゃくちゃ心を抉られる号泣回でした…。
画像14 道木仁美もまた、保護責任者遺棄罪で逮捕された。怜南が残した水色のマフラーに顔を押し当てて泣くシーンも胸に刺さります。このドラマは「母性」と「母」たちの物語なんですね。坂元裕二さん、男性なのにこんな複雑な心理をよく描けるなあと感心してしまいます。奈緒は留置場にいる時も、釈放後も施設で離れて暮らす継美のことが頭から離れませんでした。そして、携帯電話は継美からの不在着信でいっぱいになっていました。継美は施設にある公衆電話から何度も何度も毎日掛け続けていたんですね。
画像15 葉菜は骨髄性白血病気がいよいよ悪化して倒れ、入院する。葉菜は夫を殺して捕まったから、奈緒を手放さざるを得なかったと奈緒に話していた。しかし、実際は母に暴力を振るっていた父親を殺したのは奈緒で、それを庇って葉菜が服役した事実が明かされる。葉菜は奈緒を苦しませまいと、その事実を奈緒に伝えません。継美からの電話に出た奈緒は、元気にしているのか、毎日どんな風に過ごしているのか、久々に継美と語り合う。この母娘の会話がまた泣ける。継美の「もう一回誘拐して!」というセリフ最高。これこそ坂元裕二脚本の会話劇の真骨頂だ!
画像16 継美は施設でも友達を作り、元気に過ごしていた。しかし、母親である仁美の親戚から送られてきた仕送りの中に現金を見つけて、それを手にして東京まで1人で奈緒に会いに来る。病床に伏していた葉菜も、最期は継美に会うことができた。葉菜は奈緒が幼い頃と同じように継美と奈緒の髪を切る。このシーン良かったな。会いに来てくれた継美を手元に置いておくことは法に触れてしまう。どうすることが正解なのか…本当に見ていて辛い。奈緒は涙ながらに継美を抱きしめたあと、元いた施設に送り出します。うーー、切ないー(涙)
画像17 奈緒と離れたくないと、施設に戻ることを嫌がる継美をなだめ、室蘭の美しい風景の中で2人は別れる。「継美が20歳になったら読みなさい」と、奈緒は最後に手紙を渡す。もう思い出しただけでまた泣けて来ちゃう…。ドラマであることも忘れるくらいこの切なすぎるシーンに引き込まれて、2人の幸せを心から願っていました。
画像18 葉菜が飼っていたインコの入った大きな鳥かごを、途中で休憩を入れながら一生懸命に運ぶ継美。振り返ることもしない、小さくなっていく継美の力強い後ろ姿に涙が止まりませんでした。大人になった継美かな?と思われる女性が喫茶店である女性と会っているシーンが出てきます。きっと継美は奈緒と再会できたんだなーと安心してほっこりするラスト。2人の思い出のクリームソーダも効果的に使われています。何度でも観たくなる、そして何度観ても泣いちゃう大好きな作品です!

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