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長々と長々と昔の合唱部の活動について書かれたnoteです

Day14これまでに夢中になったコト
いしかわゆき著『書く習慣』より
(1ヶ月チャレンジ)

女子校の部活動

合唱部でした。朝起きて最初に、のどの調子を確認しました。今日は良いな、今日は少しひっかかるな。3年生になって部活動引退後の朝、のどの調子を確認していて、ああ、今日は、歌わないんだ、今まで毎朝、確認していたんだと気づいて、ひとつ、涙が落ちました。

パノラマ絶景、音楽室

音楽室は、美術室や視聴覚室などを集めた細長いビル棟の10階。エレベーターを降りて重い防音扉を開くと、両側全面窓、普通の教室の2倍以上の奥行き。広々していて、左手にグランドピアノがあって毛足の短い絨毯敷じゅうたんじきです。上履きのまま使います。

帰りのホームルームが終わると、音楽室に集合します。そこで、スカートの中にジャージズボンをいて、スカートを脱ぎます。上はブレザーの制服、下はジャージの、変な格好。柔軟体操と腹筋、背筋、呼吸をするためです。

シンプルに10回ずつ、伸ばしたり体を起こしたりします。呼吸は仰向けに寝て、お腹に手をあてて、『4拍吸って4拍吐く』『4拍吸って8拍吐く』『1拍吸って8拍吐く』『1拍吸って16拍吐く』など4種類くらい4回くらいずつ『呼吸』します。歌う前に、呼吸にたくさん時間をかけます。

パートリーダーがひとりだけグランドピアノの前に立ちます。部員は45人前後、全員、上制服、下ジャージで音楽室に仰向けです。変なの。ソプラノ、メゾ、アルトの3人のパートリーダーが日替わりに立ちます。メトロノームをグランドピアノに乗せて、on、offしながら

「4拍吸って4拍吐きまーす。さんはい。いち、に、さん、し、」と適当にメニューを決めてカウントします。

目を閉じると、パノラマ絶景音楽室。
17才の友だちの声が聞こえます。なつかしい。

発声練習『みまめ』

呼吸が済んだら立ち上がって、いよいよ声を出していきます。ピアノは弾ける人が日替わりで担当します。不思議と学年に2、3人います。

ド・ミ・ソ・ミ・ド
あ・あ・あ・あ・あ

じゃん(ピアノ)

ド#・ファ・ソ#・ファ・ド#
 あ ・  あ  ・ あ ・  あ  ・  あ

じゃん(ピアノ)

『あ』で半音ずつ上がって、下がってくる、あれです。『い』、『え』、『か』、『ま』などいろいろな発音を試します。母音を変えると、口や頭の内側で響き方が変わって面白いです。人によって『お』が好きとか、『い』が得意とかありました。

ド・ミ・ソ・ミ・ドのほかにもドレミファソファミレドや、などあります。私が好きだったのは、『みまめ』です。

ソ•ミ•ファ•レ•ミ•ド
み•い•  ま  •あ•め•え

Mi』の『M』は口を閉じる記号です。口内の天井から頭の内側に響きやすい発音でした。ピアノに合わせて「みい、まあ、めえ」と歌っていると、気持ち良いのです。あと、「みい、まあ、めえ」と、45名で斉唱、まじめに半音ずつ上がっていく現象そのものが、ちょっとシュール。

基礎練習『コンコーネ』

発声の次は、基礎練習です。コンコーネという教則本を使います。50曲の中から、ふたつかみっつ歌います。曲名も歌詞も無く、番号で呼んで『あ』『お』などで歌います。すべてピアノ伴奏譜がついています。弾くのは、3番ならあの子、7番ならこの子と、なんとなく決まっています。持ち曲の多いひと、簡単なのを積極的に担当するひと、難曲もいけちゃうひとなどがいます。

どの曲も基礎連らしい単調さがありません。1番の歌の旋律は、音のドレミの配置を確かめるような基礎練習らしいものですが、伴奏が変化に富んでいます。

歌い始めにドーレーミーファソーと音程が順に上がっていくのに、伴奏は順に下がっていきます。

下りたところで4分音符を刻みだす、
最低音ベースの推進力。
音楽を前に前に進めます。

5小節目から歌の旋律は、上がりきって高い音から順に、ミーレドーシと下り始めます。ピアノ伴奏は逆に上がっていき、頂上で軽くターンして、最後に旋律と同じ音程でぴったり重なってまとまります。気持ち良い。

コンクールは『グロリア』

コンコーネが終わると曲の練習です。コンクールには、宗教曲を歌いました。

Gloria栄光 in excelsis Deo
『グロリア インネクチェルシス デオ』
『天のいと高きところには神に栄光あれ』

『Gloria』から始まり『Amen』に終わる、ラテン語の有名な83語くらい(今かぞえた)の詩です。いくつも旋律をつけられて歌い継がれています。

in terra 地上に pax平和を『イン テラ パクス』
miserere憐れんで  nobis我らを『ミゼレーレ ノービス』

これらは詩に出てくる語です。そういえば、『イン テラ パクス』という合唱曲があります。

違う旋律、同じGloriaを2年継続して歌いました。器楽曲のように、華やかにぶっぱなして歌い上げるものもあれば、ゆっくりといろいろなハーモニーを試すようなものもありました。

コンクール以外にも、地区の合唱祭や交流会などでいろいろ歌いました。ラテン語やイタリア語は読みやすかったです。つらかったのはフランス語。1曲しか歌ってないせいもありますが、まず読めなくて全部カタカナ振り、鼻濁音が再現できませんでした。

定期演奏会は『キャッツ』

あの有名なミュージカルから、顧問の先生が選曲して、簡単な劇をはさみながら発表しました。3年生のとき、私たちの学年は10人だったので、先生が全員に配役してくれました。

鉄道猫、年を重ねた娼婦猫など有名な曲のある猫たちのほかに、娼婦猫をいじめる猫と物語の進行をする司会猫というオリジナル猫が作られました。

歌唱力に難のあった私は、ソロがなくて1番セリフの多い司会猫でした。ずっと私のターン。お客様アンケートから好評だったのは、いじめ猫。娼婦猫を打ちのめす「臭いわ!汚いのよ、あっち行って!」のセリフが気持ち良いくらい辛辣しんらつでした。生徒の心理や人格を考慮した先生の配役は、見事だったとおもいます。

年末の『だいく』

ベートーヴェン『よろこびの歌』

第九だいく』ベートーヴェンの交響曲第9番です。近くの音楽大学が、地元高校生を年末の舞台に乗せてくれるのです。しかも、大学にも招いて合唱指導をしてくれました。

レッスンの日までに、ドイツ語を読めるように楽譜に書き込んで、歌詞の内容を頭に入れ、音取りを済ませて歌えるようにしておきます。

ここで流行するのが、『とろろいも』もしくは『サッポロラーメン』。巻き舌を練習するのに唱えます。ラテン語もR を巻き舌するので、コンクールの練習でも『とRRいも』は流行するのですが、巻き舌はできる人はすぐできます。できない人はコンクール終わってもできなくて、また年末に『サッポロRRラーメン』を唱えてがんばります。できない人はそれでもできない。私です。すん。

本番は、CD100万枚売るような歌手がコンサートをするホールです。オーケストラが第1楽章から演奏しています。第4楽章から舞台に上がります。1番後ろなので、ひな壇はかなり高く感じました。歌い始めるまでの待ち時間、至近距離の後ろ側からオーケストラを聞いています。密集した合唱隊、高所で狭い足場、真っ白な照明と熱でめまいがして呼吸が浅くなります。ぼうっとしてきて、もう無理かなというところで、ソリストたちが立ち上がって『合唱』が始まります。

ちょっと普通じゃない気分から入る『合唱』。オーケストラと照明に煽られ続けて感度が上がり過ぎています。

みんながみんなを大切に、心を寄せ合う、よろこびの歌。世界は分断されているけれど、本当は敵なんてどこにもいない。どうか、みんな愛し合おう。争いをやめて、このくちづけを全世界に。

オーケストラとソリストたちの音楽に圧倒されたまま、かつて経験したことのない興奮状態で心の底から平和を祈り、歌い、歓喜しました。10代で連れていってもらった演奏する側の第九は、異次元でした。


学園祭の『ハレルヤ』

学園祭のアンコール曲は『ハレルヤ』に決まっていました。毎年、これを最後に歌って3年生は引退します。ピアノ伴奏が華やかで難易度高め。これを弾いた友だちは、普段から大地讃頌も堂々とこなして、自分の結婚式ではショパンを披露して来客をもてなしました。

ハレルヤは『神さま』を讃える歌です。
king of kings
lord of lords
『この世で1番の王様』とくりかえします。
and He shall reign
for ever and ever, Hallelujah!
『この神さまの国が永遠に在りますように』

個人的には仏壇を管理する家に育ち、1神教に縁が薄く、婚姻も神前でしています。ハレルヤを歌っていて神さまを褒めるのでは気がのらないので、神さまを『音楽』に変換しました。

そもそも華やかなハレルヤ。気持ちを晴れやかにしてくれる音楽です。

大切な仲間たちにハレルヤ
音楽がずっと在りますように

そう(都合良く)歌って、部活動を引退しました。

いつも音楽室で昼休み

高校は厳しい進学校で、私は成績順のクラスになじめませんでした。3年生のときは合唱部の友だちもいなくて、いつもひとり、音楽室でお昼を食べていました。音楽室は両側全面窓で広くてだれもいなくて、ほっとしました。

夏休み前には合唱部の友だちにソロランチがばれて、夏休み明けには昼にかわるがわる音楽室に来てくれるようになりました。引退したあとも、卒業まで音楽室でお昼を食べていました。ときどきひとりで。

グランドピアノのまわりで

お昼といっても菓子パン1個とジャワティーなので、すぐ終わります。ひとりのときは本を読んでいましたが、ピアノが弾ける子がお昼に来ると「今日レッスンなんだよ」と言って革命や愛の夢を練習するようになりました。

ピアノを見ているのは楽しかったけれど、本人はおもうように弾けてないみたいで大変そう。そのうちみんなグランドピアノに寄りかかって、なんとなく歌が始まりました。

部長が学園祭前に一人で抱え込んで、半泣きでみんなに怒ったり、気持ちのすれ違いで気まずくなったり。お昼休みの音楽室には、みんな来たり、来なかったり。歌ったり、それぞれ勉強したり、本を読んだり、リビングのようでした。

今も心に残るパノラマ絶景音楽室
グランドピアノに寄りかかって
歌って笑い合った日々

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