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Vol.8 このビジネスモデルの骨格にあるもの

 調べれば調べるほど、こりゃダメだ感が募り、見積りを送ってきた1週間後に「コスト的に合わない」ということで、正式にお断りメールを送付。担当者からは、「コスト面の希望を聞かせてもらうことは可能ですか。印刷費の高騰などで、どこまですり合わせることが可能かわかりませんが、この作品を本にするために、できるところまで頑張りたいです」といった返信がきましたが、もはや紙代とかそんなレベルの話じゃない(笑)。
 「最低でも半額」とか言ってみようかと、一瞬、思いましたが、もし仮に「じゃあ、それで」となったとしても、そんなに吹っ掛けられてたのかって頭に来ちゃって気持ちよく仕事なんてできないだろうし、やめました。
 
 紙代が値上がりしていること自体は事実で、他の出版社の方と話をした時にも、紙代の話題は出ましたが、「本というのは、価格を表紙に入れて刷ってしまうので、基本的に刷った後は価格を変えることはできない。だから、数年先のことも見越して価格設定をしておかないといけないんです」との話で、そもそも「来年、紙代が更に上がりそうだから、なるべく早く契約して」ということ自体、論理的におかしい訳です。
 つまるところ、そもそも増刷することなど考えておらず、さっさと紙が安いうちに刷ってしまいたいということなのでしょう(その方が出版社の利益もより大きくなるので)。
 
 お断り後、他のところから出そう、と決めて、色々と動き出した中で、このビジネスモデルの骨格がさらに見えてきたので、以下にまとめてみました。
 
①作者の思いを商売の種に?
 応募する際、ちょっと不思議に思ったのが、絵本出版賞の応募作品に添付する応募票に作品制作の思い、活動の履歴、審査員へ伝えたいこと等を600字以内で記述する「自由記述欄」があったことです。活動歴、に関してはわかりますが、「思い」や「審査員に伝えたいこと」なんかも書かせるのか、と。
 受賞式での主催者の話や、その後に案内される「えほんのがっこう」に関する話の中でも「編集者に興味をもってもらうには」とか「必要なのは絵本への情熱」とか、やたらと熱意や思いにフォーカスした内容が多く、「作品そのものだけでなく、そういった“作者の思い”も含めて受賞作品を決めているのかな」と、改めて感じました。
 その後、編集者とやり取りして思ったのは、「本を出したい」という“思い”の強い人なら、お金を出してでも本を出すのでは、という計算もあるのではないかな、ということ。良い作品を後押ししたいならば「作品のみ」で評価すればいい訳ですからね…。
 
②心地よいトークでデメリットを覆い隠す
 これは、自費出版系の会社であればここに限ったことではないですが、やたらと作品を褒める。「是非、本にしたい」、「絶対行けると思う」、「一緒に良い本に仕上げていきたいです」等と、出版に対する編集者の熱意を語る。そして「2作目からは作家さん扱い」、「既に2作目を出した方、海外での出版を果たした方もいる」等、“明るい未来”を提示する。
 しかし、「自費出版ではありません」と言うものの、会社側が言うところの「共同出版」の費用は著者持ち。「自費出版でない理由」は「プロの編集者と意見を出し合いながら、良い本を作り上げていく」し、「宣伝・広告の費用もかかる」からということなんですが、そんなの出版社であれば当たり前のことなんですよ。普通の出版の場合、出版社が自らその費用を負担した上で一連の業務を行う。それを著者から金を取って行う、というのは、やはり「自費出版」以外の何物でもない訳で、それを「出版化推薦」とか「出版を支援」とか「自費出版ではなく共同出版」とか、あれこれキラキラした言葉で飾り立てているだけ、というのが実情かと思います。
 
 また、「出版不況のこの時代、著者も自分でどう売っていくかの戦略を立てることが大切」というのはごもっともだと思うんですが、売れ、と言いながら、「たくさん売ってもあなたの儲けはありませんけどね」という事実は絶対に言わない。詳しく聞こうとすると、「ああ、そこはまあ、ご相談」とか、「2作目、3作目を出せば…」とか、直球の質問はかわして別の方向の話に持っていく、という…。これはかなり「騙しのテクニック」的な匂いを感じるというか、かなりしっかりしたマニュアルで訓練されてそう……と心理学専攻の私としてはしみじみ感じた次第です。
 
③考える暇を与えないよう、契約を急がせる
 なぜ、こんなに契約を急がせるのか。ここまで読んでくださった方なら、想像がつくと思うのですが、結局、「考えれば考えるほど、胡散臭さが漂ってくる」条件なので、向こうとしては「色々突っ込まれる前に、早く契約させてしまいたい」というのが一番の理由としてあるのだと思います。
 さらに、そこに加え、契約を急がせる背景には「出版権」の問題が絡んでくることも、その後、調べる中でわかってきました。この出版権に関する話は、次回、まとめたいと思います。


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