水の

アカウント名を「荒野」から本名に変えました。 文章を書くことが大好きな27歳男です。…

水の

アカウント名を「荒野」から本名に変えました。 文章を書くことが大好きな27歳男です。 連絡先:aquak20800870@gmail.com

マガジン

  • 大都会の孤独

    noteを始めてから書き溜めた39本のエッセイ、短編小説を1冊のマガジンにまとめました。 【収録作品】 売れない役者をやっている役者について書いた『僕の叔父さん』、都会で一人暮らしをする寂しさについて書いた表題作、誰にも読まれない小説を書き続ける男の話を書いた『三文小説家の肖像』など。

  • 隙間飾

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最近の記事

就職と老犬

 今月の始めぐらいに次の就職先が決まり、転職活動を終了した。3月から、大阪にある建機リースの会社で財務経理職として働くことになる。先週末には家も探しに行き、会社にほど近いなんばのシェアハウスに入居することにした。  新生活の目処が立って一息つく。働き始めまで1ヶ月近くあるので今はこれまで行きたかった場所にぽつぽつと旅行したり、仕事で必要になるだろうと思って簿記の復習と経理仕事の内容についてちょっとずつ勉強している。  2年あまり一緒に暮らしていた両親は、家内唯一の若手であ

    • 死の効用

      死の効用  冒険家や登山家の著書を読んでいると、よく「生の実感」という言葉が出てくる。私のみる限り、この言葉は「人は死の淵に立つことによって、初めて自分が生きている実感を得られる」という文脈で使われることが多いようだ。酸素が平地の三分の一しかないような高山や、遭難したら最後、誰からも見つけてもらえないような辺境で活動することは、なるほど確かに「死の淵」に立つことに直結している。そして文明社会で生きている人間は、豊富な食べ物と高度な医療技術、頑丈な住居に囲まれながら、死が巧妙

      • もう少しふてぶてしく生きること

         前職を辞めてから、3年間経った。公認会計士という結構難しい資格の勉強を続けながらニート生活を楽しんできたのだが、昨年の試験に合格できなかったので重い腰をあげて1月から転職活動を始めた。  幸い簿記1級を取ることはできたので、空白期間は長いと言えども書類は通る。でも面接は慣れない。そもそも私はあまり外交的な性格ではないし、ずっと会計基準や六法と睨めっこする生活を続けてきた身分からすると、きっちりと組織の中で実績を積んできた人事担当者や経理マネージャーとの面接はこちらのコミュ

        • 闇の立身出世

           先日起きた社会学者・宮台真司に対する傷害事件のニュースを見ながら、昨今たびたび言及されるようになった「無敵の人」についてぼうっと考えていた。  「無敵の人」として社会に大きな影響を与えようとする人物にとって、「人生の成功」とは、仕事で成功してお金儲けをすることでも、アイドルと結婚することでもなく、「犯罪」なのだと思う。つまり特定の人物をターゲットにした場合は、彼(女)を殺害もしくはそれに準ずる損害(脅迫による活動停止など)を与えること、不特定多数の人物をターゲットにした場

        就職と老犬

        マガジン

        • 大都会の孤独
          39本
        • 隙間飾
          22本

        記事

          空気人形

           喫茶店で時間を過ごしていると、周りから漏れ聞こえてくる会話の断片から、私の想像のつかない人生が垣間見える。そして同時にそれらの殆どとは死ぬまで関わりがないのだろうということにもうっすらと気付かされる。  たとえば私はおそらく死ぬまで美容室の店長を務めることはないだろうし、バイトをしながら音楽活動に勤しむこともないと思われる。しかし、隣席の人が「レコーディングがあるからって休み入れてもらおうとしたら、またクビになっちゃったよ〜」とぼやいていたら、ごく僅かな瞬間しか目の当たり

          空気人形

          言葉のお弁当

           ちかごろ日記代わりにnoteを書いている。  始めた当初はライターの仕事がしたくて、できるだけ面白い文章を書こうと腐心していたが、今になってみると本当にはライターになりたくなかったのだな、と思う。隅っこでこうやって気楽に書いているのが楽しい。書くこと自体はたぶん、好きなのだ。そこだけは嘘がない。  文章を書くのが面白いな、と始めて思ったのは高校時代のクラス日誌だった。出欠欄や連絡事項の他に「自由欄」というのが設けられており、そこに日常思ったことをダラダラと書いていたら先

          言葉のお弁当

          クリスマスソングのBGM、禁止で。

           クリスマスソングが嫌い。  自分がクリスマスを楽しみにできるほど恋愛経験が豊かではないというのもあるのだけど、決まった時期に決まった需要で消費される音楽にあんまり関心が持てないというのが何よりも大きな理由である。  11月下旬から12月25日にかけての街は、付和雷同を極限まで煮詰めたような様相を呈している。カフェ、薬局、デパート、ラーメン屋とどこを通ってもクリスマスソングが流れている。どこへ行ってもみながみな決まったクリスマスソングを一定期間エンドレスに流し続けている状

          クリスマスソングのBGM、禁止で。

          奇人変人の図鑑

           坂口恭平の『ズームイン、服!』という本が好きで、折に触れ読んでいる。  十年ほど前に雑誌「POPEYE」で連載されていたもので、一体どこから見つけてきたのか、不思議な生き方をしている人に坂口恭平がインタビューを行い、彼らの服装に着目しながらその魅力を伝えていくエッセイ集だ。そこには長い海外放浪の末に猟師になり、『僕は猟師になった』を書いた千松信也や、インディーズアパレルブランド『途中でやめる』のデザイナー・山下陽光など、今ではちょっとだけ有名になった人たちも登場する。

          奇人変人の図鑑

          同じ世界を見る練習

           これまで自分のことを、社会不適合レベルの人見知りだなあと思ってきた。じっさい人が数人集まるとほとんど何も喋らずにみんなの話を聞いていいることの方が多いし、その気になれば会話に入れる自信があるかというとそうでもない。あんまり面白い話もできないし、自然な相槌も打てない。とくに異性相手の会話は絶望的で、ただでさえ面白くないトーク力が間違いなく半分以下に下がる。  このコミュ障っぷりはおそらく19歳ぐらいの、大学入りたての時に同級生から「面白い顔をしているね」と言われたことと、お

          同じ世界を見る練習

          水増しせずに生活したい

          自分を取り繕ってしまうのが、私の最も良くない部分だと思う。 人によく思われようとしてやってもいないことをやったと言い、やってしまったことをやってないと言う。そんなちょっとの歪みから取り返しのつかない事態になったことが、これまで沢山あった。 できれば自分を変に水増ししたり、目減りさせた状態で他者と接するよりも、等身大の自分でありたいと思うのだ。 でも、いざ等身大のままで過ごせるようになったとして、その等身大の自分が予想以上にしょうもなかったとわかってしまうのが怖い気もする

          水増しせずに生活したい

          単純な工夫

           「ながら食べ」を止めた。  これまで人の目を気にしないでいい時は、kindleを読んだり、ネットサーフィンをしながらごはんを食べていたのだけど、いつもどこか不全感が残っていた。食事は平らげたけど味はあんまり覚えていないし、食事の味を犠牲にして読んだ記事や本も、読んだ先から忘れてしまうか、いたずらに心をざらつかせて終わることが多かった気がする。結局、いろんな種類の不安が中途半端な時短に走らせているのかな、と思った。だから、止めた。  そうして心がけるのは「いただきます」と

          単純な工夫

          気楽な楽器

           一昨日の金曜日の夜にふと思い立ってクラシックギターを買った。  名古屋の錦にあるYAMAHA。買ったのは「CS40J」という小さなクラシックギター。多分子供や手の小さな女性が使うモデル。自分にはサイズが小さすぎるかな、と思ったけどこれじゃないと嫌だった。大好きな青葉市子がこのモデルを愛用しているそうなのである。この人の真似をしたかった。  ギターを受け取ってから店を出て、車に戻ってから我慢しきれずにソフトケースからギターを出して爪弾いてみた。ノイズ混じりの、だけど木で包

          気楽な楽器

          紙魚を飼う男

           ある寂れたアパートに、読書好きの男が一人暮らしをしていた。彼は本を読むのは好きだったが、書くことはあまり好きではなかった。真っ白な原稿用紙を前にすると、とたんに何も思い浮かばなくなるのだ。しかし人並みに功名心を持ち合わせてもいたから、いつか傑作と呼ばれる小説を書き上げて、世間に自分の名前を知らしめてやりたいとも考えていた。  いつか作家になって売れてやると思ったまま、十年が経っても、男は何も書かなかった。いや、原稿用紙1枚にも満たないような断片を書きつけたことは幾度もあっ

          紙魚を飼う男

          些細な感謝の伝え方が分からない

          (「noteのcakes」アカウントにて、2021/3/20に書いたものを転載)  最近、困っていること。それは街ですれ違う知らない他人のちょっとした親切に対して、謝意を表す言葉が見つからないことだ。  例えばエレベーターに乗った時。私の他にもう一人、知らない人が乗っているとする。先に乗った自分はエレベーターの奥の方にいて、もう一人が操作板の近くに立っている。ここで、二人とも同じ階で降りるとなった時、多くの場合、操作板の近くの人の方が「〈〉」ボタンを押して私が降りるのを待

          些細な感謝の伝え方が分からない

          大都会の孤独

          (「noteのcakes」アカウントにて2019年4月14日に書いたものを修正して転載) ①4月から住んでいる光が丘は、都営大江戸線の端っこにある街だ。 新宿から、電車に乗って約30分。駅から地上に出ると、いかにもベッドタウンといった様相の町並みが現れる。 どの部屋もちょうど同じ広さになるように隅々まで計算し尽くされたような白塗りの公営住宅が何棟も林立し、一階の公園では深夜以外であればいつでもボール遊びや自転車を走らせながら仲間との会話に興じる子供の声を聴くことができる

          大都会の孤独

          フラペチーノは涙の味

          (「noteのcakes」アカウントにて、2019年5月25日に書いたものを画像を削除して転載) ダイエットがはかどってしゃあない犬の毛並みが冬は長く、夏は短くなるように、人間も冬には体温の保持のために脂肪をつけるが、それらは夏には削ぎ落とされてしまう。異様に暖かかった昨日、体重計に乗ってみると何と60kgを切って59kg台に突入していたのには驚いた。自分の身長は181cmと日本人にしては高い方なのだが、仄聞するところによると(って一応書いてみるが、本当はちょっと洒落た言葉

          フラペチーノは涙の味