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下戸の女性を酔わせる方法

私はお酒が飲めません。
コンディションの良くない時など、採血前のアルコール消毒でも皮膚が赤くなります。
洋酒の入った市販のお菓子もダメですね。最初の一口で体が反応します。
製菓店の洋菓子なら、洋酒入りでも不思議と大丈夫なんですが。

ただ、外見的にはすごく飲みそうに見えるようで、男性からは必ず、

「実は一升瓶抱えて飲んでそう」

などと言われます。

「よく言われるんですけど、本当に飲めないんです」

と言うと、女性陣は「え~、意外!」「すごく飲みそうなのに!」と一斉に声を上げます。さらに、

「こんな小さいグラス一杯で寝ちゃうからね」

と付け加えると、みんなで「え~! 朝霧さん可愛い~!」と言ってくれるのが、単なるお約束だとしても(普段「可愛い」なんて言われることのない私としては)ちょっと嬉しかったりします。

ただ、そんな話も最初だけで、その後は私がウーロン茶を飲もうが熱い緑茶を飲もうが、彼女らは一切気にしません。
うるさいのは、どちらかというと男性の方ですね。

「弱いってこと? アレルギーとかじゃなくて?」
「ちょっとは飲めるの? まったく飲めない?」
「お酒の味がダメなの? 嫌いなわけじゃないんでしょ?」

まぁ、ここまでは許容範囲です。だけど、

「練習したら飲めるようになるよ」

これを言われた瞬間、どんなに好きな人だったとしても100年の恋も冷めますね。
なぜ自分が飲めるようになったからって、みんなそうだと思うのでしょうか。考え方が薄っぺらいと言うか、なんと言うか。
本気で「練習したら誰でも飲めるようになる」なんて思っているとしたら、その人は自分本位で単細胞な上に、無神経で想像力も欠如しているのだから仕方ないと思って、スルーすることにしていますが。

それに比べるとまだマシですが、ちょっと辟易するのが「なんとかして飲ませたい」タイプの男性。
こういう人は、とりあえず「全然飲めないの?」と聞いてくるので、「グラスに半分くらいなら飲めるかな」と答えると、

「じゃあ、ちょっとだけでも飲んだら?」

ここまでなら、わからないでもありません。
お酒の席に一人でも素の人間がいるというのはイヤなものでしょう。
だから、体調が良ければ少しでも飲むようにはしています。
だけど、

「朝霧さんって、酔うとどうなるの?」
「朝霧さんの酔ったところ見てみたいな」

ここまでくると、100%下心です。
彼らはわざわざ途中から席を隣に移動してきて、しかも、やたらと体を密着させてくるので困ります。

ただ、下心にも2種類あるんですよね。
「とにかく酔わせてお持ち帰りしたい」という性急なタイプと、いきなりどうこうしたいわけではなく「とりあえずガードを緩めて、もう少し仲良くなりたい」という多少控えめな下心。
前者はその場でガンガン口説いてきますが、後者は好意を示す程度で露骨な口説き方はしません。中には、お酒が入らないと緊張して声もかけられない、という人もいます。
こういう人はなんとなく憎めませんね。

だけど、アルコールがダメな人間としては、飲まずに済むのであれば極力飲みたくないわけです。
20代半ばの頃、会社の飲み会で「飲めない」という私に、上司が聞きました。

「ご両親も飲めないの?」
「はい、両親も兄弟もみんなダメなんです」
「飲むと気持ち悪くなる?」
「ほんの少しなら大丈夫ですけど、そのラインを超えるともうダメですね」

私がそう答えると、上司はその場にいた全員に、

「朝霧さんみたいな人は遺伝的に体内の酵素が少なくて、アルコールを分解できない体質なんだ。こういう体質の人は急性アルコール中毒にもなりやすいし、本当に危険だから。みんな、絶対に朝霧さんにはお酒飲ませちゃダメだよ!」

と、注意を促してくれたものです。
あれは嬉しかったですね、上司がすごく頼もしく見えました。

そして、これはつい1年ほど前のこと。
仕事仲間の一人に、私が尊敬して止まない大好きな人(Aさん)がいます。

「今日は電車だから、飲んでもいいんでしょ?」

そう言われて少し飲む気になったのは、たまたま隣の席にAさんがいて気分が良かったせいもあるのでしょう。
グラスのビールを半分ほど飲んでフワフワした気分になっていたら、

「大丈夫?」

と、Aさん。

「ほとんど飲んでないのに、眠くなってきちゃった」

私が言うと、Aさんは、

「もしかして、本当に飲めないの? いつも車だから飲まないんじゃなくて」

と目を丸くした後、

「じゃあ、これはダメだ。こっちの方がいい」

と、ビールが入ったグラスを遠くへ移動させ、目の前にウーロン茶のグラスを置いてくれました。
さりげなくこんなことされたら、お酒飲んでなくても酔っちゃいますよね。

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