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「もっとよくなる」

先日一緒に食事をした、少し年下の男性。Mさんとします。
仕事関係の人で、食事をしたといっても二人ではなく、もうひとり男の人が一緒でした。こちらはGさん。

どういう話の流れだったのか、不意にMさんが言いました。

「朝霧さんは、多分もっとよくなりますよ」

一瞬無言になる、私とGさん。そして、

「Gさん、今のどう思います?」
「いや、今のはちょっと朝霧さんに失礼ですよね」
「ですよね!」

Mさんは悪びれる様子もなく、

「え、なんで失礼なんですか?」
「え、だって今のは褒めてないでしょ?」
「うん、絶対褒めてない」

負けじとMさん、

「え、褒めてるでしょ」

挙句の果てに、

「だって、ぼく正直なんで」

受け取り方にもよるのでしょうけれど、言われた張本人である私と、第三者であるGさん、どちらも「失礼」だと感じたのですから、やっぱり褒めてはいないと思うんですよね。

なんだか、ちょっと面白くなってきて、

「これから年とる一方なのに、どうやったら今よりよくなるっていうんですか」

責めるふりをしても、

「いや、40代はまだまだこれからですよ」
「髪型かなぁ。私、ちょっと前までロングだったんですけど」

と髪の毛を触ってみせるも、

「いや、それはそれでいいと思う」

さらには、

「スタイルを維持しているのはえらい」
「声のトーンもいい」

と、たいして興味もなさそうにそっぽ向きながら褒めてくれたのですが、どうすれば「もっとよくなる」のかについては、なんのアドバイスもありません。

「でも、それ正解かもしれない。私、女子力低いんですよ。肌の手入れも髪の手入れも化粧も嫌いだし、この服も借り物だし…」

そうなんです。普段きれい系の服を着ないので、仕事でちゃんとした服装をしなければならない時は、レンタルした服を着ているんです、私。

「もうちょっと女子力高かったら、私、絶世の美女だったかも」

ふざけて言うと、Mさんはお酒を飲みながら、

「うん、間違いないっす」

翌日も仕事で3人一緒になったのですが、お酒がダメな私とGさんに対し、かなりの量を飲んでいたMさんは、この時の自分の発言をひとつも覚えていませんでした。
Mさん、こんなこと言ってたよと教えてあげると、

「え、ぼく、そんなこと言ってました? え、上から?」
「かなり上からでしよね、Gさん」
「うん、上からだったね」
「でも、それ褒めてるからいいじゃないですか」

シラフの状態でも、「もっとよくなる」発言を誉め言葉だと言い張るMさん。

確かに、若い女の子相手に言うなら『将来いい女になるよ』という意味に捉えることができるし、化粧っ気のない子に言うなら『素材がいいね』という意味になるでしょう。

でも、40半ばになって、フルメイクでいちばん気合入れている時に会って「もっとよくなる」というのは、どういうことなのでしょう。
そりゃ、注射打って若返ればもっとよくなるのかもしれないけど。
そこまでする気はないし。

そういえば、前の晩。
何度となく40代、50代の女性の話が出たのですが、そのたびにMさんは、

「すごくキレイな人で、現役で雑誌のモデルしてて。ホント美魔女」
「ヨシノさんも相当、美魔女ですよね、いつも体のライン出る服着て」
「ああ、〇〇さんね。あの小ギレイな人ね」

などと言って、Gさんから、

「美魔女は褒め言葉じゃないからね」
「それ全然褒めてない」
「『キレイ』でいい、『小』はいらない」

と、注意されていました。Mさんはあくまでも「褒めてますよ」と言い張っていましたが。

多分、一言多いだけで、彼は彼女らのことを本当に「きれいな人」だと思っているのでしょう。
ただ、その余計な一言の中には明らかに「年齢の割には」というのが透けて見えるのです。
私も一度だけ「美魔女」と面と向かって言われたことがあるのですが、まぁ、あの時の嬉しくなかったこと。恥ずかしかったこと。
なんだか、「頑張ってる」って言われているみたいで。

そう考えると、

「朝霧さんはもっとよくなる」

という言葉の中には、なんとなくポジティブな響きがあるようにも感じます(褒め言葉だとは、今も思っていませんけど)。

そんなに気合入れていないけど、いいセンいってる。

中年になったら、それくらいの評価がいいのかもしれないなと思った出来事でした(かなりのポジティブ思考です)。



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